17話 魔王軍四天王『町喰い』襲来!
「いぎゃあアァアアア!! 殺される。みんな殺されるんだ!」
「魔王軍四天王の『町喰い』だぞ! 町毎潰されちまう!」
「なんなんだこの馬鹿でかい図体はぁあ!!」
まさかの超巨大獣の襲来に、町人や聖魔教会の信徒たちは大パニックに陥っていた。
絶句した風香ちゃんが、ニコニコと走り寄ってきたパラディン後藤の胸ぐらを掴む。
「おい少年!! なんてとんでもないものを連れて来てきてくれたんだ! これでは私たちの町が丸ごと消し飛ぶぞ!」
「えー?」
「……くっ……今は言い争っている場合ではないか、人類の存亡をかけた未曾有の危機だ!」
「ふっふっふ……ならやはり、僕たち選ばれし者の出番という訳だ」
「ああもう、どうしてこんな所に魔王軍の四天王が!? どうすればいいの!」
手枷を掛けられた姿のまま、私は漠然と空を見渡していた。
「タコ……こんなおっきいタコ……やっぱ外こええ、こんなろくでもねえとこ、出てくるんじゃ無かった」
阿鼻叫喚の始まった大混乱の荒野にて、そこに集った聖魔教会の信徒たちはタコに一斉攻撃を始める。
「くそッ巨大過ぎて全く攻撃が届いてねぇ!」
「〈司教〉を呼べ! 早くしろッ、町が呑み込まれるぞ!」
デカすぎる化け物には攻撃の手立てがなく、いよいよと私たちの頭上に覆い被さると、だらんと無数の触手が垂れて来た。それは細く、無数に分裂して、眼下の人々に絡み付き始める。
「うわぁああ助けてくれ!」
「ヌメヌメする! なんだこれは、消化液なのか? ニュプニュプして、切る事も出来ない!」
垂れ込めた無数の触手に(8本じゃねぇじゃねぇか)人々が絡め取られていく光景。人々はその災害に、なす術も無く悲鳴を上げていく。
するとそこで、矢の様に走り出した3人の男たち――
「いくぞガドフ、ルディン――」
「ええ」
「いくど!」
走り出したSランク冒険者に気付き、人々は手を打って彼等の快進撃を待った。
「すごい! Sランク冒険者のガドフとスライトとルディンだ!」
「なんてついてるんだ、俺たち助かるぞ!」
「来るぞ!! あの古龍を討伐したという、伝説の技が!!」
雄叫びを上げ始めた彼等は、やはり例のフォーメーションを取り、光り輝いた――!
「「「『龍殺地底魔獣神』!!」」」
――――べぃん!!
そんな奇怪な物音で、空の彼方にまで弾き飛ばされたマンモスを、人々は目を丸くして眺めていた。
「うわあああああマンモスーーーーー!!!!!」
ミニカーが足にコツンと当たったから蹴り飛ばした、とでも言った具合に、彼等の神獣はまた呆気なく何処かへ飛んでいってしまった。パオオォンと遠くで声が木霊している。スライトは泣いていた。
怒り心頭の町人達がまくしたてる――
「うわあああ、あの冒険者共使えねぇえ!」
「何がSランクだ! しね!」
「なんで3人ともブリーフなんだよ、公然わいせつ野郎!」
「んだど〜!?」
石を投げ始めた町人にガドフが振り返っていると、私は彼の背後にタコの触手が忍び寄っている事に気がついて――とっさに叫んだ。
「ガドフ、後ろ!」
「んぁっ! しまった!」
――迫り寄る触手が彼を絡め取らんとしたその時、とっさにガドフに体当たりをかまして身代わりになったのは――
「グゥああ〜!!」
「スライトさん!」
「スライトー! オラの身代わりに!」
全身をヌメヌメの触手に絡み付かれ、空へと連れ去られていくスライトだった!
「ぬうぁ! ぬぅああ! なんだこのヌメヌメは!」
なんだか際どい所に巻き付いて、頬を赤らめている彼に、各所から嗚咽の声が漏れ始める。(いや可哀想だなアイツ)
「はっ――!!」
ぼんやりと、吐き気を催す光景を見上げていた私は、はたと自らが絶好の機会に遭遇している事に気付く――
「触手……ヌメヌメ……ゲームや同人誌の中での妄想が……実体化している!!」
ファンタジー世界との融合も、何も悪い事ばかりではないのかも知れない。
閃光のような閃きが私に走る――
つまり私が今、なによりすべき事は――――!!!
「見なければ……風ちゃんのぬちょぬちょ触手シーン」
――なのである!