35話 蛾
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最初はみんな同じだった……
私たちを包んだ繭の無数の中で、みんなが同じように、そこから飛び立つ準備をしていた。
温かい繭に包まれながら、いつまでもそこに居たいという思い。
けれどそれと同時に、日々つのっていく外への好奇心。
いつしか……繭を破り、羽を開く者達が現れ始める。
危険ひしめく外への好奇心に押され、どこよりも安全なこの家を飛び立つ。
……私は、そんな彼らの気持ちがわからなかった。
理解する事ができなかった。
ここに居れば、いつまでだって安心していられるのに。
外の世界に出れば、あらゆる危険が私たちを襲うのに。
鳥に食べられるかも知れない、羽が傷付いて飛び立てなくなるかも知れない。
それなのに……
私の繭に何処までも並んでいた仲間達……
彼らは、一人、また一人と、まるで競い合うかのように……
勇敢に空へと飛び立っていった。
私は一人、破れた繭の中に取り残される。
もう誰一人として仲間はそこに居ない。
私一人だけが、そこに居る。
別にどうとも思わなかった。
みんなバカだとさえ思った。
私は居よう。
いつまでもここに居続けよう。
そう思った。
……だけど私の成長に合わせ、繭の中は次第に窮屈となって、
苦しかった。
けれど、それでも私はこの繭を出られないでいた。
そこから出ようにも、堕落した私の手足にはもう、繭を破るだけの力が残されていなかった……