49話 卑劣な奥の手
「ゲブ…………ゴぉ……!!」
「思い知ったかモルディ! これに懲りたら、私達に危害を加えるのをやめろ!」
私の拳を腹に打ち込まれ、目を真っ赤に充血させながらヨダレを垂らしたモルディ……
致命的なダメージを与えたかと思ったが、流石は10大勇者の一人。
忌々しそうに私を蹴り飛ばしたモルディは、地に転がって苦悶の表情を浮かべたまま、不可解な挙動を起こした。
「おの……れ――オイ!」
「――――?」
私ではなく、明らかに後方の者へと向けて振り上げられた左腕。
それが何を意味するのかを、私は程なく知る事となる――
「本当に……本当に良いのですねモルディ司教っ!」
「黙れぇ、とっととやらねぇか神父ぅう!!」
「ぅ……うううっ! アーメン!」
背後でひしめく信徒の群れの中で、神父は懐から取り出したボタンを押した。
「え――なに?!」
「茶番は終わりだぁ……白狼ぉおお!!」
次の瞬間、私を取り巻いた無数のテレビカメラが、固定砲台へと変形した――!
「え、ええっ?! あのテレビカメラ全部が仕掛け……マズい、逃げ場が――」
「もう遅ぇよ白狼――!!」
――私を包囲した数多の砲台より、強烈なレーザー光線が放たれて私を照射した。
「ウウッ?! アア、アアァアア!!?!」
「痛むかぃ白狼ぉ……そして動けねぇだろぉお。コイツはテメェ専用に開発した、“対白狼超分解レーザー照射弾”だぁあ」
激しく明滅するレーザー光線が、私を赤い光の中に閉じ込めた。恐らく一介の人間だったならば、一瞬で微粒子レベルにまで分解されるであろう未知の光線が、周囲に並んでいたテレビカメラの数だけ私に向けられる――
「コレ――?!! ヤバ……うぅぁああ?!!」
「チッ……全世界に俺の勇姿を見せ付ける計画がオジャンじゃねぇかぁぁ、この俺に奥の手まで使わせるたぁぁ、誤算だったぜぇぇ」
――ヤバい……これ、マジでヤバい……!
力の流れを全身にまとって無かったら、もうとっくに死んでた。
なんとかしないと……このまま黙ってもがいてるだけじゃ、ただ死を待つだけだ!
「うぅ……! ウウウウっ!」
「……流石は“白狼”の肉体といったところかぁあ」
――痛い、苦しい、痺れる! 前が見えない、体が溶ける、肉と骨が分解されていく……!
でも、でもでもでもでも!
このまま殺されるだけなんてダメだ……!
「超分解レーザーの集中砲火をモロにくらってぇ、身動きするだけで異常なのによぉ……フックク」
勝利を確信しているのか、不敵に笑い始めたモルディは、一歩一歩と前へ踏み出し始めた私に相対する。
「そこで……待っでろ……モル、ディ……!!」
「窮鼠猫を噛む……でも俺は油断をしねぇよぉお? テメェのイカれ具合は嫌というほどに見てきたからなぁあ……ここは万全を期させてもらうぅ」
「モルデ……ィ……っ!!」
モルディが頭上に掲げた指をパチンと鳴らす。
すると後方の信徒達が、何かを引きずって前へと歩み出して来た。
「――っ!! ……オマエ……何処まで!!」
……彼らが強引に引っ張り出してきた存在を視認したその瞬間、私はモルディの狡猾さと、卑劣さを痛感するしか無かった。
「安心しろよぉ。こいつらは全員、お前を庇い立てた反逆者なんだからよぉ」
……テレビカメラを全てオフにし、全世界への生中継を遮断したのも全て
――これが目的であったのだ。
「動くんじゃねぇよぉ……そこで黙ってぇ、体が溶け落ちるのをジッと待っていやがれぇぇ、フッククククッ」
「モルディ…………っモルディ――!!!」
いま私の前に繰り広がるは、信徒たちによって首筋に短剣を突き付けられた、見覚えのある数多の町人であった……