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【凶悪!おっさん少女】ある日突然、むくつけきオッサンになった私。  作者: 渦目のらりく
一章 最強“最悪”のオッサンがうちに来て、全てを奪い取っていった日
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10話 一般戦士、“聖騎士”(パラディン)後藤


 ――間違いない。このパラディン後藤という少年。


「悪即斬……僕の前で、2分以上息をしていられた悪は居ない……」


 この邪悪な覇気……真っ直ぐな視線、その身のこなし……!!


「みんなが待っているんだ。パラディン後藤の照らす、この光の道筋(ロードシャイン)を!」


 この子は重篤(じゅうとく)な病……

 ――厨二病を患っている。


「え、ちょっと待って。君、パラディン後藤君だっけ?」

「うんうん、なんだ」

「私達さっき物凄いスピードでここまで来たと思うんだけど、君どうやって付いてきたの?」


 するとパラディン後藤は、嬉しそうに口角を上げて背のマントをひるがえした。


「フッ……なんだそんな事か。僕は選ばれし者、希少なテレポートの使い手なのさ……正義執行(ジャッジメント)!!」

「えっ?」


 パラディン後藤が手を振り上げると、彼の後方で転移の魔法陣が複数現れた。そこから何者かが現れようとしている気配に気付き、私はマリルちゃんの爆乳にどさくさ紛れに顔を埋めた。


「あわわ、ヤバイよ〜マリルちゃーん!」

「私は、マリルちゃんでは無い……」


 すると魔法陣からは、先程撒いた筈のSランク冒険者の面々が現れて、流石に動揺せずにはいられなかった。


「ッフ〜! 俺たちゃツイてるぜ、助かったぜ少年!」


 ナイフ使いのスライトが、両手のナイフをクルリと回して白い歯を見せた。


「ええ、本当に。良くぞ我々Sランク冒険者に声を掛けて下さった。おかげで白狼を倒すチャンスに再び恵まれましたよ」


 風裂きのルディンが疾風をまとってフワリと宙に浮いていく。


「見失ったと思ったが、助かったどぉ騎士の少年! んぁ〜!」


 棍棒を振り挙げたガドフが、大胆な笑みを少年に向けながら顔を近付けていく……


「で、お前誰だっけ?」


 モラルを欠いたオークの言動であったが、パラディン後藤は長い前髪をスッと横に流し、Sランク冒険達にも堂々と応じていく。


「僕はッ! いずれSランクになるEランク冒険者! フンフンッハァッ! 騎士のパラディン後藤だッ! ヤァア! 正義執行(ジャッジメント)!」


 恐らく独学で考えたであろう舞いを見せる少年に、三人の冒険者達は困惑しながら口を揃えた。


「「「ダ……ダセェ」」」


 そしてヒソヒソとスライトが耳打ちする。


「なんで和名なんだよ……しかもパラディンって名前にくっつけてんのか? 騎士の位を表す言葉だぞ? それ知ってんのかこの坊主?」


 ルディンとガドフが引きつった口調で続く。


「普通名詞に使う言葉ではありません。響きがカッコいいから採用したのかもしれない……。だって彼が本当にパラディンになったら、パラディンのパラディン後藤と呼ばれる事になるんですからね」

「……なんだかぁ〜可哀想な子かもしれねぇなぁ」

「……優しくしてやろう」


 あわれみの表情を浮かべる三人。そんな彼等に気付きもせず、舞いを終えたパラディン後藤は輝かしい瞳を上げる。


「ああ、僕達で力を合わせてこの世の悪を討つんだ! このパラディン後藤に続け!」


「「「えっ」」」


 なんだか共闘する流れになっているが、Sランク冒険者の三人は眉をしかめている。

 しかし助けられた手前バツが悪いのか、困惑した表情のまま話しを合わせ始めた。

 三人は顔を見合わせながら頷き合う。


「へっ。ま、まぁ……悔しいが確かに俺一人じゃ白狼を殺るのは難しいかもしれねぇ。パラディン後藤の力を借りるか」

「……まぁ同感です。ここは久しぶりに共闘といきましょうか。(まこと)遺憾(いかん)ですがね」


 走り出したパラディン後藤に、そう言う様に指示されたガドフが声を掛ける。


「おっ、おいーなんて邪気だー後方十キロから……んぁ? 3キロだっけ……まぁいっか、とにかく遠くから、オラ達を狙っている奴がいるどーこの凄まじいプレッシャー……こいつが影のラスボスだどー(棒読み)」

「なんだって!?」


 パラディン後藤がガドフへと振り返った。するとルディンとスライトもまた、演技じみた小芝居を打ち始める。


「本当だ! とても我々の手に負える相手ではありません……! しかし白狼も逃す訳にはいかない! いったいどうしたら良いのでしょうか!?」

「おうよ……こんな凄まじい力を感じた事ねぇぜ。真の勇者じゃなけりゃ、アイツの相手は出来ないだろうぜ……くそぅ!」


「な、なんだって……本当かみんな!?」


 ガタガタと身震いを始めたパラディン後藤は、深呼吸をして胸を抑え始める。


「僕の中のもう一つの人格が反応している! うっ苦しい……みんな。ここは任せられるか?」


 真剣な面持ちとなった彼に、三人は頷く。それを見届けたパラディン後藤は、マントをひるがえしながら彼等に背を向けた。


「持ちこたえてくれ! あっちは僕がなんとかする! ……みんな!」

「どうしたパラディン後藤?」

「…………。死ぬなよ?」

「ええ、貴方もね。パラディン後藤」


 そしてパラディン後藤は勢い良くテレポートで消えていった。

 冒険者達は肩を落として溜息をついた。


 彼等Sランク冒険者のホッコリする様な優しさを垣間見た私は、頬を緩めて彼等を眺めていた。


「いやそんな場合か。一体何なんだよあの子……」

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