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【凶悪!おっさん少女】ある日突然、むくつけきオッサンになった私。  作者: 渦目のらりく
一章 最強“最悪”のオッサンがうちに来て、全てを奪い取っていった日
22/54

22話 脱引きこもり生活。お外一日目。

「スッゲェえぞ白狼オオオオオ!!!」

「今度こそ本当にあの『町喰い』を倒しやがった!」

「ブラザー!!!」


 賞賛の嵐に揉まれた私は、歓声が鳴り止んでからクルミの元へと歩み寄った。


「白狼……あんたどうして、どうして私を助けてくれたの?」

「お前を助けた訳じゃねぇ。何処で野垂れ死のうが知った事かと言った筈だ。それと、今はお前が白狼だ、モヤシ女」


 認める事は決してしないが、こいつが今、私達を救ってくれた事は事実だ。

 初めはあんなに私に好き放題しておいて、流石に同情したのだろうか? 私たちの体と魂を入れ替え、いたいけな引きこもり少女に、こんなむくつけきオッサンの激動の人生を押し付けたんだから、血も涙もない極悪人“白狼”といえど、流石に良心の呵責(かしゃく)という奴に襲われたのかも知れない……


 するとクルミは、懐から()()を取り出して、我が物顔で眼前に突き出した――

 その手に大事そうに握られていたのは、『白金(プラチナ)マリルちゃん。オンラインショップ限定、限定500個販売のスケスケ水着ver.』――……

 あっという間も無く、クルミは耳を疑うような台詞を私に言ったのである。


「あんなバカデケぇタコが落ちてきたら!! ()()フィギュアが全部お釈迦(しゃか)になっチマウだろうがぁあああああ!!!!!」

「キイィイエエエエ゛ッッ!!! こいつぅ!! そのフィギュア達は私のものだぁあッコロシテヤルゥウウ!!!」


 少しでもこいつに期待した私がバカだった……そうしてオッサンとミニマム美少女とで転がりあっていると、ズズンと大地を轟かせて、巨大なタコの頭部が落ちて来た。

 群がる町人と聖魔教会の信徒達。


「ひぃええ、でっけぇなぁ」

「おっそろしいな……ん、あれ?」

「こいつ、まだ、動いてねぇか?」


 怪訝な声に私も振り返ったが、クルミはつまらなそうに頭の後ろで手を組んで言った。


「馬鹿かこいつら。タコみたいなのは足を切り落としてもウネウネ動くだろう。そいつが死んでる事は間違いねぇ」

「だ……だよね。ふぅよかった……みんな気が動転してるんだよ」


 ホッと額の汗を拭っていると、金色の鎧に太陽の光を照り輝かせた少年――パラディン後藤が剣を振り上げて叫び始めた――


「大変だああ!! こいつ、まだ生きているぞッ みんな離れるんだぁ!!!」

「エ――ッ!!!」

「ええっ生きてるだって!?」

「ふわぁああ、白狼の奴、また失敗しやがったのかぁあ!!」


 パラディン後藤のはやとちりで、再びパニックに陥っていく人々――


「おおおおい白狼おおお!」

「今度という今度はゆるさねぇぞお!」


 ――だからもう、そのタコは死んでるっつうの!

 言われのない罵詈雑言(ばりぞうごん)に責め立てられる中、騒ぎを巻き起こした張本人であるクソガキが、何か尋常じゃない様子で唸りながら、タコに向かって走り出していった――


「僕の命はどうなってもいいッ! だから、この剣に、この体に、光の力を満たしてくれ――神よッ!!」

「おお! なんと勇敢な少年なのじゃ! ワシらの命を守るために、一人であの化け物に立ち向かうというのか!」

「あの体を見ろ! 彼の勇姿に神が応えているのか、光り輝いていくぞ!」(日の光が反射しているだけ)

「少年! パラディン後藤と言ったか! 彼はこの町のために自らの命を投げ出す覚悟だ!」

「うおおおおおおッッ!! みんなの未来をおおッッ!!!」


 転移魔法でタコの頭上に現れたパラディン後藤が、タコの頭にプスっと剣を突き刺した。


「今こそ、我が魂に秘められた封印を解く――ッ!!」

「なにぃ! あの少年、まだ若いのに、なんて過酷な命運を背負っているんだ!」

「ハァアアア――ッ!!! 封印解放(オーバーハート)!! くらえ我が魂……渾身の正義(ジャスティス)をおおお!!!」

「おおおおおおお!!」


 パラディン後藤の一人芝居を冷めた目で見つめていたのは、私とクルミだけだった……緊迫した空気の中、みんなはすがるように少年の姿を見上げている。

 ――だからもう死んでるってそのタコ。


「――『正義執行剣(ジャスティスソード)』オオォオオオオオオ」


 口先だけで特に迫力も無いパラディン後藤の一撃が終わると、タイミング良くタコが動かなくなった。


「うおおおおおおパラディン後藤が『町喰い』を殺したぞ!!」

「なんてすごい少年なんだ! 彼のおかげで町の平和が守られたぞ!」

「ありがとおお、ありがとうパラディン後藤!!」


 そして巻き起こる「パラディン後藤!」の大合唱に、私は嫌な気がして来て眉をしかめた。


「おいモヤシ女……良いとこ全部持ってかれたんじゃねぇのか」

「……それだけならいいんだけど、ま、まさか……ね」


 ……しかし、こういう時に限って、私の予感は的中する。


「すごいぞパラディン後藤……それに比べて、お前と来たら!!」

「白狼!! お前二度も殺し損ねたな! パラディン後藤が居なかったら、今頃俺たちはどうなっていたか!」

「八つ裂きにしろー!! こいつの懸賞金で町を潤すんだー!」

「ヒャええええっ!! やっぱりぃいい!!!」


 みんなが私に掴みかかろうとした、その時――一躍ヒーローとなったパラディン後藤が、ダサいポーズを決めながら人々に言い放った。


「待つんだ――! その人が居なければこの『町喰い』を倒せなかったのも事実だ!」

「なんと……止めなさるな、パラディン後藤」

「倒す事こそ叶わなかったが、町の為に悪に立ち向かった勇敢な彼に、許しを与えてやるのが正義(ジャスティス)なんじゃないのか?」

(どの口が言ってんだよ)

「なんて、なんて慈悲深い。彼こそが正義だ、救世主だ!」

「聖人だぁ……」


 感涙し始めた単純過ぎる町人たちに、私はもう肩を落とす事しか出来なかった。


「おい白狼! この大悪人のスットコドッコイが! パラディン後藤にお礼くらい言いやがれってんだい!」

「そうだぞ、お前がこれから町で暮らしていけるのはパラディン後藤のおかげなんだぞ」

「……はい。ありがとうございました、パラディン後藤様……」


 情けなく頭を下げながら、私はささやく……


「……スットコドッコイなんて……きょうび久々に聞いたよ……ぅ……ぅぅぅっ」


 屈辱(くつじょく)の涙を浮かべ、私の――脱引きこもり生活、お外一日目が終わっていく。

(早く帰りたい)

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