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またか。
刑事はもはや諦めかけていた。
今度は若い男だ。
しかも刑事はその男をよく知っていた。
というよりここの住人の多くがその男を知っている。
全日本空手選手権三連覇の有名人。
この地方都市では町のヒーローと言っていい存在だ。
そんな男がたいした抵抗をした様子もなく、首を切られてしまっているのだ。
一体相手はどんなやつなんだ。
どんな方法で首を切っているんだ。
高校生も背の高いアスリートだったし。
並の人間なら一人ではまず殺せない。
そうかと言って大勢で動けばそれだけ目立つことになるし、証拠や痕跡を残す可能性が数段上がる。
それなのにいまだ目撃者はゼロで、証拠も痕跡も一切見つかっていない。
つまり何一つわからないのだ。
これだけの無差別殺人。
誰かの怨恨という可能性もない。
いったいこれ、どうしてくれよう。
――また署長から呼び出しがあるな。
最近の署長はきわめて機嫌が悪い。
まあ、当たり前と言えば当たり目なのだが。
――ひたすら頭を下げるしかないか。
今の刑事にはそれ以外思いつかなかった。
野上は朝のニュースで見た。
五人目の犠牲者。
それも全日本空手選手権三連覇の、この地では結構な有名人だ。
番組では、こんな強い男の首をどうやって切ったのか、という話題になっていた。
野上は思った。
もはやただの悪霊ではなく完全に化け物となってしまったさあや。
そんな化け物に力で勝てる人間なんて一人もいないだろう。
格闘技の強さや腕力の強さは、あの化け物の前では完全に無意味だ。
とにかくなんとかしないといけない。
なのに一番頼りにしていた人に断られてしまった。
要するに怖くて逃げたのだ。
――あの女、さあやのことをよく知っているし、さあやに次ぐ友人だと思っていたのに。もう完全に絶交だな。
もうひとつさらに強力なあてがあったが、あそこはまずい。
少し前に野上が思わずやらかしてしまって、今は連絡がとりづらくなっている。
――あれはほんと、失敗したなあ。悪気はなかったんだけど。
考(?)えてもしょうがない。
いないものはいないのだ。




