2話 それは私のパンツだクソ野郎! *挿絵あり
*
山の様にデカイ男が私を見下ろしている。
「ぁう…………ぁ」
白狼の指名手配書そのままの、でっかい傷跡の付いた顔で。
男は頭から血を被って濡れていた。何か傷を負っている様だったが、気にせずに白の長髪を後ろで縛り始める。
「お前で良いか……なんかムカつくからなぁ」
男が喋っただけで空気が震えた。声に重厚な気迫を帯びて、逆立ちしても敵わないという事がニートの私にも分かる。
獣の様な三白眼が私を見据えるので縮こまっていたが、男はいつまで経ってもそこから動かない。
……一応尋ねてみよう。
「あの、誰、でしゅか……」
「……」
「こんなキモヲタの館に……何を?」
「俺はお前が雑魚と罵り続けていた白狼だ」
「……はい終わりました。殺してどうぞ」
終わったー、一応確認してみたけど、この沸き立つ禍々しいオーラ……本物の白狼だー。
魔王を倒した勇者パーティーの内、単体最強と云われる『力』の勇者、アウトローの白狼様だよー。
白狼は窓枠を掴んで私の部屋に侵入して来た。彼が掴んだだけで壁がみしみしとひび割れていく。
「おいモヤシ女……」
「はい」
「なんだこの気持ちの悪い部屋は」
「あ、あへへへ……」
白狼は目を剥きながら、部屋中のオタクグッズを見渡していた。所狭しと並んだフィギュアから無数に感じる視線に、心無しか怯んでいる様にも見える。
いや、単純にひいているのかも知れない。
「なに、と言われましても……その、私の財産といいますか、宝と言いますか」
「なんだ、この面妖な奴等は……」
白狼はドタドタと駆けて私を追い越すと、棚に鎮座した『ハレンチ戦隊。今日も今日とてヌメヌメひゃわ〜ん』の白金マリルちゃん限定バージョンのフィギュアを、超至近距離から、その凶悪面で穴が開く位に見つめ始めた。
フィギュアを……知らない? もしかして俗世と離れて暮らし過ぎて、私達の文化を全く知らない……とか?
「生物なのか? いや偶像か……しかしなんだ……」
「は、はい?」
「――なんだこの胸に滾る熱き感情は!!」
白狼がそう叫ぶと、部屋中が何か見えない波動でかき回されて、私は転がっていた。
ぐわんと回る視界で頭を上げると、頭上で白狼が私を見下ろしている。
「お前に決めたぞモヤシ女」
「え、え?」
白狼は大事そうに右手にマリルちゃんのフィギュアを握り締めたまま(いや私のマリルちゃんだ、返せよ)懐から紫色の宝石を取り出す。
何やら光の漏れ出している不思議な石を左手に握り込み、何処か哀しそうに語り出した。
「俺はもう飽きた……そして疲れたんだ」
「はい……え?」
「血と硝煙の香りに満たされた生と、追手から逃れ、戦いに明け暮れるだけの毎日に」
「……?」
「もう時間が無い。魔王の体内から取り出したこの魔石から、力が漏出しきってしまう前に……」
白狼は腰を抜かした私の頭上で、厳格な顔付きのまま、魔石とマリルちゃんを握った両手を上げていく。
「第二の人生を……」
「あ、あの何を言ってるんですか?」
紫色の魔石が光り、頭上に掲げたマリルちゃんがライトアップされていく。
すると白狼は顔をしかめて苦しみ始めた――!
「なんだ、この抗い様の無い欲求はッ……おのれ……おのれぇえ!!」
血走った目を上方に向けた白狼を見上げ、私は彼を突き動かした欲求の何かを悟る。
――こ、こいつ……私のマリルちゃんのパンツをしっかり確認しやがった!
愛すべきパートナーを辱める男に憤りを覚えた私は、恐ろしさも忘れてこう叫んでいた。
「いきなり入って来て何なんだよ、この下郎がぁあ!!」
白狼が左手の魔石を握り潰すと、私の視界も意識も、全てが紫色にすげ変わっていた。
丁度マリルちゃんのパンツと同じ色に……




