家族っていいものだな~フェルナンド視点~
リリーと恋人同士になってから、俺の生活も随分変わった。リリーはお昼だけでなく、休み時間や放課後も一緒に居ることが増えた。
ただリリーも友達との時間も大切にしたい様で、ずっとは一緒には居られない。
それでも、リリーといられる時間は俺にとって、本当に幸せな時間だ。
そんな日々が続いたある日、リリーが急に
「カルロ殿下とエイリーン様と4人でお茶をしましょう」
なんて言い出した。
どうやら俺と第一王子の仲を取り持ちたいようだ。
正直言って俺はリリーさえいればそれでいい。それに今更第一王子と仲良くなって何になるんだ。第一、未だにあいつは俺を嫌っている。あいつからは、俺への嫌悪がにじみ出ている。
そんな相手と仲良くなんてなれる訳がない。
俺はもちろん断った。それでも食い下がるリリーだったが、しばらく無視していると、諦めたように話題を変えてきた。
どうやらリリーは無視に弱いようだ。少し可哀そうではあるが、仕方ない。
そんなリリーを俺は甘く見ていた。それは放課後リリーとティータイムを楽しんでいた時の事。
明らかにソワソワしているリリー。これは何か企んでいるな、そんな風に感じていた。
その時
「あら~偶然ねリリー。せっかくだからご一緒してもいいかしら?」
この声はエイリーン嬢だ。隣には第一王子もいる。
やられた!俺がOKを出さなかったからか、強硬手段に出たんだ!
物凄く機嫌の悪い第一王子。もう心を感じ取らなくてもわかるくらい、不機嫌オーラ全開だ。
そんな最悪の空気を何とかしようと、エイリーン嬢やリリーは必死に話題を作っているが、そんなことどうでもいい。早くここから立ち去ろう。
「王太子殿下も俺がいると嫌みたいだから、もう行くわ」
俺はそう言うと席を立ち、校門を目指して歩きだす。
「フェルナンド様、待って!」
リリーが追いかけていたが、無視して歩く。
「フェルナンド様、ごめんなさい!私どうしてもカルロ殿下と仲良くなって欲しくて…」
俺は歩みを止め、リリーに向き合う。
「これで分かっただろう。第一王子は俺のことを嫌っている。俺もあいつと仲良くなるつもりはない!もう二度と勝手なことをするな」
そう言うと、俺はリリーを置いて馬車に乗り込んだ。
少し言い過ぎたかな…
そう思ったが、これだけきつく言えば、さすがにリリーももう何も言ってこないだろう。
そして俺の予想通り、あれ以来リリーが俺たち兄弟について何か言ってくることはなかった。
そんな中迎えた林間学校。俺が1人で山を登っていると、リリーが来た。
「フェルナンド様、1人で登ってるんですか?私も一緒に上ります!」
そう言いながら、嬉しそうに登るリリー。
「エイリーン嬢は良いのか?」
「エイリーン様はカルロ殿下と一緒です。最近カルロ殿下ったら、フェルナンド様を使って私を追い払おうとするんですよ!今日だって第二王子が1人で寂しそうにしてたよ、ですって。もう、私がフェルナンド様に弱いのを知っててそう言うのよ」
リリーは目を吊り上げて怒っている。そうか、リリーは俺が寂しそうにしていると、こうやって飛んできてくれるのか。
「リリー、ありがとう」
俺はリリーの肩を抱く。
「どうしたんですか?急に」
真っ赤になって照れるリリーも可愛い。
やっぱり、俺にはリリーがいればそれでいい。
そう思っていたのに…
林間学校の午前中は自由時間だ。俺は湖の近くに座り込み、ボーっと湖を見ていた。
その時だった
「「キャ~~~」」
リリーとエイリーン嬢の悲鳴が聞こえた。
俺はすぐに悲鳴の聞こえる方へ走って向かう。
そこには、この場所にいるはずのないドラゴンが…
リリーとエイリーン嬢は茫然と座り込んでいる。
その瞬間、ドラゴンが口から炎を吹いた。
危ない!!
俺は2人の間に入り、防御魔法をかけた。
ふと隣を見ると、第一王子も俺の隣で必死に防御魔法をかけている。
第一王子はエイリーン嬢にリリーを連れて逃げるように伝えている。
エイリーン嬢はその指示に従い、リリーを連れて安全な場所へと移動しだした。
とりあえずリリーたちを安全な場所へと移動できたと、安心した次の瞬間!
ドラゴンはさらに強力な炎を吹いた。
その瞬間、俺たちは吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた場所が最悪だった。俺は高さ20m近くある崖に飛ばされたのだ。
何とか近くに生えている木につかまっているが、落ちるのは時間の問題だろう。
その時だった。
第一王子が俺の腕をつかみ、必死に引き上げようとしている。
こいつは何をやってるんだ…
俺なんか放っておけばいいのに!
そんな第一王子からは、いつも俺に向けられる嫌悪感は全く感じない。
でも、第一王子の奮闘も虚しく、俺たちは崖の下に真っ逆さまに落ちていく。
地面に叩きつける寸前、魔力を放出し何とか衝撃を免れた。
気を失っている第一王子を背負い、近くの洞窟へと連れて行く。
気づいた第一王子は俺に礼を言った。いや、礼を言うのは俺の方だろう…
そんな第一王子はポツポツと昔のことを話し出した。どうやら彼もかなり苦労していた様だ。
「僕たちってさ、育った環境は違うけれど、似た者同士なのかもね。孤独を抱えていたところとか」
そう言った第一王子は、もう俺に対する嫌悪感を微塵も感じていないようだった。むしろ、同士の様なそんな感じだった。
そうか、孤独だったのは俺だけじゃなかったんだ。第一王子もずっと苦しんでいたのか。
そう思った時、心の中の引っ掛かりが、スーと消えていく気がした。
その後もたわいもない会話をする。リリー以外とこんな風に話すのは初めてだ。でも、嫌な感じはしない。
俺はこの時初めて第一王子の事を「兄上」と呼んだ。
最初はびっくりした顔をしていた兄上だったが、嬉しそうに俺のことを「フェルナンド」と呼んでくれた。
俺たち兄弟は、ずっとすれ違っていた。でもこれからは、きっと協力し合える気がする。
ただ、俺がエイリーン嬢を好きだったということは兄上に黙っておこう。ものすごく嫉妬深いからね。
その後、リリーが聖女として目覚め、俺は正式にリリーと婚約することになった。そして、兄上と和解した1週間後の事。
兄上に連れられ、俺は王宮の応接室へとやって来た。
そこには、国王、王妃、そして王女もいた。
俺のことを毛嫌いしていた王妃からは、もう俺に対する嫌悪感を感じない。それどころか、どこか心配そうに俺を見つめる。
あれがあの王妃か!信じられない!同じ人間とは思えない変わりようだ。
俺がびっくりしていると、王妃が俺の方にやってきて話し始めた。
「あの…フェルナンド殿下、今まで酷いことをたくさん言ってごめんなさい。謝っても許されることじゃないけれど、でもどうしても謝りたくて…」
王妃はそう言うと、俺に深々と頭を下げた。
「フェルナンド、今まで父親らしいことを何1つしてやれなくてすまなかった。これからは、お前も家族の一員として一緒に過ごせたらと思っている」
国王はそう言うと、うつむいた。
俺は正直どうしていいかわからなかった。
今まで散々放置されていたのだ。なのに今更…そんな気持ちもあった。
そんな重苦しい空気を破ったのは王女だった。
「あのおにいちゃまだれ?」
「あの人はソフィアのもう1人の兄、フェルナンドだよ。ほら、ソフィアと同じ赤い目をしているだろ?」
兄上がそう言うと、王女は俺をじっと見つめたかと思うと、ぱあああっと笑顔になり、俺の方に走ってきた。
「あなたがフェルナンドおにいちゃまね。ソフィアとおんなじあかいめだ!ねえ、だっこして!」
王女はそう言うと、俺に抱っこをせがんできた。
仕方なく抱っこする。
温かくて柔らかい感触が俺の体に伝わる。
抱っこをすると、ギューッと抱き着いて来る王女。
「フェルナンドおにいちゃま、だいすき!いままで、どこにいたの?ねえ、これからはずっといっしょだよね?」
王女は俺に向かって聞いて来る。なんて答えたらいいのだろう…
そう思ってた時
「フェルナンド、君さえよければ、離宮ではなくこっちで一緒に暮らさないか?」
兄上がそう言った。国王も王妃もうなずいている。
「まあ、別に暮らしてもいいけれど…」
俺がそう言うと、国王と王妃はとても嬉しそうに
「だったら早速フェルナンドの部屋を準備しないと」
と言って出て行ってしまった。
それから俺はその日のうちに離宮を出た。そして、その日の夕食は5人で一緒に食べた。
誰かと夕ご飯を食べるなんて初めてだ。でも、なんだか心が温かくなった。それからはほぼ毎日、5人で食事を食べた。
兄上とソフィアが今日あった話をし、国王と王妃がそれに相槌を打つ。時々兄上が俺に話を振ってくれる。なぜかソフィアは俺にかなり懐き、俺もソフィアが可愛くて仕方がない。
ずっと諦めていた家族。忌まわしい子供と言われていた俺にも、ついに家族の温もりを手に入れた。
未だに王妃や国王に対しては不信感もあるが、少しずつこの家族にも慣れている気もする。
第二王子として生まれたことを恨んだこともあったが、今はそう悪くないな…
孤独を抱えていたフェルナンド殿下も、家族の温もりを手に入れました。特にソフィア王女のフェルナンド殿下への懐きようは半端ありません。
ちなみにソフィア王女の中では
フェルナンド殿下>エイリーン>カルロ様
の順です。
嫉妬深いカルロ様、フェルナンド殿下にソフィア王女を取られて悔しくないのか?そう思った人もいるかもしれません。
でも、カルロ様はどんな時でもエイリーンが一番大切な存在なのです。
実は王宮に遊びに来たエイリーンを巡って、ソフィア王女と熾烈なエイリーン争奪戦をしていたという噂もあるくらい…
そのため、ソフィア王女がフェルナンド殿下に懐くのは大歓迎なのです。
だからと言って、カルロ様がソフィア王女を大切に思っていない訳ではありません。
ただやはり、リリーが言っているように、器が小さい男なのかもしれませんね。