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争った跡も、何かがここに持ち込まれてという痕跡もなかった。
検視結果も前回同様。
死因は誰が見てもわかる通り、首を切られたことだ。
そして切断面から推測して、サメの歯のようなものを使って強い力で切られたという検視結果がでた。
そういう道具を使ったと判断するのが妥当なのだろうが、それが何なのかがやはりわからない。
トラバサミが少し近いが。トラバサミでは人の首を切るなんてことはできない。
一人の刑事がぽつりと言った。
「マスコミが大喜びだぜ」
そう、連続首切り殺人事件。
しかも路上で。
日本では例のない犯罪だ。
このショッキングな事件に、マスコミが飛びつかないわけがない。
大々的に報道されることは、考えるまでもなく明らかだ。
こうなると警察は、犯人捜しはもちろんのこと、世間やマスコミも相手をしないといけなくなるのだ。
誰かが言った。
「ああ、面倒くさい」
そう、面倒くさいのだ。
野上は朝起きて、テレビをつけた。
もともと朝はテレビのニュースを見るのが日課なのだ。
そしてその日のトップニュースは、首なし死体が路上で見つかったことだ。
――まただわ。
野上は考えた。
首無し殺人事件。
そういえば二度目だ。
そして野上が何かを感じたのもの二度目。
それも殺人があった夜に感じたのだ。
二回とも。
――もしかして、これは……。
感じた何かが生きている人間ではないことはわかっていた。
そして殺人事件のあった夜にそれを感じた。
考えられることは、普段は影を潜めているその何かが、人を殺すときに強い意志を発するということだ。
それを野上が感じたのではないのかと。
そう考えれば辻褄が合う。
あれほど強く感じたにもかかわらず、しばらくするとそれは小さく薄いものになっているのだ。
そうすると。
――もしかして、私……。
あの世間が注目する連続殺人事件において、意図せずに自分が重要な位置を占めているのではないかと。
相手が生きている人間でないのなら、この私が警察ではなくてこの事件を終わらせる人間になるのではないのかと。
そう考えるとある種の義務感、責任感というものを感じ始めていた。
そんな義務も責任もないというのに。