36話 このカス共と運命共同体?
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…………見覚えのある。
……天井と。
……例えようのない、馴染みの香りが。
……ずっと、共にあって。
いつしか、抜け出し時がわからなくなってしまった、堕落の繭に戻るように。
「ハ……っ」
私に知覚された――――
飛び起きた先に、目尻をしょぼつかせた風香ちゃんの顔があった。
「白狼……」
「……風ちゃん……ここは、私の……家?」
「白狼――ッ!!」
「痛っ!! いたただだ!!!」
どうして風香ちゃん泣いてるの? 何で私は家で寝てるの?
密着した胸の感触を楽しむ暇もなく、全身に走る痛みが、私におぼろげに思い起こさせてくる――
そうだ……私は、『銃』の勇者モルディに……
「う――――!」
「白狼、大丈夫!?」
あの恐ろしき男の顔が、眼前にフラッシュバックして嗚咽する。けれど空っぽの胃からは何も出てこない。ただ恐怖にわななく全身が、ガチガチと私の奥歯を鳴らせて止まらなかった……
「私は……モルディにやられて、その……あれ――」
「みんな!! 白狼が起きた!」
混乱した記憶をまさぐりピースを整える……だけどどうしたって、奴と一緒に爆炎に飲まれた先が思い出せなかった。
「風ちゃん……私、どうなったの? あれから何日経ってるの?」
グルグルに包帯を巻かれた全身を見下ろしながら、布団の上に落ちた掌を広げると、そこにおしり星人の亡骸があった。
「3日だ。お前がパラディン後藤とこの家に帰って来て、もう3日も経ってる」
「3日、そんなに? その間私はずっと寝ていたの?」
「そうだ、本当にすごい傷だったんだぞ! 全身にひどい火傷を負い、銃弾が何発も体を貫いてた。本当に、目覚めたのは奇跡なんだ!」
「……」
「まさか、よりにもよってモルディ司教に鉢合わせるなんて……それを踏まえても、今意識がある事は奇跡と言っていい」
ひどく心配した様な風香ちゃんの顔が私を見つめる。目の下に深いクマが出来ている。
私が眠っていたというこの3日間。風香ちゃんが私の面倒をずっと見続けていたんだ。
……でもどうして、私の首に掛かった懸賞金を狙う彼女は、意識のない私を聖魔教会に突き出さなかったのだろう。
「うおおお、白狼が起きたんだど!」
「テメェ心配させやがってこの野郎!」
「流石の生命力ですね……アナタに死なれたら、張り合う相手が居なくなるんですよ」
ドカドカと寝室になだれ込んできたいつもの三人衆。よく見ると、私は自分の寝たせんべい布団の周囲に、足の踏み場も無い位にプリンが並べられている事に気付いた。(何の儀式だよ)
私の視線に気付いた風香ちゃん。
「ああそれ、もう持って来るなって言ってるのに、ガドフが毎日持って来るんだ」
「毎日100個お届けすると、怪我が治るってオラの村では言い伝えられてるど」
「つまり300個もあるんだが、当然冷蔵庫に入らないから置いてるんだ。これでも結構食べたんだけどな」
「おいよく見ろ白狼! 俺が闇市で買ってきた格安野次ポーションもあるだろうが、飲め! どうなるか知らねぇけど!」
「私の並べた秘薬マンドラゴラにお気付きでない? 節穴め」
……内容はどうであれ。各々が私を気遣って見舞いの品を用意してくれたらしい。
「どうして私なんかに……お前ら全員、私の首を狙ってたじゃないか」
みんなの顔を見渡すと、一様に優しい笑みが帰って来た。
「そうか、お前ら、風ちゃん……ぅぅ……みんな本当は私を大切に思って……」
そうつぶやいて涙を落とし掛けると――途端に般若の顔になった4人。(え?)
そんな彼らを代表して、スライトが私を叫び付けた。
「お前のせいでッ俺たち全員お尋ね者になっちまったんだよぉおオオオオオ!!!」
「あ…………?」
訳が分からず首を傾げた私を、全員は容赦無くバシバシと叩いた。