30
諸星が女の子を見ていると、滝田が言った。
「みなさん、この人がお話ししてた諸星明美さんです」
「これはわざわざご苦労様です」
「いやいや本当にお手伝いしていただけるとは」
「まことに申し訳ないことです」
「お話の通り、素晴らしい女性ですね」
「本当にありがとうございます」
まるで申し合わせたかのように、五人が順番に言った。諸星が言った。
「いえいえただの変な奴ですから。そんなにお礼を言われても。それにしても……」
諸星は私服の女の子をじっと見た。
滝田が気付き、言った。
「やっぱり気になりますか。じつはその子は……」
滝田が言い終わらないうちに、女の子が諸星の前に歩み寄り言った。
「私は磯崎まあや。磯崎さあやの妹です。今は霊能者の見習いと言ったところですね」
そう言うとまあやは諸星の手を握った。
――えっ?
見ればまあやは歓喜の表情をうかべ、その目には涙さえ浮かべている。
――えええええっ?
滝田が言った。
「まあやちゃん、気持ちはわかるがそれぐらいにしときなさい。諸星さんが困っているよ」
「はい、ごめんなさい」
まあやは手を離した。
諸星には何が何だかわからない。
聞こうと思ったが除霊の準備が始まり、みなせわしなく動き出した。
お札を地面に張ったり、野上も使っていた細い棒を用意したり。
諸星は聞くタイミングを逃してしまった。
そのうちにみんなが集まり、滝田が言った。
「それじゃああいつをここに呼び寄せましょう。まあやちゃん、お願い」
「はい」
まあやが座禅を組み、手で印を結んだ。
あのときの野上と同じだ。
霊能者の見習いと言ったが、ある程度のことはできるのだろう。
それにいかにもベテランといった僧侶が何人もいるのにもかかわらず、まあやがあいつを呼び出すのは、やはり妹であるからなのだろうか。
そのためにここに来たのだと諸星は思った。
諸星は待った。
他の人たちも何も言わずに待っている。
するとそれほど待っていないのに、まあやが言った。
「来ます」
来た。そいつは円の中にいきなり現れた。
諸星には瞬間移動したとしか思えなかった。




