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バイクで走っていた。
今日は少し急でいる。
約束の時間に遅れそうだ。
スピードは警察がいれば捕まるレベル。
でも晴れてよかった。
前日よりほんの少し前までものすごい豪雨だった。
それが嘘のように日がさしている。
道路のすぐ横の細い川は増水し、濁流となってもう少しで道路にあふれそうだ。
雨がやんでからそんなに時間が経っていないので、この後本当にあふれるかもしれない。
でも少なくともしばらくは大丈夫そうだ。
とにかく安全運転をしないといけない。
思いっきりスピード違反はしているけど。
今は事故るわけにはいかないのだ。
常に事故はだめなのだが、今日は特にいけない。
走る車を慎重に左から抜いていたが、先が少し開けた。
さっき抜いた老人の運転する車が遅いのだろう。
前にはトラックが見えた。
遅くはないが、速いとも言えないスピードで走っている。
トラックも抜こうと思った。
左がやや狭いが抜けないことはない。
そう考えていると、トラックの荷台から何かが私に向かって飛んできた。
夜に男が一人歩いていた。
仕事がようやく終わって家に帰るためだ。
駅から十分ほど歩く。
それにしてもこの辺りは結構人が住んでいるのに、夜はほとんど人と会わない。
住人しか使わない道のうえに、住人のほとんどが夜は出歩かないからなのだろう。
まあ若い女性というわけでもないので、夜のさびしい道もさして怖くもないのだが。
歩いていると、ふと何かが見えた。
――女?
女だった。
こんな時間に女一人とは珍しい。
街燈のかげんなのか首から上しか見えないが、若い女だ。
こっちを向いているその顔の色は不自然なほどに悪いが、長い黒髪でかなりの美人だ。
女は動かない。
男との距離が縮まってゆく。
男は無視して通り過ぎることにした。
こんなところでこんな時間にへたに女にかかわったら、犯罪者扱いされるかもしれないと思ったからだ。
それにしても女は男のほうに顔を向けてはいるが、男を見ているわけではない。
どこか遠くを見ているような。
心ここにあらずといった感じだ。
男はすぐ近くまで来た。
そして気づいた。
今まで街燈のかげんか何かで、女の顔しか見えなかったのではないということに。
その女には、首から下がなかったのだ。