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メルシアお姉さまは偉大です

本日2回目の投稿です。

最近忙しく、ストックが切れてきました。

しばらく1日1回の投稿が続くかもしれませんが、よろしくお願いします。

王家の馬車に乗り込んだ私は、カルロ様と一緒にシュメリー王国へと出発した。ちなみにエイドリアンは公爵家の馬車に乗っているので、馬車には2人だけ。

馬車の周りを護衛騎士たちが警護し、同行予定のメイドたちは別の馬車に乗っている。


「エイリーン、これから約1か月間、ずっと一緒だね」


嬉しそうなカルロ様とは裏腹に、私の心はやはり晴れない。

大好きなカルロ様とずっと一緒、本来なら飛び跳ねて喜ぶはずなのに、好きな人とも一緒に居られず死んでいったマリアの事を考えると、どうしても罪悪感が生まれるのだ。


そんな私を察したのか、心配そうに見つめるカルロ様。

いけないわ、これ以上カルロ様に心配をかける訳にはいかない。


「カルロ様とずっと一緒だなんて、初めてですわね。なんだか新婚旅行に来ているみたいですわ」


「新婚旅行?」


いけない、アレクサンドル王国では新婚旅行は存在しない。つい前世の記憶を元に話をしてしまったわ。


「結婚した夫婦が初めて2人で旅行に行くことを、新婚旅行と言うらしいです。他国ではごく一般的な風習として行われていると本で読みましたの」


これでごまかせたかしら…


「結婚した夫婦か…」


カルロ様が真っ赤になってつぶやいた。

私一体何を言っているのかしら!マリアの事ばかり考えていて、つい結婚なんて言葉を口走っちゃったわ!恥ずかしい!


私も真っ赤になって下を向く。


「新婚旅行か!とても素敵な風習だね。せっかくだから僕たちも結婚したら新婚旅行に行こうか」


カルロ様が照れながらそう言った。


私もうなずく。なんだこの何とも言えない雰囲気は…

話を変えないと!


「カルロ様はシュメリー王国へは行ったことがあるの?私は初めてだからとても楽しみなの。特に海が見たいわ、とっても奇麗なんですって。」


アレクサンドル王国は四方八方を他国に囲まれていることもあり、海が無い。その点、シュメリー王国は、先端に位置しているため海があるのだ。


「子供の頃何度か視察で行ったことがあるよ。確かにあの国の海はとても奇麗だ。きっとエイリーンも気に入るよ」


奇麗な海か。前世では高校の修学旅行で行った沖縄の海。あの時の海もものすごく奇麗だったな。あれくらい奇麗なのかしら!早く見てみたいわね、美しい海。


その後もカルロ様と雑談を楽しみつつ、1日目に泊まる宿へと着いた。さすが王族と公爵家の人間が泊まるために準備された宿。とても立派だ。既に王都から随分離れているためか、珍しい料理が出てきた。


どうやら郷土料理らしい。ただやはり私は食欲がなく、ほとんど残してしまった。勿体ない…



2日目も3日目も私はやはりあまりご飯が食べられずにいた。あまりにもご飯を食べないので、カルロ様はかなり心配している。少しでも何か食べられるものをと、珍しい果物を準備してくれたりするが、やはりあまり食べることが出来ない。


そうこうしているうちに、シュメリー王国の王都へと無事到着した。ちなみにずっと内陸部を進んでいた為、残念ながらまだ海は見れていない。


シュメリー王国もアレクサンドル王国と同じ、中世ヨーロッパ風の造りになっている。ただ海がある国ということで、見たこともない魚などが売られている。無意識に馬車の窓から身を乗り出していたようで、カルロ様から「危ないよ」と注意を受けた。


そしてそのまま膝の上へと乗せられる。


「エイリーン、随分軽くなってしまったね」

膝に乗っている私を見つめながら、カルロ様がつぶやく。


しばらくすると、大きなお城が見えてきた。シュメリー王国の王宮だ。王宮の前には、水色の長い髪をした女性が立っている。


あれは…メルシアお姉さまだわ!


王宮の前で馬車は止まり、私たちは降りる。一足先に降りていたエイドリアンに抱き着いているメルシアお姉さま。久しぶりの婚約者との再会、無理もないわよね。でもなぜこんなところにメルシアお姉さまがいるのかしら?


「エイリーン、よく来たわね。会いたかったわ」


私を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってきて抱きしめるメルシアお姉さま。


「メルシアお姉さま、お久しぶりです。私も会いたかったわ」

そう言って私も抱きしめ返す。


「カルロ殿下もよく来てくださいました。長旅で疲れたでしょう。どうぞ、王宮内へ」


「僕まで押しかけてすまないね。今日からよろしく頼むよ」


カルロ様はそう言うと、私の手を引き王宮内に入ろうとしたのだが…


「エイリーンは今から私とお出かけする予定なの。だからごめんなさい」


メルシアお姉さまはカルロ様から私を引き離すと、隣に止まっていたシュメリー王国の馬車へと乗り込む。


「おい、エイリーンをどこに連れて行く気だ!」


後ろからカルロ様が叫びながら追いかけてきたが、それを無視し馬車は走り出した。


「相変わらずエイリーンにべったりね」

そう言うと、メルシアお姉さまはクスクス笑っている。相変わらず自由な人ね、メルシアお姉さまは…


「それよりお姉さま、一体どこに行くの?」


私の質問に、「いいところよ」と一言。

いいところってどこだろう?そう思っていると、目の前にはそれは美しい海が飛び込んできた。


真っ白な砂浜に、どこまでも続くエメラルドグリーンの海はとにかく美しい!


私が海に見とれていると、馬車が止まった。


「エイリーン、こっちよ」

馬車から降りると、メルシアお姉さまに手を引かれ、砂浜まで走る。


「ここはね、王族専用のビーチなのよ。だから誰も来ないわ」


メルシアお姉さまは、そう言うと砂浜に腰を下ろした。

私もその隣に座る。


「エイリーン、エイドリアンから聞いたわ。大変だったのね」

メルシアお姉さまは私の顔を見ることなく話し始めた。


「エイリーン、知っている?私の国ではね、海の向こうに死者の国があると考えられているの。だから人が亡くなると、海に遺体を流すのよ」


その話、聞いたことがあるわ。水葬っていうやつよね。


「だから私の国では、亡くなった人に会いたくなったら海に来るのよ。そこで相手に話しかけるの。もちろん、相手は亡くなっているから返事が返ってくることはないわ。それでもね、話しかけるだけでも気持ちが落ち着くのよ」


メルシアお姉さまは私に向き合うと更に話し出した。


「エイリーン、あなたは何をそんなに苦しんでいるの?私はエイドリアンから客観的な話しか聞いていないし、その令嬢の事も知らない。だからこそ、先入観なくあなたの話を聞くことが出来るわ!ねえ、話してみて。どんなことでもいいのよ。あなたの気持ちを聞かせて」


メルシアお姉さまの美しいオレンジ色の瞳に見つめられて、私はポツポツと自分の気持ちを話し始めた。


「マリアはとても優しい子なの。私が困っていたら悩みを聞いてくれるし、助けてもくれた。なのに私は、マリアが苦しんでいる時何もしてあげられなかった。きっとマリアはね、あんなことしたくなかったと思うの。でも侯爵に逆らえず仕方なくやったの。

もしかしたら私にどこかで助けを求めていたかもしれない。なのに私は、気づいてあげられなかった…」


私の目から涙が溢れる。


「私はいつも自分のことで精一杯で、マリアの苦しみに気づいてあげられなかったの。私たち友達なのに…」


目からとめどなく涙が溢れる。もう止まらない。


「エイリーン、泣いても良いのよ。ここには私以外誰もいないわ!今まで1人で抱えていたのね。辛かったね。よく頑張ったね!」


メルシアお姉さまの言葉を聞き、私の中で何かが切れた。私は堰を切ったようにワーワー泣いた。まるで子供の様に。私が泣いている間、ずっと背中をさすってくれるメルシアお姉さま。


しばらく泣き続けたらさすがに疲れた。私が泣き止んだのを見計らい、メルシアお姉さまが話し始めた。


「ねえ、エイリーン、令嬢を助けられなかったこと、苦しんでいるのに気づけなかったことを後悔していると言ったわよね。でもね。それは、無理な話なのよ。だってそうでしょ。人の心なんて誰にも分からないものよ。私だって今日エイリーンが話してくれたから、エイリーンの苦しみがわかったのよ」


確かにそうだ。それでも私はマリアを助けたかった…


「ねえ、エイリーン、海に話しかけてみない?」


「海に?」


「そうよ、海の向こうには死者の国があるって話をしたわよね。海に向かってエイリーンの気持ちを話せば、もしかしたら令嬢に伝わるかもしれないわ」


にっこり微笑んでメルシアお姉さまが言う。もしも…もしもメルシアお姉さまの言う様に死者の国があるなら、もしかしたらマリアにも私の気持ちが伝わるかもしれない。


「マリア、あなたが辛い時、助けてあげられなくてごめんね!気づいてあげられなくてごめんね!こんな私だけれど、それでもマリアの事今でも友達と思っているよ」


私は今の気持ちを思いっきり海に向かって叫んだ。


「エイリーン、私たちはこれからも生きて行かないといけない。今回の事でエイリーンは深く傷ついたよね。でもいつまでも悩んでいたら、その令嬢も心配するんじゃないかしら。だって、とても優しい令嬢なんでしょ?」


メルシアお姉さまがにっこり笑ってそう言った。確かにマリアなら私が泣いていたら心配するだろう。“エイリーン、泣かないで、元気出して”って。そうだ、いつまでも泣いていたらダメよね。


マリアの分も、私はしっかり生きていこう。後1年もしないうちに魔王も復活する。いつまでも落ち込んでいられない。


「ねえ、エイリーン、お腹空かない?シュメリー王国は魚がとても美味しいのよ。近くにお気に入りのお店があるの。寄って行こう」


メルシアお姉さまはそう言うと、私の手をとり馬車へと向かった。

ありがとう、メルシアお姉さま!きっとお姉さまがいなかったら、今でもまだウジウジ悩んでいたに違いない。


もちろん、マリアへの罪悪感がすべて消えたわけではない。それでも私は前を向いて進まなければいけないんだ!


温かなメルシアお姉さまの手がとても心地いい。

エイドリアン、素敵な女性と婚約してくれてありがとう。


メルシアお姉さま、もしあなたが悩んだり傷ついたりしたときは、今度は私が助けるからね。


~エイリーン復活後のエイドリアンとメルシアの会話~


「エイリーンの食欲も戻ったようだし。メルシア、ありがとう。一体エイリーンに何をしたんだい?」


「私はただ話を聞いただけよ。後はエイリーンが自分で立ち直ったのよ」


「えっ、それだけ?」


「そう、それだけ」

にっこり笑うメルシア。


「(絶対何かしたな。何をしたんだろう…気になる。でもエイリーンが元気になったのだから、良しとしよう)」


エイドリアンの婚約者は本当に素敵です。そんな2人ですが、エイドリアンが学院を卒業したタイミングで結婚する予定です。今メルシアはアレクサンドル国の文化や歴史、マナーなど、公爵夫人になるために猛勉強をしています。



ちなみに、エイドリアンはもちろん、エイリーンやカルロ様もシュメリー語をある程度しゃべることが出来ます。といっても、アレクサンドル語、シュメリー語、アマリア語(王妃の母国)などは、文字の作りや発音がよく似ているため、比較的覚えやすいようです。





王妃教育でしっかり語学の勉強をしておいてよかったわ!byエイリーン


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