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それも不思議だ。
上司がそうしているのだが、日によっては早くなったり遅くなったりしてもいいはずなのだが。
仕事量が毎日完全に同じだなんて考えられないのに。
まだ若い諸星は、全体の仕事量を上司ほど把握はしていないが。
とにかく今日の仕事は終わり、諸星は会社を出た。
いつもの電車に乗るが、行先は二つほど先の駅だ。
いつも通りの時間に終わったので、約束の時間には間に合いそうだ。
二つ先の駅で降りて、そこからは歩く。
この時間も怖いが、そんなことを言っている場合ではない。
目的の場所に着いた。
マンションの一室。
約束の時間よりも少し早かったが、諸星は呼び鈴を押した。
「はい」
ドアが開けられた。
そこにいたのはまだ若い女だった。
たしかに電話の声も若かったが。
「約束していた諸星ですが」
「はい、どうぞお入りください」
入ってすぐが応接室だった。
促されて椅子に座る。
「お茶をお持ちしますね」
野上は出てゆき、しばらくしてお茶を二つ持って帰ってきた。
お茶を置き、諸星の前に座る。
「それで、どういったご相談でしょうか」
諸星はここに来て一瞬迷ったが、言った。
「あのう、連続首狩り殺人、知ってますよね」
野上は正直驚いた。
諸星がまったく予想とは違うことを言ってきたからだ。
だいたいここに来る人は、不幸が続くとか幽霊が出るとか、そういったものが多いのに。
野上が気にしているあの事件のことを言ってくるとは。
その意図がまるでわからない。
少し間があったが、野上は言った。
「ええ。もちろん知ってます。あれほどの大事件で、しかも同じ市内で起きていますからね」
「私、あの犯人を見たんです。それも生きている人間じゃありませんでした」
野上はしばらく諸星を見つめてから言った。
「それはいったいどういうことですか。詳しく聞かせてくれませんか」
諸星は話した。
あの日みたことの全てを細かく。
聞いている野上の目はどんどん見開いていった。
諸星の口調はとても嘘を言っているとは思えなかった。




