忌まわしき子と言われて~フェルナンド視点~
本日2回目の投稿です
ストックが切れてきました…
俺の名前はフェルナンド・マルケス・アレクサンドル。アレクサンドル王国の第二王子だ。
ただ、俺は王妃が妊娠中に国王が気まぐれでメイドに手を出して出来た子供らしい。俺の産みの母であるメイドは、俺を産んだ時に亡くなったと他のメイドからは聞いている。
そんな俺には、物心ついたときから自分に対してのみ相手がどう思っているのか、ある程度感じ取ることが出来る。その能力が特別と気づいたのは、あるメイドとのやり取りでのことだ。
いつもニコニコ俺の世話をしてくれるメイドだが、なぜだか俺を嫌っているような黒い感情を感じる。
ずっと気になってあるときメイドに聞いた。
「君はなぜ俺のことを嫌っているの?」
メイドは一瞬目を見開き、すぐに「殿下の事を嫌ってなどおりませんわ。なぜそう思われたのですか?」
と聞き返す。
「だって、俺の事嫌いって感情が溢れているよ?」
俺の言葉に完全に黙り込んでしまったメイド。
あれ?おかしなことを言ったかな?
そのままどこかへ行ってしまったメイドだが、気になったので後を付けてみる。
すると
「ちょっと!フェルナンド殿下、急に私が自分を嫌っているとか言い出したのよ。まあ、嫌っているのは事実だけど…なんだか怖くなっちゃった。私殿下のお世話係を外させてもらう様にメイド長に頼んでみるわ」
「それ本当?まあ、あの子何考えているかわからないもんね。もしかして、カレリアの恨みがあの子に乗り移ってるんじゃない?私たち、さんざんあの子の母親をイジメたじゃない!」
さっきのメイドが他のメイドにそんな話をしていた。
そうか、俺は怖いのか…
俺はこの時、自分の能力が特殊だと初めて知った。そしてあれ以来、自分の能力を人に話すことはなくなった。
ちなみに俺は離宮で暮らしており、許可なくここから出ることは許されない。父親でもある国王は滅多に俺に会いに来ないが、王妃でもあるあの女は事ある事に離宮にやってきて、俺に文句を言う。
「あなたのその赤い瞳、本当に嫌いだわ!その目つき、あのメイドにそっくり。本当に忌まわしい子供ね」
そんなことを頻繁に言いに来る。どうやら王族のみに引き継がれる、この赤い瞳が気に入らないらしい。俺だって好きで赤い瞳をしているわけではないのにな…
でもこの女は、言葉と感情が同じなのでまだましだ。一番厄介なのは、俺に優しくすり寄っては来るが、感情が真っ黒な相手だ。特に俺が、学力・武力・魔力量で良い成績を残してからは、こんな奴らが寄ってくるようになった。
そしてこの頃から、俺を次期王太子にしようという、迷惑な話が持ち上がりだしたのだ。
正直俺は、王太子なんて興味がない。あの王妃が生んだ息子を王太子にすればいいだろ。
ほとんど会ったことが無いけれど、あの王妃に溺愛されて甘やかされて育ってるんだろうな。きっとろくな奴じゃないだろう。
俺の感情をよそに、王太子争いは激化しているらしい。そのせいで、王妃の暴言は次第にエスカレートして行く。まあ基本的に暴言だけで、実害を加えてくることもないのだが。
でも仕方ないのかもしれない。王妃にとって、俺は忌まわしき子供なのだから…
そんな俺を相変わらず王太子にしようと、チヤホヤする大人たち。中には本当に俺のことを思って動いてくれている人もいるが、ほんの一握りだ。
そんな中俺は武力が認められ、ある大会に出場することとなった。俺と同じような子供が出場する剣の大会だ。俺は順調に勝ち上がり、次は決勝というところまで勝ち進んだ。
相手は、フィーサー公爵家の嫡男。エイドリアンという男の子が相手らしい。
決勝はお昼を挟んで行われる。
俺は軽く昼ごはんを済ませ、選手たちがいる休憩室で休憩をしていると、真っ赤な髪の男の子が仲間達と一緒に入ってきた。
「エイドリアン、決勝まで行ったのか!凄いな」
あいつがエイドリアンか!俺は何となく気になり耳を澄ます。
「これ、エイリーンが俺の為に作ってくれたんだ!」
ちらりと見ると、真っ赤なお守りの様なものだ。
なぜお守りが赤いんだろう…
「エイドリアン、何でお守りが赤なんだ?お前の妹は変わってるな」
仲間の1人がからかう。
「おい、エイリーンの悪口を言うな!赤は俺たちの色なんだ!俺とエイリーンの髪の色。エイリーンはこの髪の色を気にいっているから、このお守りを自分に見立てて俺に渡してくれたんだ。“自分は応援に行けないけれど、そばで見守っているよ”ってな」
得意そうにそう言ったエイドリアン!赤は自分たちの色か…
俺の瞳も赤色だ!でも俺はこの色が嫌いだ!王妃にも散々暴言を吐かれた色!
そんな色を好きだという女の子は、一体どんな子なんだろう…
そして、決勝はギリギリのところで、俺が勝った。
悔しそうなエイドリアン。きっとあいつの妹も残念がるんだろうな…
って、どうでもいいけれど…
そして大会から数か月たったある日、ついに熾烈な王太子争いも終止符がうたれた。
なぜなら、フィーサー家の娘が第一王子の婚約者に内定したからだ。フィーサー家の令嬢と言えば、決勝で戦ったエイドリアンの妹…
そうか、彼女は第一王子の婚約者になったんだ…
なぜだろう、会ったこともない令嬢なのに、胸が締め付けられる…
そんな感情が俺の中に沸いたが、その感情が何なのかわからなかった。
そして、王太子争いに敗れた?俺の元からは、たくさんの大人が去って行った。さんざんチヤホヤしていた大人はもちろん、俺のことを心配していた大人たちも…
まあ、仕方ない。彼らにも守るべき家族がいる。俺に構っていたら周りから何を言われるかわからないからな…
別に寂しくなんてない!俺が望んでいた平穏な日々が戻ってきただけだ…そう、平穏な日々が…
第一王子が王太子に内定してから、ほとんど離宮には人が来なくなった。いるのは必要最低限のメイドと護衛騎士、家庭教師くらいだ。
あんなに暴言を吐きに来ていた王妃も、ぱったりと来なくなった。本当に、平和になったもんだ。
そんな中でも、メイドたちのうわさ話は聞こえてくる。
「本当にエイリーン様はお優しくてご聡明な方よね。何であの王太子殿下をあんなにお慕いしているのかしら」
そんな話をよく聞く。
どうやらフィーサー公爵令嬢のエイリーンは、王太子を溺愛しているということらしい。
まあ、俺には関係ないことだ。
俺はほとんど人と関わることなく、12歳を迎えた。この日は第一王子の王太子就任式と、エイリーン嬢との婚約発表会らしい。
さすがに第二王子の俺が出ない訳にはいかず、仕方なく参加した。
初めて控室で見たエイリーン嬢は、真っ赤な髪の美しい女性だった。
そんな彼女からは全く嫌悪感や黒いオーラは感じない。むしろ俺を心配しているようなオーラすら感じる。
何なんだろう。この令嬢は!
まあ、隣には王太子となる第一王子がこちらを睨んでいるから、彼女に近づくことはもちろんできないが。
式典も無事終わり、次は舞踏会とのこと。忌まわしき第二王子に近づくものもおらず、俺は壁にもたれて時間がたつのを待っていた。
さすがに少し疲れてきたので、庭園へと向かう。ほとんど離宮で育った俺は、王宮の庭を見るのも初めてだ。
庭園の奥に進み、誰もいないベンチに腰を下ろす。月がとても奇麗だな…
ぼんやりとそんなことを考えていた。
「フェルナンド殿下」
誰かが俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。振り向くとそこにはエイリーン嬢が立っていた。
なぜ彼女がこんなところにいるんだろう。
「俺に何か用かい?エイリーン嬢」
俺の問いかけに言葉を詰まらせるエイリーン嬢。彼女からは申し訳なさそうな感情が読み取れる。そうか、俺が王太子になれないことを恨んでいると思っているのかな?
そう思った俺は、エイリーン嬢を恨んでいないこと、むしろ感謝をしていることを伝えた。
エイリーン嬢は目を大きく見開くと、黙り込んでしまう。月の光に照らされた彼女は、本当に美しい。このまま一緒に居ては、変な誤解をする人もいるかもしれない。そう思った俺は
「主役がこんなところにいたらまずいんじゃない?じゃあ、俺は行くよ」
そう言って、彼女に背を向け歩きはじめた。本当はもっとゆっくり話したい、彼女のことをもっと知りたい、そう思っている自分を隠すかのように…
その時だった。
「あの…今は孤独かもしれません。自分の存在価値がわからず、何のために生きているのだろうと、考えることもあるかもしれません。でも…でも、必ず心から愛し愛される女性が現れます!必ず!だから…だから…」
そんな言葉を投げかけられ、俺はエイリーン嬢の方を振り向く。その瞳は真剣そのもの!慰めでも何でもない、まさにそうなる事を確信したかのような、強い瞳をしていた。
そうか、俺にも愛し愛する女性が現れるのか…
でもそれは、君ではないんだね…
「君はずいぶん変わっているね。俺なんかに構っても何の得にもならないよ!でも…君の言葉は覚えておくよ」
俺は精いっぱいの言葉を彼女に返す。
その時、向こうからすごい形相で走ってくる第一王子が目に入る。きっと姿が見えない婚約者を探しに来たんだろう。
「あぁ、話はここまでのようだ。君のナイトが来たみたいだよ」
俺がそう言うと、エイリーン嬢はくるりと後ろを向いた。
その隙に、俺は速足で彼女の元を離れる。
エイリーン嬢、君は本当に素敵な女性なんだね!
いつからだろう、エイリーン嬢を意識し始めたのは…
でも、けして結ばれることはないだろう!
エイリーン嬢、君が言った通り、いつか俺にも愛し愛される女性が現れるのだろうか…
その時、この胸の痛みは消えるのだろうか…
今更ですが、フェルナンド視点です。
後2話ほど続きます。