ありえないものが現れました
宿舎前に着いた私たち。
「よし、みんな着いたな、せっかくだからもう少し奥まで行くぞ~」
先生の掛け声に何人かの令嬢がブーイングの声を上げる。
「疲れて歩けない奴らはここで待っていろ、元気な奴だけいくぞ~」
そう言うと、先生は歩き出した。
もちろん、私とリリー、カルロ様達も付いていく。
しばらく歩くと、開けた場所に着いた。奥の方には美しい湖もある。
「よし、午前中は自由行動だ。昼ごはんを食べた後、クラスでウォークラリーをするから、体力を残しておけよ」
先生の言葉にみんな思い思いの場所へ向かう。
自由行動か。何しようかな?
そうだ!
「ねえリリー、せっかくだから散策しない?」
私の提案にリリーもうなずく。
私とリリーは森の中をゆっくり歩き始めた。美しい花々や可愛らしい蝶々、湖には白鳥もいる。
そして、湖の少し奥には、崖もある。
「リリー、ここから落ちたら助からないわね。」
高さ20mくらいあるだろうか…でも崖の下にはお花畑がある。
「本当ね、エイリーン様、気を付けないと」
2人で話していると
「お前たち、危ないぞ~」
声がした方を向くと、先生が立っていた。
「すごい崖ですね、でも下はとても奇麗」
私がそう言うと、
「なんだ、下に行きたいのか?ならあっちから回っていけるぞ~」
へ~、下に行けるのか。
「リリー行ってみない?」
私の問いかけに答えたのは、なぜか先生だった。
「もうすぐ昼だ。また後にしろ」
先生はそう言うと戻って行ってしまった。
「仕方がない、私たちも戻りましょうか」
私の問いかけに、リリーもうなずく。
その時だ!
凄い風が巻き起こった。
「「キャ~~~!!!」」
私たちは一瞬にして吹き飛ばされた。
イッタタタタ…
一体何が起こったの?
なぜかあちこちから悲鳴が聞こえる。
私は立ち上がり、前を向くと…
「え…ドラゴン?」
私たちの目の前には、なんとドラゴンがいたのだ。
ありえない、何でこんなところにドラゴンが…
本来ドラゴンはアレクサンドル王国の最北に位置する、大きな森の奥深くに生息している生き物だ。
そもそもドラゴンは滅多に人里に来ることはない。もし万が一来た場合でも、王都まで来ることはまずない…
そのため、ドラゴンが王都の森にいるなんて、現実的にあり得ないのだ!
それに、漫画にもこんなシーン無かったわ…
一体何が起こっているの?
っと、次の瞬間、ドラゴンが私たち目掛けて口から炎を吹き出した!
しまった!
そう思った時には、すでに遅し!
ダメ!やられる!
私はとっさに目を瞑る。
あれ?炎が来ない。
ゆっくり目を開けると、目の前には魔力で必死にドラゴンの炎を防いでいる、カルロ様とフェルナンド殿下の姿が!
「カルロ様、フェルナンド殿下」
私が叫ぶと
「エイリーン、ニッチェル嬢を連れて逃げるんだ!」
カルロ様の言葉でハッとする。
リリーは?
周りを見渡すと、茫然と座り込んでいるリリーの姿が!
このままではまずい。カルロ様やフェルナンド殿下までやられてしまうわ。
とにかくリリーを安全な場所に移動させたら、私も戦おう。
「リリー、大丈夫?」
私はリリーを支えながら、安全な場所へと連れて行く。
もう少しよ、あそこまで連れて行けば…
そう思っていた時
「「うわ~~」」
背後からカルロ様とフェルナンド殿下の悲鳴が!
私が振り向くと、ドラゴンの更なる炎に吹き飛ばされた様で、2人の姿が無い。
どこ?一体2人はどこにいるの?
辺りを見渡すと、いた!
カルロ様だ。
でも様子がおかしい!
カルロ様は崖の近くで何かを必死に引き上げようとしている。
リリーをその場に座らせ、少し近づく。
フェルナンド殿下だ!
崖から落ちかけているフェルナンド殿下を、カルロ様が必死に助けようとしているんだわ!
私も助けないと!
私はカルロ様の元へ近づこうとするが、ドラゴンに睨まれて動くことが出来ない。
次の瞬間!
「うぁぁぁぁぁぁぁ」
悲鳴と共にカルロ様とフェルナンド殿下は、崖の下に落ちてしまった。
「カルロ様!カルロ様!」
私は必死にカルロ様の名前を呼ぶが、返事はない。
嘘…
呆然と立ちすくむ私。
隣ではリリーが泣きながら必死にフェルナンド殿下の名前を呼んでいる。
私はその場に座り込んでしまった。
嘘…嘘よ…カルロ様が死んでしまうなんて…
ドラゴンはさらに私たちの方に近づき、また炎を吹こうとしている
でも…もうどうでもいいわ。だってカルロ様は死んでしまったんだもの…
その時、ドラゴン目掛けて炎がいくつも飛んできた。
私はボーっとその光景を見ている。
「エイリーン!大丈夫か?」
目の前には私と同じ赤い髪にエメラルドグリーンの瞳が映る…エイドリアンだ。
どうやらエイドリアンと一部の生徒、護衛騎士、先生たちが助けに来てくれたようだ。
「エイドリアン、カルロ様が…カルロ様が…」
エイドリアンの顔を見たら、涙がとめどなく溢れてくる
「大丈夫だ、殿下はきっと生きているよ!あんなに嫉妬深いんだ!エイリーンを置いて死んだりなんてしない。とにかく今はニッチェル嬢を連れて逃げろ」
「嫌よ…カルロ様を置いて逃げるなんて」
だって…だって…
「エイリーン、しっかりしろ!」
そう言うとエイドリアンは私の両頬を叩いた。
「もしここでエイリーンが死んだら、俺は殿下に顔向けできない!いいか、俺たちがドラゴンを引き付けておくから、今すぐ逃げろ」
そう言うと、エイドリアンはドラゴンの方を向き、炎で応戦し始めた。
そうだ!私たちが逃げないと、エイドリアンたちは逃げられない!
きっと、みんなが一丸となってもドラゴンは倒せないわ。優秀な魔術師が何人も集まって、やっと倒せるくらいなんですもの。
周りを見渡すと既に火の海になっている。
そんな中、エイドリアンたちは必死でドラゴンと戦っている。
早く逃げなきゃ!
「リリーしっかりして、立てる?」
私はリリーを立たせると、泣きじゃくるリリーを引っ張り無我夢中で走った。
エイドリアンに叩かれた頬っぺたが痛い。
ドラゴンに吹き飛ばされた時、腰を打ったようでそこも痛い。
でも今はそんなこと言っていられないわ。
とにかく走らなくちゃ…
カルロ様、どうか無事でいて!
エイドリアン、私も逃げるから、あなたも死なないでね!
楽しいはずの林間学校に突如現れたドラゴン。
ドラゴンは身長約5~10m、体を固いうろこで覆われています。
口からは火を出します。
ドラゴンはどこの種族にも属していませんので、魔族ではないです。
そのため、魔王が復活してもドラゴンは参戦してくることはないはずです。
ちなみに、ドラゴンを倒すには優秀な魔術師(世間では、王宮魔術師と呼ばれています)が複数人一丸となって戦ってやっとや倒せるくらいです。
それくらい膨大な魔力が必要になるのです。
ちなみに王宮魔術師は魔力のスペシャリストで、アレクサンドル王国には12人しかいません。
エイリーンの魔力の先生でもある、ブライアン先生もその1人。
実は彼、王宮魔術師の中でもかなりの実力者、ものすごくすごい人なんですよ。
毎回、私のつまらん小話に付き合ってくれている人、ありがとうございますm(__)m
本当につまらん小話なので、スルーしていただいても全然大丈夫です!