林間学校へ行きます
カルロ様とフェルナンド殿下を仲良くさせよう作戦?が大失敗に終わってしまった私とリリー。
あの後カルロ様とは一応仲直りは出来たものの、何だが気まずい雰囲気が続いている。
リリーはというと、やはりフェルナンド殿下にきつく怒られたようで、かなり落ち込んでいる。
「「はぁ~~」」
「ちょっと!2人そろってため息とか止めてよね」
そういうのはマリア。
今回大失敗に終わったと聞いたとき、「あ~やっぱりね…」と言ったマリア。
そう思うならなぜあの時全力で止めてくれなかったんだ。
「もう、2人とも元気出してよ。明日は楽しみにしていた林間学校もあるんだし」
そう、明日は林間学校がある。
貴族学院では1年生全員で、王都の西にある大きな森へ毎年林間学校へ行く。この森はとても広く、騎士団の訓練にも使われる場所。
もちろん貴族が行くため、生徒や先生が泊まるための立派な宿舎もあるらしい。
基本的に2~3人部屋だが、上流貴族や王族は希望すれば1人部屋も与えられる。
ちなみにカルロ様やフェルナンド殿下は1人部屋だ。
私やマリアも1人部屋を勧められたが、せっかく初めてのお泊りなんだもん。
いっぱい話したいということで、私たちは3人部屋を希望したのだ。
「そうだ、私ね。みんなにプレゼントがあるの」
マリアはそう言うと、カバンから何か取り出した。
「明日林間学校へ行くでしょ。それで、何かお揃いのものを付けたいなって思って。
じゃん!これ作ってきたんだ!」
マリアが取り出したのは、ブレスレットだ。シルバーを基調にしたシンプルなデザインで、真ん中には宝石が付いている。
「それぞれの瞳の色の宝石を付けてあるのよ。エメラルド(エメラルドグリーン)の宝石が付いているのがエイリーン。サファイア(青)がリリー、そしてアメジスト(紫)が私のよ」
「まあ、こんな高価なものもらっていいの?」
「もちろんよ、これは友達の証よ!」
そう言うとマリアは嬉しそうに笑った。
「「ありがとう、マリア(様)」」
3人は早速つけてみる。
うわ~、これめっちゃくちゃ可愛い。それに、私たちの強い絆を感じるわ。
「明日絶対付けて来ようね。ゲホゲホ」
マリア、今せき込んだ?
「マリア風邪?大丈夫?」
私は心配になり聞いてみる。
「うん、ちょっと体調があまり良くなくて。渡したいものも渡せたし、明日のこともあるし、今日はもう帰るわね。」
そう言うとマリアは帰って行った。
マリア、明日大丈夫かな?
そして、私もリリーと別れ、馬車へと向かう。
「エイリーン」
ふいに名前を呼ばれ、振り向くとそこにはカルロ様が。
「カルロ様、どうしたの?」
「どうしてもエイリーンと話したくて…ここで待っていたんだ」
「まあ、こんなところで?待たせてしまってごめんなさい」
私が謝るとカルロ様は慌てて
「僕が勝手に待っていただけだから」
というカルロ様。
あの事件以来、なんとなく気まずい…
「あのさ、エイリーン、明日の林間学校なんだけれど。あの場所は夜になると、とても星がキレイなんだ。だから…あの…もしよかったら、夜一緒に星を見に行かないかな…」
夜にカルロ様と星空観察!
なんてロマンティックなのかしら!
「はい、ぜひ一緒に見たいわ」
私は目を輝かせ、カルロ様に返事をする。
「よかった。断られたらどうしようかと思った」
なぜ私がカルロ様の誘いを断るのだろうか?
そんなことはありえない!
「カルロ様、そんなことはありませんから心配しないで」
私がそう言うと、カルロ様はにっこり笑って私の頭を撫でた。
「ありがとうエイリーン、星は2人で見たいから、ニッチェル嬢には内緒にしておいてね。あの女、付いて来るとか言い出しそうだから。それじゃあ、また明日」
そう言うとカルロ様は去って行った。
それにしてもカルロ様は一体リリーをどんな人間だと思っているんだろう…
そんなことを考えながら、私も家路についた。
そして迎えた朝、空はとってもいい天気、絶好の林間学校日和だ。
昨日メイドのアンナと一緒に準備したカバンを持って、馬車へと向かう。
「お嬢様、本当にお1人で大丈夫ですか?私、心配で心配で」
アンナが不安げに私を見つめる。
基本的に林間学校は自分たちで出来ることは行うというスタンスなので、メイドは連れて行かない。どうしてもという場合のみ、事前申請すれば連れて行けるんだけれど、私は申請しなかった。
だって、自分で出来ることはやってみたいじゃない。それに、私がいない間、アンナもゆっくり休めると思ったんだけどな…
「ありがとう、アンナ。でも大丈夫よ、エイドリアンやカルロ様、リリーたちもいるから」
「そうだよ、アンナ。俺がしっかりエイリーンの面倒を見るから、心配はいらないよ」
後ろからエイドリアンの援護射撃も飛ぶ。
「わかりました。お嬢様、どうかご無事で…」
私戦場に行くんじゃないんだけれどな…
泣きそうなアンナに見送られながら、馬車に乗り込む。
今回の林間学校は、一度学院に行き、そこからみんなで汽車に乗って森へと向かう。
基本的に汽車は庶民の乗り物なので、汽車に乗るのも初めてだ。
また、大勢の貴族や王族が乗るということで、騎士団護衛の元、貸切で利用するらしい。
警護に当たってくれる騎士たちは、そのまま林間学校でも警備をしてくれるとのことで、何とも頼もしい限りだ。
まさにVIP待遇ね。
ちなみに荷物は、学院で一旦預ける。預けた荷物は、今日泊まる部屋へ運んでもらえるらしい。
さすがに貴族が大荷物を持って移動となると、辛いからその点は配慮されているようだ。
学院に着くと、リリーが待っていた。
あれ?マリアは?
リリーに聞くと、どうやら風邪が悪化し熱が出てしまったとのこと。
マリア熱か~、仕方ないことだけれど残念だな。
「マリア様の事は残念だけれど、2人で楽しみましょ」
そう言ったリリーも少し寂しそうだ。
「みんな、そろそろ出発するぞ、集まれ!」
先生の掛け声で、私たちも集合する。
そして、学院所有の大きめの馬車に乗り、汽車乗り場まで移動する。
汽車乗り場には既に騎士団が何人も警護に当たっている。
目の前には大きな黒い汽車が!
前世にテレビで見たことはあったけれど、本物を見るのは初めてだ。
「リリー汽車よ。あれが汽車なのね」
私は興奮気味にリリーに話しかける。
「エイリーン様、落ち着いて。さあ、私たちも乗り込みましょう」
リリーに手を引かれ、馬車へと乗り込む。
何だか昔の世界にタイムスリップしたみたいね。
しばらくすると汽車は動き出した。
「リリー汽車が動いたわよ」
子供の様にはしゃいでいる私を、リリーは苦笑いしながら見ている。
話を聞くと、リリーはちょこちょこ汽車に乗っていたらしい。
なるほど!だから驚かないのね!
30分ほど走ると、ついに目的の森の入り口の駅へとたどり着いた。
空気がものすごく美味しい。
私は大きく深呼吸をした。
「よし、全員いるか?今から歩いて宿舎があるところまで向かうぞ。」
先生の掛け声で、みんな歩き出す。
ちなみに高貴な貴族令嬢の中には、欠席している人も多い。
やはり令嬢にはこういったアウトドアは苦手な人も多いようだ。
「エイリーン様、私たちも行きましょう」
そう言うと、リリーは私の手を取り、歩き出した。
5分程度歩いただけなのに、周りの令嬢たちはもうバテたのか、次々とへたり込んでいる。
「もう無理ですわ~」
なんて言っている子もいるわ。
みんな情けないわね。これぐらいでへばるなんて。
私なんて体力もしっかり付けているから、これくらい、へっちゃらなのに。
そう、来る魔王との対決の時の為に、体力作りにも力を入れている。といっても、毎朝1時間程度散歩しているだけだけれどね。
「エイリーン、大丈夫かい?疲れていない?」
後ろから声をかけられた。カルロ様だ。
「ええ、これくらいなら大丈夫ですわ」
「そう、でも木の根もあるし、転んだら大変だよ」
そう言うとカルロ様は、リリーと繋いでいない反対の手を取った。
「ちょっと、カルロ殿下、エイリーン様は私と歩いていらっしゃるのよ」
すかさずリリーが不満の声を上げる。
「ニッチェル嬢、エイリーンは僕が付いているから大丈夫だよ、あっちに第二王子が1人寂しそうに歩いていたよ。行かなくていいのかい?」
そう、リリーとフェルナンド殿下が付き合いだしてからというもの、何かにつけて第二王子を使ってリリーを追い出そうとする。
「う…、エイリーン様、ちょっとフェルナンド様のところに行ってくるわ」
リリーはそう言うと、走って行ってしまった。
人一倍フェルナンド殿下を気にかけているリリー、寂しそうと聞けば放っておけないのだろう。
「邪魔者はいなくなったね」
そう言うカルロ様、めちゃくちゃご機嫌だ。
ちゃっかりフェルナンド殿下を使ってるカルロ様。しっかり恩恵を受けてるんだから、この際仲良くなってくれればいいのに!
15分ほど2人で歩くと、今日泊まる宿舎が見えてきた。
大きな建物が6棟も建っている。
これから1泊2日の林間学校が始まるんだわ。楽しみね。
胸躍らせるエイリーンであった。
学院生活の楽しみと言えば野外活動。
友達と一緒にお泊りできるとあって、ルンルンのエイリーン。
夜はカルロ様と一緒に星が見れるということもあり、前日の夜は楽しみすぎてあまり寝付けなかったんだとか!