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邪悪だが、根の部分は善ということか。
いやいやそんなものではない。
この二つは完全に別のものだ。
小さな善が大きな邪悪にとらわれている、あるいはおおいつくされている。
そういう感じだ。
そこまではなんとなくわかったが、それ以上はなにもわからなかった。
ずっと探り続けたが、やはりわからない。
しかしこいつは基本的には邪悪なるものだ。
無視していい相手ではない。
――何なんだ、どこにいる?
野上は粘ったが、ここからそう遠くはない場所にいるということはつかんだが、それがどこかはわからなかった。
そして邪悪なるものは、次第に感じなくなっていき、薄く小さくなった。
――これ以上は無理か。
野上はようやく諦めた。
女は歩いていた。
自宅近くの裏路地。
街燈がないわけではないが、数が少なく少し暗い。
こんな時間に女が一人で出歩くものではないが、この辺りは普段近所の人しか通らないため、夜はほとんど人がいない。
そして自宅はもうすぐそこだ。
ただ女には少し気になるところがあった。
それは数日前にあった猟奇殺人。
男が首を切られて殺されたあの事件だ。
路上で首無し死体が見つかるなんて、少なくとも女は聞いたことがなかった。
それにあの事件があったのはすぐ隣の町なのだ。
ここから距離はさほど離れていない。
そんなわけでひょっとしたら自分が襲われるのではないか。
その考えが女の脳裏に浮かんできたのだ。
――いやいや、まさかね。
あんな事件、そうそうあるものではない。
それに怨恨による殺人かもしれない。
そうなれば自分は全くの無関係だ。
とにかくそう思うことにして、女は足早に歩いていた。
その時、前方に何かが見えた。
長い黒髪の女。
なかなかの美人だが、その顔には表情というものがまるでなかった。
顔色も大丈夫かと思いたくなるほどに悪い。
顔を一応女の方に向けてはいるが、女を見ているわけではなく、どこを見ているのかまるでわからない。
光があったっていないのか、首から下はよく見えなかった。
――なんか変な人。