フィーリップ様の魔道具は本当に優秀です
「エイリーン、早速で悪いんだけれど、この書類に目を通して不備がない確認してくれるかな」
カルロ様が山の様な書類を持ってくる。コレ、全部確認するの?噓でしょ…
書類を見て青ざめる私。
「エイリーンとニッチェル嬢が生徒会に入ってくれてよかったよ。僕たち2人じゃあ、中々書類整理が進まなくてね。困っていたんだ。これから毎日お昼と放課後よろしくね!」
カルロ様がにっこり笑う。そうか、カルロ様は私に自由な時間を与えない作戦ね。生徒会に入れば、私が学院で自由に動ける時間が大幅に減るわ。そうすることで、フィーリップ様から遠ざけようという魂胆だろう。
でも、カルロ様の役に立てるのならば、まあ良しとしておこう。私は早速書類の整理に取り掛かる。さばいてもさばいても一向に減らない書類たち…でもみんな頑張っているのだから、私も頑張らないとね。
「そろそろ暗くなってきたし、今日は帰ろうか」
カルロ様の一声で、今日の生徒会の作業は終わった。
疲れたわ!こんなに生徒会の仕事って大変なのね…ぐったりと机に倒れこむ私。隣では同じようにリリーも机にへばりついている。
「2人ともお疲れ様。疲れただろう!そのうち慣れるよ」
フェルナンド殿下も私たちを気遣ってくれる。窓を見ると既に辺りは真っ暗だ。クタクタな体を何とか起こし、私たちは家路についた。
家に着くと、すぐに食事に呼ばれ慌てて食堂へと向かう。
「エイリーン、今日は随分遅かったわね。何かあったの?」
お母様が不思議そうに聞いてきた。
「今日から私、生徒会に入ることになったの。生徒会の仕事をしていたら、遅くなってしまったのよ」
「そうだったの!それは大変だったわね。でも生徒会だなんてすごいじゃないの。優秀で人望が無いと入れないのよ」
カルロ様もそんなようなこと言っていたな。でも物凄く大変だけれどね。
「そう言えばエイドリアン、カルロ様から聞いたわよ!生徒会断ったんですってね。だから私のところに回ってきたのよ!」
私はエイドリアンに抗議の声をあげる。エイドリアンさえ断らなければ、こんなに大変な思いしなかったのに!
「えっ、俺生徒会に誘われていないよ。もし誘われていたとしたら、さすがに断らないよ」
「そうなの?でもカルロ様が…」
「カルロ様がエイリーンを生徒会に入れたくて嘘を付いたんだろ。大体あの人独占欲めちゃくちゃ強いから、少しでもエイリーンと一緒に居たいんだろう。それにカルデゥース侯爵令息の事もあるし…」
エイドリアンは何かを思い出した様で、急にあちらの方向を向いてしまった。
「そう言えばエイドリアン、フィーリップ様にコク…」
「わぁぁぁぁぁ、エイリーン、それ以上は言わないでくれ!せっかく忘れようとしていたのに!」
私の言葉を遮り、いつも冷静なエイドリアンが珍しく取り乱している。なんだかおもしろいわね。
食後はいつも家族でティータイムを楽しむのだが、さすがに今日は疲れた。湯あみをして早く寝よう。そう思い部屋へ戻り、湯あみを済ませる。すると、カバンの中から何か「ヴーヴー」鳴る音が…
何かしら?カバンを開けると、フィーリップ様からもらった袋の中のものがブルブル震えている。そうだ、生徒会のせいですっかり忘れていた!私は慌てて袋から中身を取り出す。
そこには、携帯電話の様な四角い形のものが出てきた。上の部分は液晶になっており、下にいくつかのボタンが付いている。ずっとヴーヴー震えているので、とりあえず一番目立つ赤いボタンを押してみる。
“やっと繋がった!ちょっと、今まで何していたのよ!ずっと鳴らしていたのよ!”
うわ、びっくりした。液晶部分にはフィーリップ様の顔が映っている。どうやらテレビ電話みたいなものの様だ。
「ごめんなさい。実はカルロ様に生徒会に入れられてしまって、遅くまで生徒会の仕事をしていたの」
“なるほどね。あの嫉妬深い男ならやりそうね。本当に漫画のキャラと全然違うわね。カルロ殿下”
フィーリップ様が呆れている。
“無駄な話をしていても仕方ないわね。魔石を作りたいって言っていたでしょ。私あれから色々と実験したの。魔力を込めるなら水晶が一番相性が良かったわ。とりあえず水晶に込めるようにしましょう”
この短時間でそこまで調べてくれたのね。さすが天才魔術師だわ。
“今からあなたの家に必要な魔道具を送るわ。窓を開けて待っていてくれる?”
今から魔道具を送るですって?どうやって?私は疑問に思いながらも、窓を開けた。すると、一匹の大きな鳥が窓を目掛けて飛んできた。私はびっくりして、しゃがみ込む!
“大丈夫よ。その鳥は私の魔力で作った鳥だから。足に魔道具が付いているでしょ。それを外して”
何?鳥も魔力で作ったの?信じられないわ!恐る恐る鳥に近づき、魔道具を足から外す。次の瞬間、鳥は跡形もなく消えてしまった。嘘…なんて魔法なの!凄いわ!
「フィーリップ様!なにこれ、めちゃくちゃ凄いんですけれど!!!」
私は大興奮で液晶に向かって叫ぶ。
“こんなくらいで驚かないでよ!私を誰だと思っているのよ”
呆れ顔のフィーリップ様。だって、15年間アレクサンドル王国に住んでいるけれど、こんなすごい魔法があるなんて知らなかったんだもの!
“それよりエイリーン、袋の中のものを取り出してみて”
言われた通り、袋の中のものを取り出す。中にはストップウォッチの様なものが入っていた。
「これは何?」
“その魔道具はより具体的な数値で魔力量を測れるのよ。試しにその赤いボタンを押してから、魔力を込めてみて”
私は言われた通り、ボタンを押し魔力を込める。
“数字が出ているでしょ?それを読み上げてみて”
「3458よ」
“さすがフィーサー家の令嬢ね。かなり魔力量が高いわ。通常王宮魔術師ですら、3000超えるか超えないかよ。それを軽く超えてくるなんて、あなたの魔力量半端ないわね。それも今は夜。最も魔力量が落ちる時間でこの数字とは…”
若干ドン引きなフィーリップ様。
「私8歳からずっと魔力量アップの訓練を受けてきているのよ。それもこれもカルロ様を守るため。魔力が高いのは普通の事よ!」
“なるほどね。じゃあ、実際水晶に魔力を込めてみましょ。袋に水晶も入れておいたの。次はそれに魔力を目いっぱい込めてみて”
確認すると袋の中から、手の平サイズの透明の水晶が出てきた。私は言われるがまま、目いっぱい魔力を込める。と、次の瞬間、私は立っていられなくなり、その場にへたり込んでしまった。
「ハァーハァー」
息が乱れる。でも、これで水晶に魔力が込められたのかしら?
“エイリーン、大丈夫?今魔力を込めた水晶に、さっきの測定器を当ててみて”
私は言われるがまま、測定器に水晶を当てる。
「1012…」
私の魔力量の1/3も込められていない…
“う~ん、思ったほど込められなかったわね。でも初めてなのに水晶に魔力を込められたのだから上出来ね。今日はこれくらいにしておきましょう!魔力が回復するまでに、多分1週間程度かかるだろうから、次は来週ね。それまでに、もっと効率よく魔力を込められないか調べておくわ”
「フィーリップ様、ありがとう!あなた本当にすごい魔術師なのね。こんなに色々してもらって悪いわ!何か私に出来ることがあったら言って!」
私の申し出に、少し考え込むフィーリップ様。
“それなら、この前渡した画像印刷型魔道具で、エイドリアン様を撮ってきて!プライベートショットをお願い!”
物凄く目を輝かせているフィーリップ様。
「…わかったわ」
エイドリアン、あなたを売るようなことをしてごめん…でもこれもカルロ様の為、こんな妹をどうか許してね!
“ありがとう、エイリーン。それじゃあまたね”
フィーリップ様の言葉と同時に、液晶から映像が消えた。とりあえず次の通信に備えて、フィーリップ様からもらったこの魔道具の説明書を読まないといけない。画像印刷型魔道具でエイドリアンの撮影もしなきゃいけないし…
ダメだ!魔力の使い過ぎと疲れで体が動かない。とりあえず、明日早く起きてから確認しよう。それにしても、フィーリップ様の魔道具、どれも素晴らしかったわ。だてに天才魔術師って言われるだけのことはある…
重い体を起こし、何とかベッドにもぐりこむ。今日は本当に疲れたわ…そう思っているうちに、眠りについてしまったのであった。
~エイドリアンに告白したフィーリップ様編~
あの燃えるような赤い髪、整った美しいお顔!間違いなくエイドリアン様だわ!
「あの、エイドリアン様ですよね」
「そうだけれど、君は確か、カルデゥース侯爵家の子息だよね。俺に何か用かい?」
「あの、ずっとずっと好きでした!良かったら付き合ってください!」
騒めく生徒たち。
「ごめん、俺そう言った趣味はないんだ。それに婚約者もいるし。ごめん…」
「エイドリアン様、婚約者がいらっしゃるの!そんなの聞いていないわ!」
エイリーンめ!エイドリアン様に婚約者がいること、内緒にしていたわね!一言文句を言いに行かなくっちゃ!
こうして、エイリーンの教室に文句を言いに来たフィーリップ様でした。
フィーリップ様は周りにどう思われようとあまり気にしないタイプ。とても変わっていますが、それなりに友達はいるようです。