何とか魔石が形になりました
本日2度目の投稿です。
「お嬢様!起きてください!何時だと思っているのですか?学院に遅刻しますよ!」
アンナの声で目を覚ます。いけない、今日は早く起きて色々やることがあったのに、疲れて寝坊してしまったわ。それに、昨日魔力を放出したせいで、体がだるい…
何とか起き上がり、アンナに手伝ってもらいながら着替えを済ませ、大急ぎで食事をする。大急ぎで準備したおかげで、何とかエイドリアンが待つ馬車へと乗り込めた。
「エイリーン、大丈夫かい?なんだか疲れているようだけれど…」
馬車の中でエイドリアンが心配そうに声をかけて来た。
「大丈夫よ。慣れない生徒会の仕事で少し疲れただけだから」
そう、生徒会の仕事でね!
「それならいいのだけれど、無理はダメだよ」
「ありがとう、エイドリアン」
エイドリアンは本当に優しい。こんな優しい兄を私はフィーリップ様に売ろうとしているのよね。でも、それもこれも魔族との戦いを優位に進めるため。エイドリアン、ごめんなさい!
学校でもカルロ様やリリーたちに心配されたが、お昼休みと放課後の生徒会の仕事はしっかりこなした。
皆が私の体調を気遣ってくれ、少し早めに家に帰ることにした。そしてこの時間は、エイドリアンが家で稽古をしているはずだ。
私は家に着くと、フィーリップ様から預かった映像印刷型魔道具でこっそりエイドリアンを撮影する。どうやらポラロイドカメラの様で、次から次へとエイドリアンの写真が印刷されていった。
よし!これくらいあればいいよね!
私は急いで自分の部屋に戻ろうとしたとき
「エイリーン、一体君はさっきから何をしているんだい?」
恐る恐る声のする方を振りむくと、腕を組んだエイドリアンと目が合った。
「あら、エイドリアン、こんなところで会うなんて奇遇ね。私今から部屋に戻るところなの。それじゃあね」
急いで部屋に戻ろうとするが、エイドリアンにがっちり腕を掴まれてしまった。その拍子に、写真をうっかり落としてしまう。
マズイわ…非常にマズイ…
「エイリーン、これはいったい何かな?」
写真を拾ったエイドリアン。顔が怖い。ものすごく怒っているように見える。
「ごめんなさい!エイドリアン」
とにかく謝る。これで許してね…それじゃあ、私はこの辺で…
こっそり部屋に戻ろうとしたのだが、そう上手く行くはずもなく、私はエイドリアンに居間へと連れて行かれる。
厳しい尋問にあった私は、仕方なくエイドリアンにフィーリップ様の事を話した。さすがに前世の記憶の事や魔王が復活することは話せなかったが。
「要するに、エイリーンが作りたい魔道具の手伝いをする代わりに、俺が映った画像を提供すると言う事だな。それにしても良く出来ているな」
画像印刷型魔道具を不思議そうに見るエイドリアン。
「あの…エイドリアン、このことはカルロ様や他の皆には内緒にして欲しいの!ただでさえ、カルロ様達はフィーリップ様に良い印象を持っていないわ。もし2人で黙って魔道具を開発していると分かったら、きっと何が何でも止めさせられちゃうと思うの」
私の真剣な眼差しに、エイドリアンは顎に手を当てて考えている。
「わかったよ、殿下は少しエイリーンを束縛しすぎな気もするし、このことは内緒にしてあげる。その代わり、通信型魔道具をもう1組作ってもらえるように、カルデゥース侯爵令息に頼んでほしい。それがあればメルシアとも顔を見て話が出来るんだろ?もちろん、金はいくらでも払うから!」
なるほど、交換条件って訳ね。
「わかったわ!聞いてみる。でもフィーリップ様は、お金を受け取らないわよ。多分エイドリアンの画像を要求してくると思うわ。それでもいい?」
「うっ…分かった…出来るだけ協力するよ…」
物凄く嫌そうな顔をしているが、これで心置きなくエイドリアンの写真をフィーリップ様に渡せるのね。
私は早速フィーリップ様に通信器を使って連絡をし、今日の出来事を話す。
“はぁ~、あなたって本当にどんくさいのね。隠し撮りも出来ないなんて”
呆れるフィーリップ様。
「エイドリアンが優秀すぎるのよ!それで、通信型の魔道具は作ってくれる?ちなみにシュメリー王国でも、うまく通信できるのかしら?」
“あなた私をバカにしているの?もちろん通信出来るわよ!まあ、エイドリアン様の頼みなら喜んで引き受けるわ。既に作ってあるものがあるから、今から送るわね”
しばらくすると、大きな鳥が私の元へ飛んできて、無事魔道具を受け取る。
“魔道具が入っていた袋の中に、今日撮影したエイドリアン様の写真を入れて、鳥の足に引っ掛けて。もちろん、写真を持っているわよね”
う…さすがフィーリップ様。抜け目ないわね。今日隠し撮りしたエイドリアンの写真を袋に入れ、鳥の足にかけた。すると鳥はどこかに飛んで行ってしまった。
“ありがとう、確かに受け取ったわ!それじゃあまたね”
写真を受け取ったフィーリップ様は、ご機嫌で通信を切った。私は受け取った魔道具を、すぐにエイドリアンに渡す。
エイドリアンも物凄く喜んでくれた。早速メルシアお姉さまに送るようだ。
エイドリアンから写真撮影の協力を得た私は、生徒会の仕事をこなしつつ、魔石の開発を行うと言う、スペシャルハードな生活を何とか送っていた。そんな日々も、気づけば3ヶ月程度続いていた。
魔石の開発から3ヶ月も経過しているのに、未だ水晶に半分以下の魔力しか注げていないのだ。重ねて入れてみたり、元気な日に思いっきり魔力を注いでみたりしたが、失敗ばかり。何度意識を失ってしまったか…
“エイリーン、どうやら魔力は血を通り道にして全身に巡らせているようなの。ねえ、エイリーン、あなたの血を水晶に付けてから魔力を注いでみて”
フィーリップ様、今血と言いました?
“大丈夫よ、ナイフで少し指を傷つけるだけでいいの。一度やってみて。もしかしたらうまくいくかもしれないわ”
確かにうまくいくかもしれないわ。なんだかんだで後半年もしたら、魔王が復活するわ。のんびりしていられない。
私は意を決してナイフで軽く自分の指を傷つける。
そして血が流れる指が触れるように水晶を握ると、一気に魔力を込めた。
「ハァーハァー」
息が上がり、ベッドに倒れこむ。私の血液も魔力と一緒に吸収されたのか、水晶は赤色に変わっていた。
“エイリーン、数値はどう?”
重い体を何とか起こし、測定器に水晶を当てた
「嘘…」
“ちょっと、どうだったの?早く教えなさいよ!”
フィーリップ様がギャーギャー騒ぐ声が聞こえる
「2380。すごい、今まで最高よ!約70%程度の魔力を込めれたわ」
やった!やっと理想の数値を叩き出せたわ!これで魔石も作れる!
“やったわねエイリーン。でもその魔力が使えるかどうかね。エイリーン、水晶をもう一度握ってみて”
言われた通り水晶を握ると、私の指の傷が見る見る治っていく。しばらく握っていると、水晶にヒビが入り、そして割れてしまった。
「フィーリップ様、指の傷が治ったわ。体調も戻ったみたい。でも、水晶が割れてしまったわ…」
“なるほどね。水晶に込められた魔力が尽きると割れるのね。エイリーン、あなたが今水晶に込めた魔力は、あなたの体に戻ったの。だから、割れて無くなったのよ”
「なるほど。じゃあ、水晶に魔力を込めた後は、出来るだけ触らない方がいいのね」
“そうね、今後本格的に水晶に魔力を込めていくのだけど、出来るだけ魔力がマックスの時が理想的よ。確かこの前、朝魔力を測った時は3800だったわよね。魔力を込める時は、それくらいあるときにすること。そうすることで、より沢山の魔力を込めることが出来るわ”
なるほど、確かに魔力は疲れていたり体調が悪いと落ちる!そうすると、体力が復活している朝が理想ね!
“多分魔力マックスのあなたなら、3000位は魔力を込めれるはずよ。気絶してもいいように、予定のない休日に魔力を込めることをお勧めするわ”
「3000!私にできるかしら?」
“あなたなら大丈夫よ!”
フィーリップ様が笑顔で答える。確かにそれくらいの魔力を込められると、戦いの時かなり優位になる。でも予定のない休日か!そうすると日にちは限られるわね。魔王復活までに間に合うかしら…
でも何はともあれ、何とか形になった。ここまで来るのに、めちゃくちゃ大変だったけれど、頑張った甲斐があったわ!
後は人数分の魔石を作るだけね。魔王誕生まで、後半年とちょっと!頑張らなくっちゃ!
~魔道具を送った後のエイドリアンとメルシアの会話~
”エイドリアン、聞こえる?”
「ああ、聞こえるよ、本当にメルシアの顔を見ることが出来るんだな。元気そうでよかった!」
”エイドリアンも元気そうね。まさかあなたの顔を見ながら話せるなんて、夢みたい!これも全部エイリーンのおかげね。エイリーンのお友達の魔術師さんにもお礼を言っておいてね!”
「…うん、わかった…」
”そうだわ、エイリーンと魔術師さんにお礼がしたいんだけれど、一体何がいいかしら?”
「それはしなくていいよ!こっちからもしっかり対価は払っているから」
(俺の写真という対価をね…)
”それならいいんだけれど。そうだわ、今度アレクサンドル王国に行ったら、ぜひ魔術師さんに会わせて。直接お礼を言いたいわ”
「それは止めた方がいいね。あいつちょっと…いや、大分変わっているし、本人もあまり人が好きじゃないみたいだよ」
(初対面の俺に告白してきたぐらいだし…)
”そうなのね、残念”
手放しで喜ぶメルシアに対し、複雑な気持ちを抱えているエイドリアンであった。