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五話

 ポートロイヤルへ向けて歩く中、俺はゴブリンについて考えていた。スモールラビットは一匹、討伐すると五百コル近くの収入になる。


 これは討伐報酬に素材が良品であり売却した価格を含めた報酬だ。ゴブリンは討伐報酬と魔石の価格を含めても一体当たり三百五十コル位にしかならない。


 ゴブリンは人に害を為す魔物(モンスター)ではあるが武装した村人でも倒せるぐらいの脅威なので報酬は低く、質より数が厄介な魔物であるため報酬を高くし過ぎると経済活動を阻害する可能性が高い。


 逆に報酬が低すぎると冒険者が見向きもしなくなるので常に出されている報酬額は低く群れが確認された時には少しだけだが報酬に上乗せがある。


 スモールラビットより報酬単価が低いゴブリンだが数を討てば報酬総額は高い物になる。スモールラビットなら討伐後に魔石・角・肉・皮を剥ぎ取る必要がある。


 冒険者ギルドに販売しなければ素材の売却報酬は受け取れないため、行動中の冒険者にとって足枷になる。三匹以上、狩らないのは鞄の中に入りきらないからであり、高価な魔法袋を買う資金力がまだないからである。


 ゴブリンなら耳と魔石を取るだけで十分な為、数をこなす事が出来る。スモールラビットより上位の魔物であるため経験値が多く、スキルも上がり易い。


【近接格闘】を獲得するには最低でも中鬼(ボブゴブリン)クラスでないと効率は悪いが、低レベルの内はレベルが上がり易くなっているため、ゴブリンである程度、上げてからボブゴブリンに挑戦するつもりだった。


 タイラーから購入した短剣は使い易く、簡単には折れる気配がない。メンテナンスも請け負ってくれたので序盤は重宝する武器となってくれるだろう。


 駄目なら解体用のナイフとして使えば良いだけで金があるのなら投擲用にも使える優れ物だ。朝はエバンスと訓練をして、買い物をしつつ【鑑定】を得る為に経験を積む。


 ステータスオープンも手に触れた物(者)であれば鑑定は出来るが得られる情報は少ない為、本当に最低限の知識しか与えてくれない。


 今朝、手にとったリコの実も情報を得るまでは果物としか表示がされず、毒性も分からない。果物や野菜であれば見た目である程度は食べれるかどうか判断できるが、薬草や毒草はそういう訳にはいかない。


 治癒効果のある薬草も毒草も草としか表示されないので服用するのには勇気もしくは知識が必要となる。


 冒険者ギルドは初心者の冒険者向けに薬草の辞典を公開しているが、中には文盲の者もいるし体を動かすのは得意でも頭を動かすのは苦手な者が冒険者には多い。


 言い方は悪いが、冒険者は実家を継ぐことの出来ない次男以降の者がなる事が多く、技術を持たないが体力に自信がある者がなるものなのだ。


 確かにBランク以上の冒険者ともなれば金に不自由する事は殆んどなくなる。武器や防具に金を掛ける冒険者でなければ中級商人以上の暮らしをしていても問題ない位の稼ぎは十分にあるからであった。


 魔剣ともなれば安くても金貨からの値段になるし、物によっては大金貨数枚でも買えない場合がある。


 相手にする魔物はCランク以下の冒険者では太刀打ちが出来ない物が多く、命を預ける武器や防具に金を惜しむ者は生きてはいけない世界だ。


 それでも多くの者が冒険者になり、一攫千金を目指すのはAランクになれば国の騎士なり爵位を得る事が不可能ではないからだ。


 平民の者が騎士になる事は難しく、警備隊や王国の一般兵として働く事になる。下端である平民が武功を上げても上官である貴族に手柄を横取りされる事は当たり前の様にあるのだ。


 能力があり、騎士団の狭き門を通過した者でも貴族の従者の様な扱いを受ける。騎士団に入団したらまず騎士見習い(従卒)から始まり、従騎士を経て正騎士となる。辺境であれば平民の正騎士は少ないがいないこともない。


 だが王国騎士の中でも権威ある近衛騎士はまず他の騎士団で正騎士である事が最低限の条件となり入団した際には正騎士の位を一度、返上する必要がある。


 騎士見習いとしてからキャリアを再スタートする事が求められるのだ。入団の際には身辺調査が徹底的に行われ王の裁可がなくてはならない。


 近衛騎士の正騎士となった者で平民であった者は当代限りの準騎士爵として叙勲される。更なる勲功を上げなくては子供は貴族ではないし、王国も財政的に貴族を増やす事は出来ない。


 なので一代限りの貴族として扱う事でお茶を濁すのだ。それほど平民と貴族の身分の壁は高い。戦争でもしていれば人の命が物の様に消費され、上官である貴族が戦死して昇格する場合もある。


 だが、大概の貴族は大局を動かすのが貴族の務めであって戦場には出たがらないものなので死ぬのは平民である兵士が一番多く、本来であれば護るべき国民が真っ先に死んで行くのだ。


 エバンスの様に国への士官を断り冒険者を続け、後任の育成に努める者もいないわけではないが、それはエバンスが貴族と戦争を嫌っているからに過ぎない。


 冒険者ギルドに所属する冒険者は国の思惑によって動く事を禁じている。冒険者ギルドの設立は魔物に抵抗する術を持たない者の代わりに戦う事で報酬を受けとるのが目的であって断じて戦争などの道具として扱って良いものではないのだ。


 魔物を相手にするスペシャリストが冒険者なら対人戦のスペシャリストは騎士や傭兵であり、傭兵ギルドもこの世界にはある。


 此方は金さえ積めば、戦場の狗となって敵を喰らう存在だ。金に汚い者が多く、戦況次第では依頼主を平気で裏切る者が多いので冒険者ほどには傭兵は社会的地位がある存在ではないが、政治の闇の中で暗躍しているのは彼等である。


 武器の更新に金が掛かるし、商売を始めるのであれば最低は大銀貨五枚は欲しい。馬車は馬付きで大銀貨二枚から三枚くらい掛かる。


 商売を始めるのには金が掛かり、商人ギルドも所属員に対して貸付を行っているが、借りれる額は大した事なく、実績の無いものに大金を貸す商人がいる訳がない。


 なので最初は自分で採取した薬草等を販売して利益を元手に規模を拡大するのがだいたいの商人であって後は朝市で自分が作った作物を販売する農家や見習いなどが自分が作った作品を販売するくらいである。


 親の資産を継いで商人になったのであればいきなり店持ちの一国一城の主となる可能性はあるが、プレーヤーではあり得ない。


 SPを消費して【鑑定】のスキルを得て朝市で掘り出し物を購入して売却する事の利鞘(りざや)で儲けることも不可能ではないが、数が少ないからこそ掘り出し物なのであって恒常的な利益になることは有り得ない。


 だから俺も行商として各地を巡っていたのだ。馬は商人ギルドから月々の賃借であった為、思ったより利益は出なかった。それなら税金が優遇されている冒険者の方が儲かるくらいだ。


 なので正式サービスが開始されてからはいきなり商人になるのでなく冒険者となった。Dランク冒険者であっても街に住む平民よりかは少しだけだがましな生活が出来る。


 街に住む平民には人頭税以外にも細かい税が課せられるため税金は高い。冒険者がいなくなれば魔物の防波堤がなくなり領主達は領地を守る為に領主軍を増強しなくてはならない。


 領民を守るためではなく領地を守るためと言う言い方をしたのは、領民は確かに貴重な収入源ではあるが替わりがきく存在だからだ。


 王より拝領した領地と爵位を守ってこそ初めて貴族と言えるのだ。その考えで行動するため平民の暮らしは二の次、三の次となるのだ。


 平民の暮らしが良くなってこその領地の発展だと理解している貴族は思っているより少なく、この地方を治めている辺境伯は理解のある貴族である。


 辺境伯は侯爵にも劣らない地位だが、治めている地域は未発展であり、貴族としての発言力はそこまで強いものでない。王都で官職を得ている法衣貴族の方が王宮での権力を握っているぐらいだ。


 爵位は貴族の中では絶対ではあるが形式上は敬っていても内心は分からない。


 考え事をしながら歩いていた為に思ったよりポートロイヤルに着くのが遅くなってしまった。門で行列を待たされること数分、手持ち無沙汰にしていたが、やっと自分の番が回ってきた。


 これでも出入りの少ない時間なので数分で済んだが、商隊が着いた日には数十分待たされる事もある。


 門兵はポートロイヤル自警団と領主軍の混成部隊によって管理され、品物に関する関税はとられないが商人は通行税を取られるのだ。


 冒険者ギルドに所属している商人は減税はされているものの少しだけだが取られる。因に住民と冒険者はポートロイヤルに入る際には通行税を取られる事はないが、検問は必要になる。


「そこで立ち止まれ」


 命令口調で指示したのは明らかに身分がありそうな人間だった。厄介事に巻き込まれるのは御免だ。素直に従う事にする。


 ゴブリンとの戦闘で返り血を浴びているためこの対応は門兵としては間違いでは無いが、冒険者を相手には不適格である。


 冒険者プレートを提示し、高圧的な門兵には逆らわない。爵位は知らないが辺境で門兵をしている位なのだから次男か三男だろう。偉そうにしているからには平民という事は無さそうだった。


「明らかに不審人物だな。詰所に連行しろ」


 部下である門兵が近付いてくるが勿論、抵抗はしない。拘束を命じられた門兵も顔見知りで上官の命令には逆らえないらしい。


「今は堪えて下さい。自警団から冒険者ギルドに人を派遣するので直ぐに解放されるでしょう」


 小さな声で告げられたからには余計な事はしない方が身のためだった。


「モタモタするな。尋問は俺が直接に行う」


 そう宣言した貴族らしい男は先に詰所へと移動していった。


「あの上官は王都で不祥事を起こしてここポートロイヤルに左遷させられたそうです。平民が多くを占める辺境領では男爵の次男であっても無視できる存在ではないのです」


 門兵はそう事情を説明して詰所へと案内する。椅子に座らされて尋問が開始されるが、俺は完全黙秘を貫いた。


 余計な言質は与えない方が良いし、国境を越えて活動する冒険者ギルドはそれなりの影響力を各国に対して持っているからである。


 冒険者ギルドが支部を撤退すれば当然それまで居た冒険者は他の土地へと移動することになる。


 対応する冒険者がいなくなれば魔物による被害は大きくなり、住民も何れは愛着がある土地だとしても生きる為に新天地へと宛のない旅をする流民となるのだ。だから大抵の貴族は高位冒険者を高給で雇い私兵とする。


 二つ名を持つ冒険者は貴族からしてみれば自身のステータスの一部であり、いざという時の備えである。


 低位であっても将来どうなるかは分からない故に、勧誘や優遇はしなくても問答無用に拘束することは有り得ない筈だったが実際に起こってしまったのだから仕方がない。


 黙秘を続けた事に苛立った貴族の男は領民でも無いのに暴行を加えてきた。咄嗟に受身をとったが座っている状態から殴られたので衝撃は完全に逃がせずHPも減少していることだろう。


 それでも口を割らない事に苛立ち殴打を重ねていく。スキルを発動させる訳ではなく減少するHPは二割にも満たないだろう。流石に見かねた部下が上官を制止するがそこに入ってくる男が居た。


 ポートロイヤルの冒険者ギルドを総括するギルドマスターであるエバンスの姿がそこにはあった。


 ----


 十数分前


 冒険者ギルドに自警団の服装をした男が飛び込んできた。ギルドでは治安維持の為に自警団と連携することもあるが予定のない来訪に受付をしたアリシアは男に注意する。


「自警団の方でも順番は守ってください」


「それは承知しているが今はそれどころではない。緊急時の取り決めに従って至急ギルドマスターのエバンス殿との面会を要求する」


 男は平隊長ではあるが自警団の中で部下を持つ身である。住民から慕われる事が多く、この男を知るアリシアは何か良くない事が発生したと察してギルドマスターの執務室へと走る。


 執務室へと辿り着いたアリシアはノックして入室する。


「アリシア君。今は受付をしている時間ではないのかね」


「自警団のロマ隊長がマスターに面会を希望していますが如何なさいますか」


「直ぐにここに通してくれ」


 他の冒険者の視線を感じて居心地が悪そうにしているロマだったが、この街の執政官(代官)に直訴する権限を自警団の隊長格でしかないロマは有していない。


 緊急時に連携する事が多い自警団の隊長だからこそ冒険者ギルドで無下に扱われる事はないだろうと考えて冒険者ギルドにやって来たのだ。


 アリシアに先導されて執務室に入室する。受付で待たされたら何をしでかすか分からず緊急の面会を要請したが、平民であり数多くの修羅場を潜ってきたエバンスの事だからこそ危機感を感じて直ぐに面会が可能だったのだ。


「突然で申し訳ございません。危急の件にて用件だけを話させて頂きます」 


 話を聞いたエバンスは眉をしかめる。血塗れで帰還する冒険者は少なくないため簡単な荷物チェックと水晶によって確認されることは門兵の職責の一部だが冒険者を有無を言わせず拘束するのは完全に越権行為だった。


「ロマ隊長。確認させてもらうがその貴族は辺境伯に連なる者なのか」


「いいえ。王都よりつい最近に左遷されてきた者で領主軍ではある程度の地位は与えられていますが、ポートロイヤルの総責任者ではありません」


「分かった。すぐ向かう。アリシア君。悪いがギルドの留守は任せたぞ」 


 そしてエバンスはポートロイヤル支部に所属するFランク冒険者のソラが暴行されているのを見てスキル【威圧】を発動させる事になった。

中鬼がボブゴブリンとなっていますがゲーム上の設定でこの小説では正しい表記となっています。

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