11話 古龍を倒した古の究極奥義*挿絵あり
あ、ヤバイホッコリしている場合じゃない。
私は今三人のSランク冒険者に命を狙われているのだった。
ナイフの刃先を舐めるスライト、激しい風の中で細い目を開くルディン、赤い目をして体を筋肉で盛り上げていくガドフ。
「『力』の勇者さんよ〜? 俺のナイフが、早くあんたの血を吸いたいってよぉ……真っ赤な血を見せてくれるか〜? うぇっひっひっひ」
「白狼よ。お前は風の声が聞こえるか? エルフである私には聞こえるんだ。早くお前の体内に侵入し、臓物を掻き回したいという声が」
「グハハハ。お前の体をこの棍棒で潰して、その四肢をオーク族の栄光として祀ってくれるどぉ!」
なんだこの豹変ぶり……さっきまでパラディン後藤に見せてた優しさは何だったんだよ。冷酷なオーラしか感じないんだけど。
――その時だった。
「私に背中を見せるとは余裕だな、白狼」
「あ……マリルち――――」
「閃光突き」
眩い光を知覚した時には、既に私の後頭部にロングソードの切っ先が触れていた。
「――――ッ!!?」
「獲ったぞ! 白狼は私の大捕物だ!」
「なんだあの聖魔の女! ちくしょうオラ達の懸賞金が!」
「黙れオーク! こいつは私の、私だけの獲物なんだ!」
そんな喧騒を聞きながら、私は前屈みになって、その衝撃に踏み堪えていた。
「イダァァァア――ッ!!!」
「え――――ッ!?」
「おいルディン! 白狼の奴、あの刺突を頭にくらって生きてやがるぞ! アッハハ無茶苦茶だ!」
――痛い痛い痛い痛いイダァアア!!!!
「何するのマリルちゃん!!」
「なっ……私の閃光突きを頭にくらって、なんで!?」
「ひどいよ! 私が一体マリルちゃんに何したって言うの!」
「してただろう! 恥も外聞もない醜態を忘れたのか! それと私は、何度もいうがマリルちゃんなどでは無い!」
「ホぇ?」
後頭部に出来たタンコブをさすっていると、前方から冒険者達の追撃が始まった。
「俺のナイフさばきを味わいやがれ! 切って切って切って切ってキッテ!! ヒャはぁ!」
「うわぁああ!! ヒンヤリするヒンヤリする!」
スライトの次に、ルディンが私の頭上に飛び上がった。
「風の大精霊シルフよ! 今私に力を貸せ!」
「ハァぁああんッ ザワザワする! むず痒いから辞めてぇ!」
そしてガドフの猛烈なる棍棒の横薙ぎが、私の腹に炸裂した。
「象をも潰すオラの一撃! 受け止められまいッ! ドォッカァアン!! 」
「オぅ……っふ。……ん?」
一瞬驚いて飛び退いたけれど、薄めを開けると、巨大な棍棒が砕け散るのが見えた。
「もぅ嫌だぁあ……ぅううう」
何なんだよこの人達、いきなり物凄い剣幕で攻撃して来て、怖いよぉ……なんで私がこんな目に。
「ん……あれ?」
怖くなってうずくまっていたけど、何時まで経っても攻撃されない。その代わりにナイフを落とす物音が私の耳に届いた。
「んだよこいつぁ……俺の全力のナイフで傷一つ……!」
「オラの、オラの村に伝わる伝説の棍棒『爆裂剛力プリンプリン』が粉々に……」
「草原を荒野に変える程の大精霊の風をぶつけた筈だ……なのに何故だ、銭湯上がりの扇風機の前で全裸で牛乳を飲んでいるオヤジの光景がフラッシュバックした!」
項垂れていくSランク冒険者達。
え、もう終わりなの?
「いや、まだだ! ルディン、ガドフあれをやるぞ!」
「あれって……まさかスライトさん!」
「そうだ。かつて三人で古龍を討伐した時の、あの幻の合体技だ!」
「んがぁハハハ! ワクワクしてきた……数年越しのパーティ再結成って訳だど!」
「ハッ、気に食わねぇがそういう提案だよガドフ!」
「……ふ。仕方ありませんね。今回だけですよ」
落ち込んだり盛り上がったり忙しい三人が、瞳を苛烈にして結託していく。
「まだ何かするんですか〜? ぅううう!」
泣きべそをかく私に、彼等は容赦無くその合体技を披露していった――
「いくどスライト、ルディン! フォーメーションは覚えてるなぁ!」
「ああ!」
「無論です」
微笑みあった三人。満ち溢れる彼等の自信から考えるに、渾身の一撃を繰り出そうとしているに違いない。
そしてオークのガドフが地に片膝を着き、両手を水平に広げていき始めた。
「ヴォォオオオオイッ!! 地底が唸り大地を轟かす!!」
絶叫するガドフの気迫に気圧されていると、スライトとルディンが彼の目前で腕立て伏せの姿勢となった。
先程からの物々しいオーラから、彼等がこれより、ただ事ではない合体技を繰り出そうとしているのは確かである!
「ラああああああ!! 古の怪物よ、この力の渦に共鳴しろ!!」
「ハァァアアアア!! 今蘇り、顕現して下さい!!」
「「「究極奥義――――!!」」」
――カッと金色の光を発した三人に、私は思わず顔を背ける。
……そして次の瞬間に私は、そのおぞましき姿を目撃する事になった。
「な…………!」
腕を水平にしたまま、ピンと伸ばした両の指先を天に向けるガドフの肩に、ルディンとスライトが両足を乗せて、腕立ての姿勢になっている。
それは組体操の『マンモス』という技そのものであった。
「「「『龍殺地底魔獣神』!!」」」