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44話 成長した両者。決戦前日


   *


 来たるモルディとの激闘まで……残り1日。


「……ようやくここまでこぎつけたぞ、高嶺(たかね)の花『涼風蘭(すずかぜらん)』さんにお近付きになる為に文武両道にパラメーターを割き、剣道部副主将、生徒会副生徒会長の地位を確立した……実質的に俺が彼女の右腕である事は自明の理だ!」

「ほう、学園生活の楽しいイベントをスキップし、学問と運動に時間の大半を費やしたか……少しはわかって来たようだな」

「だがしかし、やはり蘭さんは筋金入りの優等生。部活と生徒会の運営に余念が無く、群がる男は全て一蹴(いっしゅう)。それでこそ高嶺の花といった所だが、いざアプローチをかけるとしたら、どう切り込むべきなのか……」

「慌てるな。慌てずとも、機は必ず訪れる……彼女の全てにおいてナンバー2の座を得たお前の強みは、まさにそこにある」


 せんべいを食べながら私達を見守る面々……


「私達の安らかなる日々も明日までですか……」

「いや、白狼も強くなった。きっとなんとかしてくれんだろ」

正義(ジャスティス)は負けないよ」


 ――――


紆余曲折(うよきょくせつ)もあったが、中止予定であった修学旅行の実行を先導し、生徒たち念願の京都旅行を実現したぞ」

「校長の反対を押し切り、よくぞやったな。これもお前と蘭さんの奮闘のお陰だ」

「修学旅行もいよいよ最終日……俺はこれまで蘭さんと、部活動や生徒会役員としての行事でしか関わって来なかった」

「高校生活も3年目、これが最後の修学旅行……進学先も違えたお前たちは、程なく(たもと)を分かつ事になる」

「俺たちの間には、妙な戦友感こそあったが、それをお互い口にはせずに、一定の距離感を保ち続けて来た」

「……」

「だが今日は違う! 今日こそ俺が三年間温めてきたこの思いを、彼女に告白する」

「ほう……タイミングとして、確かに絶好に思える。ここまでよく我慢したな。蘭さん攻略の糸口は、まさにその忍耐力にある。己の誠実さを虎視眈々(こしたんたん)とアピールし続け、ここぞというタイミングを逃さない……非常に苦しい攻略対象だった筈だ」

「つのる思いを心に押し留め、俺は今宵、夜の日本庭園に彼女を呼び出す事に成功した」

「ここが、これまでの苦労の集大成。言っておくが『ちょめちょめメモリアル』に救済措置などはない。ここでの選択肢を間違えば……わかっているな?」


 緊張のラストシーンへと、ゲームが進行していく……


『どうしたんだクルミ……こんな夜更けに私を呼び出すなんて』

『すみません蘭さん。でもあなたに今日、言わなければならないことがあって……』

『言わなきゃ……いけないこと? それはなんだ、しばらく生徒会の企画もない筈だろう』

『それは……』


 手に汗握る展開。蘭さんはまだ、これからクルミが一世一代の告白をしようとしている事に気付いていない。

 ……いや、これまでの人生。一度も恋愛をせずに文武の向上に(はげ)み続けた彼女に、そんな予想はつかないのだろう。

 だがしかし、学校行事の大半を終えた今、卒業を目前にして、彼女を縛っていた任は解かれた。今彼女は、紛れもないまでの一人の女の子なのだ。……クルミはこの日、この時の為だけに、高校生活の三年間を捧げたのだ。


「クルミ……いけるか?」

「ああ……ここで確実に仕留める。でなけりゃ俺の三年間はなんだったんだ」


 いよいよ現れる、明暗を分かつ運命の選択肢――

 そしてクルミが選択したのは……


『これまで僕は、三年間あなたを支え続けてきました』

『ああ、そうだな。本当にお前が居なかったらと思うと、ここまでの事は実現出来なかったと思うよ』

『でももう……僕たちのこの関係は終わってしまう』

『卒業……か。本当にお前には世話に――』

『――違う!』

『……クルミ?』


 頷き合った私とクルミ。ハンカチを噛んでTV画面を見守るオーディエンスたち……


『これからも……この先も。あなたを支えられるのは、僕しかいません!』

『……っ』

『……そして僕を支えられるのもまた、アナタしかいません』

『クルミ……それはまさか』


『そうです。僕はあなたが好きです。ずっと前から。ずっとずっと、あなたの事だけを見ていました』


 ――まさに純愛。

 これほど真っ直ぐで、純粋なラブが他にあり得ようか……?

 涙が……熱い涙がこぼれて止まらない。

 見守る私たちと同じように、その目元に光るものを見せた蘭さん……

 彼女の返答はもちろん――


『…………これからも、よろしく頼む、クルミ』


 感動のBGMと共にエンドロールへと突入した画面。歓喜に打ち震える萌島(もえしま)家――


「ついに『ちょめちょめメモリアル』全ヒロイン制覇……ぅっ」

「よくやった。これでお前も恋愛マスターだ」

「OB!」


 固い握手を交わした私とクルミ――


   *


「力の流れのコントロールと出力は……まぁなんとか形にはなっただろう」

「これでも精一杯……集中を途切れさせたら、一瞬で解けちゃうんですけど」


 クルミのまとう光にはまるで叶わないも、なんとか全身に薄い光をまとう事には成功した私。


「あの、モルディと戦う上での注意点っていうか、なんかそういうのないの?」

「ああ? 適当にやってりゃあんな奴、狩り殺せんだろうが」

「殺さねぇんだよ」

「まぁそうだな、アイツはガンナーだから張り付いてインファイトで叩き潰せ」

「うーん定石だな」

「ただし、アイツは目的のために手段を選ばない奴だ。姑息(こそく)な手を打ってくる可能性は高い」

「そうしたらどうすれば……」

「あ? 速攻でぶん殴って黙らせればいいだろが」

「もういい、その時は自分で考える」


 息を吐いて私との距離を空けていったクルミ。何をするのかと眺めていると、少女が頭上に掲げた腕に、強い閃光が走る――


「んぇ?!!! なんだそ、そそそそれはッ!」

「勇者らしく、最後に必殺技でも教えてやるよ……もっとも、この技の100分の1でも再現できたら十全だけどな」

「光の――腕!?」


 クルミの腕にまとう形で、光の巨腕がそこに完成されていた。生白い腕に覆い被さるようにして、巨人の腕はまばゆい光を解き放ちながら、少女の挙動を再現している。

 そこから放たれるエネルギーの強大さは、まさに災害か何かを目前にしているかのようでもある。


「昔に巨人族の天使をぶっ飛ばしてな。コイツはその時ぶん取った副産物の一つだ。お前の体にも、これを行使する権利が残っている筈だ」

「あわ……あわわわあぁああっ」


 クルミが腰を落として構えると、光の巨腕も拳を形成していった――

 ――いやちょっと待て、なんで構える。何をしようとしていやがる!


「まずはコイツの威力を、身をもって知るところからだ――!」

「ハアァア!!? 死ぬ死ぬ、死ぬに決まってんだろうがそんなの――」

「力の流れを全身に行き渡らせりゃ、すぐには死なねぇから安心しろよ!」

「――ヤァアアアアアッッ!!!!」


 荒野に上がる高い土煙――

 衝撃に揺れる大地と、衝撃波のような突風が荒ぶ。

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