侯爵令息と何とか接触したいです
「何で、何で悪役令嬢のエイリーンがまだここにいるんだよ!!!」
えっ、今この美少年、私の事悪役令嬢って呼んだよね?
もしかして…もしかして、この子も転生者なの!!!!
「おい、君!今エイリーンの事、悪役何とかって言わなかったかい?エイリーンは僕の大切な婚約者なんだぞ。失礼なことを言うとただじゃおかないぞ!!」
「そうよ、エイリーン様を悪役呼ばわりするなんて、なんて人なの?大体あなた1年生でしょ。先輩に向かってそんな言葉を言うなんて、一体どういう教育を受けているのよ!」
カルロ様とリリーが鬼の形相で美少年に詰め寄る。
「君は確か、王宮魔術師長の息子でもある、カルデゥース侯爵家の次男のフィーリップだよね?君の話は聞いているよ。父親に似て非常に優秀な魔術師だってね!でも、さすがに公爵令嬢でもあるエイリーン嬢に暴言を吐くのはちょっといただけないな」
いつも冷静なフェルナンド殿下まで、明らかに不満げな顔をしてる。
これはまずいわ!
「みんな、私は大丈夫だから。きっと急にぶつかってびっくりしたのよね。あなた、1年生でしょ。早く教室に行かないとまずいわよ」
私の言葉にハッとした美少年は、私たちに一礼すると、走って去って行った。
「ちょっと、エイリーン様、何であんな無礼な男を逃がしてしまったの!私もっと文句言いたかったのに!」
リリーが鼻息荒く私に詰め寄る。
「確かに、今回だけはニッチェル嬢のいう事が正しいよ!あの無礼者、ただじゃ済まさないからな!」
鬼の形相で怒り狂うカルロ様。こんな恐ろしい顔、初めて見たわ…
「2人とも落ち着て!きっとあの少年は何かと勘違いしたのよ。誰にでも間違いはあるもの。ねっ、今回は許してあげて!」
「「まあエイリーン(様)がそういうなら」」
2人はまだ物凄く不満そうだったけれど、とりあえず落ち着いてくれた。それにしても、あの美少年、ものすごく気になるわ。間違いなく転生者よね。何とかして接触したいわ。
私は彼の情報が知りたくて、それとなくカルロ様とフェルナンド殿下に聞いてみた。彼はかなりの変わり者で、ほとんどお茶会等も出ず、ずっと魔力の研究をしているそうだ。そのため、魔力に関しては王宮魔術師長の父親よりも長けているとの噂もあるらしい!
なるほど!
「エイリーンはあの無礼者に興味があるのかい?」
物凄く不機嫌そうなカルロ様。
「いいえ、ちょっとどんな人なんだろうと思っただけよ。全くこれっぽっちも興味はないわ!」
私はとっさに嘘を付く。
「ふ~ん、目が泳いでいるね。エイリーンは嘘を付くとき必ず目が泳ぐからね!」
カルロ様、痛いところを付いて来る。ずっと一緒に居るのだから、まあ仕方がない。
「エイリーン、彼には近づかないように!分かったかい?念のため、護衛騎士を増やしておこう!!」
えぇぇぇぇ!それはものすごく困るわ!じゃあどうやって彼が転生者だって確かめればいいのよ!
私は失意の中、家へと帰る。
何とかして彼に会って確かめたい。でも普通に声をかけるなんて無理よね。護衛騎士も増やされちゃったし…
そうだわ!私は便箋と封筒を取り出す。もちろん、フィーリップ様に手紙を書くためにだ。
早速書き始める!
“昨日の無礼は許してあげるわ。だからもう二度とあんな無礼なことはしないでね エイリーン”
そしてその下に日本語で
“今日の放課後、漫画、「聖なる愛をあなたに」で、カルロ様がリリーに告白した丘の上の木の下で、待っています。”
と、書いておいた。もし彼が転生者で、あの漫画の愛読者ならきっとやってくるはず。
この手紙を明日アンナに渡してもらおう。もしアンナが手紙を見たとしても、特に支障はない内容だもの。問題ないわ!
でも、カルロ様から護衛を付けられているのよね。きっと私があの場所でフィーリップ様に会ったら、カルロ様は飛んでくるだろう。
う~ん、どうやって護衛をまこうかしら。相手は王宮専属の護衛騎士。走って振り切るのはほぼ不可能よね。
何かいい方法はないかしら、何か…
そうだ!一階の女子トイレの窓から脱出しよう。さすがに護衛騎士たちも女子トイレの中には付いてこれないものね。きっとトイレの前で待っているはず。
恥ずかしいけれどお腹が痛いふりをして入った方がいいわね。そうすればきっと護衛騎士も気を使って遅くなっても騒がず待っていてくれるはず…
15歳の女性としてはものすごく恥ずかしいけれど、背に腹は代えられないわ!よし、その作戦で行こう!
次の日の朝、早速アンナに手紙を渡す。
「アンナ、これをカルデゥース侯爵家のフィーリップ様に渡して欲しいの」
アンナは険しい顔をしている。何かまずいかしら!
「お嬢様、カルロ殿下からフィーリップ様には近づかせないよう、くれぐれも頼んだと仰せつかっております。ですからこのような手紙はお渡しできませんわ!」
カルロ様、アンナにまで手を回していたのね!
「違うのよアンナ。昨日の無礼を許すと言う内容の手紙なの!気になるなら読んでもらっても構わないわ!」
私の言葉に、恐る恐る手紙を開くアンナ。
「確かにそのようですね。わかりました。カルロ殿下にも念の為ご確認いただいてからお渡しいたしますね」
アンナはにっこり笑ってそう言った。アンナめ、いつからカルロ様の手下になったんだ!まあ、カルロ様に見られても平気だけれどね。
私の予想通り、カルロ様からOKが出たとのことで、無事フィーリップ様に渡してもらえた。後は彼が来てくれるかどうかね!
お昼休みが終わり教室に戻ろうとしたとき、アンナに声をかけられた。
「お嬢様、こちらフィーリップ様からでございます!申し訳ございませんが、カルロ殿下が中をチェックしておりますので、封は開いておりますわ」
アンナがにっこり笑ってそう言った。アンナめ、申し訳ないなんてちっとも思っていないじゃない。本当にもうプライバシーも、へったくれもあったもんじゃないわ!
私はアンナから不満げに手紙を受け取る。手紙には“昨日のことは深く反省しています。もうあんなことは二度と言わないので安心してください”
と書いてあった。
もちろん、その下には日本語で
“放課後の件承知した。ただ、君が僕と2人で会うのは何かとまずい。役に立つ魔道具を図書室の一番奥の一番下の一番左に隠しておいたから、それを付けてきてほしい」
そう書いてあった。役にたつ魔道具って一体何かしら?それにやっぱり、フィーリップ様も転生者だったのね!
私はフィーリップ様に会うのが楽しみで、午後の授業はほとんど聞いていなかった。そして、待ちに待った放課後。リリーには今日はちょっと用事があるからと、適当に理由を付けて別れた。
ちなみにカルロ様は生徒会で仕事をするため不在だ。私は急いで図書室に向かい、指定された場所を見てみる。特に何も置いていないわね。とりあえず本をどかしてみるか。
するとどかした本の奥に、小さな袋が。中を開けてみると、ブローチと手紙が入っている。手紙には日本語で“このブローチは付けている間姿を消すことが出来る。これを付けて姿を消した状態で来て欲しい”と書いてあった。
何?そんなものがこの世にあるの?一体あの男は何者なのかしら?
それに、さすがにここで付けるのはまずいわね。私は当初の予定通り、トイレへと向かった。ちなみに私が向かったのは、1階ではなく3階のトイレだ。トイレの中に誰もいないことを確認し、すぐにブローチを付けた。
本当にこれで私の姿は見えないのかしら。ちょっと不安だったが、とりあえずそのままトイレから出て、急いで呼び出した場所へと向かう。途中何人かの生徒とすれ違ったが、私の存在は気づいていないようだ。
息を切らしながら、漫画でカルロ様がリリーに告白した場所へと向かった。目的に場所に着くと、そこには既にフィーリップ様が待っていた。
同じ転生者でもあるフィーリップと何とか接触でいたエイリーン。彼とはどんな話し合いが行われるのでしょうか。
~フィーリップと遭遇後、リリー&カルロ&フェルナンドの会話~
リリー「本当に失礼な男だったわよね。あの1年!」
カルロ「それより、エイリーンがやたらあの男に興味を持ったところが気になる」
フェルナンド「確かに異常なまでに、彼の事を聞いていたね」
カルロ「だろう?エイリーンの事だ。浮気などは大丈夫だと思うが、良からぬことを考えているのかもしれない。専属の護衛騎士を増やすのはもちろん、専属メイドのアンナにも手を回しておこう。第一僕に内緒でエイリーンが男と会うなんて許せないからな」
リリー「…相変わらず器が小さいわね…(小声)」
リリーの言葉に小さくうなずくフェルナンド殿下
カルロ「ニッチェル嬢、何か言ったかい?」
リリー「いいえ、別に何も…」
カルロ様はこんな感じでエイリーンの周りを固めていったようです。ちなみに今の時点ではまだカルロ様に非協力的なリリー。特にエイリーンの動きを監視している節は見当たりません。