一生懸命頑張るエマ様は素敵です
途中からライリー視点が入ります
シュメリー王国に来て1週間が過ぎた。王都を観光しながらショッピングをしたり、海で遊んだりと、充実した毎日を過ごしている。
家族や使用人、リリーやフェルナンド殿下のお土産も買った。せっかくなので、海にちなんだお土産をいくつか選んだけれど、みんな気にいってくれるかしら。
「エイリーン様、ちょっといいかしら」
メルシアお姉さまとお部屋でお茶をしていた時、エマ様がやって来た。エマ様と会うのは、初めて会った時以来だ。
「あらエマ、来ていたの?どうしたの?急に」
メルシアお姉さまの問いに、うつむいてしまったエマ様。
これはもしかして、ライリー様の事で私に相談があるのね。
「メルシアお姉さま、ちょっとエマ様と2人で話がしたいの。いいかしら?」
私の言葉にしばらく考え込んだメルシアお姉さまだったが「わかったわ」と言って席を外してくれた。
空いた席に座ったエマ様は、ぽつぽつと話し始めた。
「あのね、この前エイリーン様にライリーの事好きなら、きちんと伝えた方がいいって言われたでしょ。それでね、私なりに考えたの。でも、私どうしてもライリーの顔を見ていると、嫌なことを言ってしまうの。自分でも何とかしなきゃって思っているんだけれど…」
そう言うと、エマ様は俯いてしまった。
なるほど、素直になれないお年頃ってやつね!可愛いわね!
さて、どうしたらいいかしら。私は少し考える、あっ!そうだわ!
「エマ様、ライリー様に何かプレゼントを渡してみたらどうかしら?できれば愛情がこもっているものがいいわ。例えば手作りのものとか!」
私もよくカルロ様にサンドウィッチやお菓子などを作る。そう言えばカルロ様の誕生日には、マフラーを手作りしたこともあったわね。
「手作りって…私何も作れないわ」
そうか、公爵令嬢として育ったエマ様は、身の回りの世話なども全てメイド任せ。普通は何も出来なくて当たり前か。
ならば!
「エマ様、では私と一緒にお菓子を作らない?そうね、クッキーなんかはどうかしら?初心者でも比較的簡単よ」
私の提案に嬉しそうにうなずくエマ様。早速私たちは、メルシアお姉さまに王宮の厨房を借りられないか聞きに行く。
「クッキー作りですって!楽しそうね!私もエイドリアンに作りたいわ」
メルシアお姉さまの一言で、3人でクッキーを作ることになった。早速メルシアお姉さまが料理長に厨房を借りられるか聞きに行く。
料理長は快く厨房を貸してくれるとのこと。親切な人でよかったわ!今回私たちが作るのは、チョコチップが入ったクッキー。料理長は材料まで準備してくれた。
早速調理スタート!
溶かしたバターに卵と砂糖を加え、しっかり混ぜ合わせる。卵を割ったことが無いメルシアお姉さまやエマ様は、うまく割れないようで卵の殻まで入ってしまっている。
殻を丁寧に取り除き、しっかり混ぜ合わせる。2人とも真剣そのものね。ふるいにかけた小麦粉を入れるのだが、エマ様は小麦粉が舞ってしまい、せき込んでいるわ。せき込んだせいでさらに小麦粉が舞う…
気が付くとエマ様の髪や顔に小麦粉が…
「やだエマ、顔も髪も真っ白よ」
そう言って笑うのは、メルシアお姉さまだ。
「メルシアお姉ちゃんだって、髪の毛に粉が付いてるじゃない」
すかさずエマ様が反撃をする。確かに2人とも粉をかぶって白くなっている。私はそんな2人を見て、つい笑ってしまった。
「「笑わないでよ!」」
2人から抗議の声が上がる。私はすかさず謝るが、こんなに楽しいお菓子作りは初めてかもしれない。
細かく刻んだチョコを入れ、何とか生地は完成。この生地を丸めていく。2人とも真剣そのものだ!特にエマ様、顔中に生地が付いているが、そんなことお構いなしに必死に丸めている。
そんな姿を見ていると、エマ様の思いがライリー様にうまく伝わると良いなと、願わずにはいられない。
丸めたお菓子をオーブンで焼くのだが、ここは料理長含め料理人に手伝ってもらった。王女と公爵令嬢が火傷したら大変だものね!
しばらくすると、クッキーが焼ける香ばしい匂いが。焼きあがったクッキーを見たメルシアお姉さまが、ため息を付く。
「なんとかうまく焼きあがったけれど、私とエマのは形がいびつね。それに比べてエイリーンのは、お店で出せるくらいキレイだわ」
「メルシアお姉さま、お菓子は見た目ではないわ。味よ!それに愛情をたっぷり込めたお菓子は、どんな美しいお菓子よりきっとおいしいわ」
私はそう言うと、メルシアお姉さまの作ったクッキーを1つ口に放りこむ。
「お姉さまのクッキー、とっても美味しいわよ!」
私の言葉に、2人も自分のクッキーを食べる。
「確かに味は美味しいわ」
「うん、おいしい!」
2人とも満足そうだ。焼きあがったクッキーはキレイにラッピングをした。
「それじゃあ、このクッキーを男性陣に渡しに行きましょうか?」
私が声をかける
「それはそうと、エマは誰に渡すの?」
メルシアお姉さまが、エマ様に質問した。そう言えばメルシアお姉さまにはエマ様がライリー様を好きな事、言っていないものね。エマ様、どう答えるのかしら…
「…ライリーに…」
物凄く小さな声でつぶやくエマ様。その顔は茹でだこの様に真っ赤だ。メルシアお姉さまも察した様で、「えっ、そうだったんだ!私気づかなかったわ」とつぶやいている。
「とにかくせっかく作ったんだから、早く男性陣に渡しに行きましょう」
私の言葉に2人もうなずく。
ライリー様、エマ様のクッキー喜んでくれるといいな…
私たちは男性陣がいる中庭へと向かった。そこではカルロ様・エイドリアン・ライリー様が木刀で打ち合いをしている。
「ねえ、あなた達!ちょっと来て!」
メルシアお姉さまの言葉で、男性陣はこちらを向く。
「どうしたんだいメルシア、俺たちに何か用かい?」
「実はね、私たちクッキーを作ったの!はい、エイドリアン。美味しいから食べてみて」
嬉しそうにエイドリアンにクッキーを渡すメルシアお姉さま。
私もカルロ様にクッキーを渡した。2人とも早速クッキーを口に入れる。
「美味しいよメルシア、これ本当に君が作ったのかい?」
「そうよ、エイリーンに教えてもらいながら作ったの」
得意げなメルシアお姉さま。
「エイリーン、君が作ってくれたクッキー、本当に美味しいよ!ありがとう」
カルロ様が私の頭を撫でてくれる。幸せだわ!!
「ねえ!エイリーン!僕のクッキーは?僕にはないの?」
隣からライリー様が大声で叫んできた。
「ライリー様のクッキーはエマ様が作ってくれたのよ」
私がそう言うと、エマ様が真っ赤にしながら、ライリー様にクッキーを渡す。
「え~、エマから~!これ食べられるの?」
明らかに不満げなライリー様。
次の瞬間!
「ライリーのバカ!」
ライリー様にクッキーを投げつけると、泣きながら走って行ってしまった。
「エマ様!」
私が追いかけようとしたが、メルシアお姉さまに止められる。
さすがにヤバいと思ったのか、ライリー様もオドオドしている。
メルシアお姉さまはエマ様が作ったクッキーを拾うと、ライリー様と目線が合うようしゃがみ込む。
「ライリー、このクッキーはね。エマが一生懸命あなたの為に作ったクッキーなのよ。卵がうまく割れず悪戦苦闘したり、舞い上がった小麦粉にせき込みながらも一生懸命作ったの!顔や頭が小麦粉で白くなろうがお構いなしでね」
メルシアお姉さまは、ライリー様をまっすぐ見つめている。
「あのエマが…僕の為に?」
「そうよ!あんなに真剣なエマは初めて見たわ」
メルシアお姉さまの言葉に考え込むライリー様。
「僕…エマに謝ってくる!」
そう言うと、ライリー様はメルシアお姉さまからクッキーを奪い取り、エマ様が走って行った方向に走り出した。
♢♢♢♢♢♢♢♢
(ここからライリー視点です)
しばらく走ると、木の下で泣いているエマを見つけた。
「エマ」
僕が駆け寄ると、そっぽを向くエマ。
「エマ、ごめんね!僕の為に一生懸命クッキーを作ってくれたなんて、知らなかったんだ。傷つけて本当にごめん」
僕は素直に謝る。エマ、許してくれるかな?
「ライリーのバカ。私本当に一生懸命作ったんだから。なのにあんなこと言うなんて、ライリーなんか大っ嫌い!」
うっ、相変わらず可愛くないな。ちゃんと謝ったじゃん!
「でも、来てくれてありがとう。良かったら一緒にクッキー食べよう」
エマはそう言うと、僕に微笑んだ。あれ?エマってこんなに可愛かったっけ?
「ほら、ここ座って」
エマに言われて隣に座る。そしてエマの作ったクッキーを2人で食べた。
「美味しい」
僕の言葉に嬉しそうに「当たり前でしょ!私が作ったんだから」と言うエマ。
いつもと同じ口調なのに、なんだかいつも見たいにムカつかない。なんでだろう。
「ほら、いっぱい作ったらもっと食べて!ライリーの為に作ったんだから」
エマはそう言うと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
その姿を見て、僕も恥ずかしくなって俯く。何なんだろう、この気持ち。僕は俯きながらクッキーを食べる。もう味なんてよくわからない。
全てのクッキーを食べ終わった。
「エマ、クッキーありがとう。とっても美味しかったよ」
「じゃあ、また作るね」
エマはそう言うと嬉しそうに笑った。
それからしばらく2人ですごした。特に話をする訳でもないけれど、なんだか居心地がいい。そうこうしているうちに、日も暮れて来た。エマも公爵家に帰らないといけない。
「エマ、そろそろ戻ろうか」
僕の言葉にうなずくエマ。僕は何となくエマに手を差し伸べる。エマも僕の手を取ってくれた。初めて繋ぐ手は、温かくて柔らかい。なんとなくそのまま手を繋いで、みんなの待つ場所まで戻った。
♢♢♢♢♢♢♢♢
「ライリー、エマと仲直り出来たみたいね」
2人が手を繋いで戻ってきた姿を見て、メルシアお姉さまが2人に声をかける。
「まあね!」
嬉しそうに答えるライリー様の隣で、頬を少し赤くしたエマ様がいる。
手を繋いで戻ってきたってことは、きっとうまくいったのね。
2人を見つめていた私の元に、エマ様が寄ってきた。
「あのね、あなたが言った通り、少しだけ素直になれたのよ!でもまだライリーには私の気持ちは伝わっていないけれど…でも、私今回の事で、自分の気持ちを伝えるって大切だってわかったわ。そのことに気づかせてくれてありがとう!エイリーンお姉ちゃん!」
そう言うと、エマ様はそれはそれは可愛い笑顔を見せてくれた。
エマ様とライリー様、まだお互い素直になれないこともあるかもしれないけれど、これをきっかけに2人がもっと仲良くしてくれると嬉しいな!
~クッキー事件後、メルシアとエイリーンの会話~
「ねえ、エイリーン、いつエマがライリーを好きって気づいたの?」
「えっと、初めてエマ様に会った日です。あの日2人きりになった時、直接エマ様に確認したのよ」
「え~~、だってあの2人いつも喧嘩ばかりしていたじゃない、エマもいつもライリーに酷いこと言っていたし!あれでどこにエマがライリーが好きなんてわかる要素があったのよ!」
「ちょっとしたしぐさですかね。ライリー様が私とエイドリアンを誘って遊ぼうとしたとき、寂しそうにしていたりとか…カルロ様との打ち合いの時に心配そうに見ていた時とか…まあ色々と」
「エイリーン、あなた凄いわ、そんな小さなしぐさを察知するなんて!私ぜ~んぜん見ていなかったわ!でも好きなら何で気持ちを伝えなかったのかしら。私なんてエイドエリアンに一目ぼれした時から、ガンガンアタックしたのに」
メルシアお姉さまは首をかしげる
「まあ、恥ずかしくてうまく自分の気持ちを伝えられない子もいるのよ!素直になれないお年頃ってやつです」
「面倒くさい年頃ね」
※メルシアお姉さまは自分の気持ちをストレートに伝えるタイプなので、エマ様の事が理解できないようです。




