フェルナンド殿下が好きです~リリー視点~
翌日、私は朝早く起きて、2人分のサンドウィッチを作った。
王族でもあるフェルナンド殿下、こんな庶民が食べるようなものは召し上がらないかもしれない。
でも…
どうしても作りたかった。
少しでも食べてくれると嬉しいな!
そして、その日のお昼になった。
いざフェルナンド殿下のもとへ行こうと考えると、足がすくむ。
しっかりしなきゃ!そう思っていると、エイリーン様が声をかけてきた。
どうやら今日は王太子とお昼を食べるらしい。私もフェルナンド殿下のところへ行くと言ったら、「頑張って」とエールを送ってくれた。
エイリーン様も応援してくれているんだもの、頑張らなきゃ!
私は意を決して、フェルナンド殿下がいつもいらっしゃる、裏庭へと向かう。
やっぱりいた!
ベンチに座って、ボーっとしているフェルナンド殿下を見つけた。
大丈夫よ、きっと大丈夫!
自分に言い聞かせ、フェルナンド殿下に近づく。
私の気配に気づいたのか、フェルナンド殿下がこっちを振り向いた。
「あの…一緒にお昼食べませんか?」
私はそういうと、勝手にフェルナンド殿下の隣に座った。
「私サンドウィッチ作ってきたんです」
そして目の前にある机にバスケットを置き、サンドウィッチを取り出した。
「ニッチェル嬢だよね。俺に関わってもいいことないよ!それに、どこの誰が作ったかわからないものは食べられない、毒が入っていたら嫌だからね」
うっ、感じ悪い…
でも、まあ確かに話したこともない人が作ったものなんて、食べられないわよね。
それに第二王子の育った環境なら、毒殺されかけたこともあるのかも…
とにかく、私が作ったものは安全だって証明しなくちゃ!
「毒なんて入っていませんよ、ほら」
私はサンドウィッチを次々に食べていく。
少しでもフェルナンド殿下に信用してもらいたくて、必死に食べた。
必死に食べ過ぎて、いつの間にか2人分全部食べてしまった。
やばい!さすがに食べ過ぎたわ…
「ゲプ」
ゲッ、食べ過ぎてゲップ出ちゃったじゃない!!
もう恥ずかしすぎる。
私は顔を真っ赤にして下を向いた。
「クスクス」
ん?フェルナンド殿下、笑っている?
私はゆっくりと顔を上げ、フェルナンド殿下を見た。
「君って変わっているね。さすが入学早々エイリーン嬢に友達になって欲しいと言うだけのことはある」
初めて見るフェルナンド殿下の笑った顔
なんて素敵なのかしら!
「あの、明日もここに来ていいですか?」
私は勇気を出して聞いてみた。
「好きにすれば」
フェルナンド殿下がそっけなく答える。
好きにすればって言うことは、来てもいいってことだよね。
ヤッター!!
私はその日以来、お昼になると毎日お弁当を作ってフェルナンド殿下の元へ向かった。
最初は食べてくれなかったけれど、何度も何度もしつこく進めているうちに、いつの間にか食べてくれるようになった。
基本的に私が1人でしゃべっているが、まあ良しとしよう。
そんな日々が1ヶ月以上続いている。
そして今日もいつものように、フェルナンド殿下とお昼を食べようと裏庭へと向かった。
「フェルナンド殿下、お待たせしました。今日はホットサンドを作ってきたんです」
私がいつものように声をかけるが、なぜか振り向いてもくれない。
一体どうしたんだろう…
不安に思っていると、フェルナンド殿下がやっと振り向いてくれたのだが…
「リリー嬢、今まで我慢していたが、俺は1人が好きなんだ。なのに毎日毎日押しかけてきて。はっきり言って迷惑だ!もうここには来ないで欲しい」
えっ、今なんて…
私、フェルナンド殿下に嫌われていたの…
嘘、どうしよう…
私は「ごめんなさい…」とつぶやくと、無我夢中で走った。
なんで?
どうして?
昨日まで普通だったのに!
私きっとフェルナンド殿下に嫌われてたんだわ!
なのに毎日押しかけて…
私のバカバカ!
気が付くとエイリーン様とマリア様がいる中庭に来ていた。
私は2人に声をかける。
「どうしたの?リリー。一体何があったの?」
2人がびっくりした顔をして、声をかけてきた。私はフェルナンド殿下に今日あった出来事を簡単に話す。途中我慢できなくなって泣き出してしまったけれど、何とか2人に説明できた。
もうどうしていいかわからない!
ワーワー泣く私に、きっと2人も困惑しているわよね。
そう思っていたのだが…
「それでリリーはどうしたいの?このまま諦める?」
エイリーン様は私の肩に手をあて、しっかり私を見つめて問いかけてきた。
その目は真剣そのもの
私は…
「私…諦めたくない。1ヶ月以上フェルナンド殿下と過ごして、とても居心地が良かった。
この人と一緒にいたいと思ったの。でも…」
どうしていいかわからない。
「だったらやることは決まっているじゃない!リリー、あなたの魅力は諦めないところよ。フェルナンド殿下に、今の気持ちしっかり伝えておいで。もしダメだったら、その時は私とマリアがしっかり慰めてあげるから。ね、マリア」
エイリーン様が背中を押してくれる。
マリア様の方を振り向くと、マリア様もうなずいてくれている。
そうだ、私には傷ついたとき側にいてくれる友達がいる。
このまま諦めるなんて出来ない!
フェルナンド殿下の元にもう一度行こう。
私は2人にお礼をいい、フェルナンド殿下がいる裏庭へと急いだ。
もう少しでフェルナンド殿下がいるところに着く、そう思った時だった。
「あら、またフェルナンド殿下のところにいらっしゃるの?」
声をかけてきたのは、以前私に嫌味を言ってきた3人組だ。
「やっぱり噂は本当だったのね、あなたがフェルナンド殿下をしつこく追い回しているって話」
「ほんと、図々しい女ね。でもなんでフェルナンド殿下なの?彼と仲良くしても、何にもメリットないのよ。あんな誰からも必要とされていない人と仲良くなって、何が楽しいのかしら」
「もしかして、フェルナンド殿下に近づけば、王族になれるとでも思っているのかしら?本当に図々しいわね」
何なのこいつら、黙って聞いてれば好き勝手言って。私を侮辱するのは100歩譲って許せるけれど、フェルナンド殿下の事まで!許せない!
「ちょっとあなたたち、黙って聞いてれば好き勝手言って。フェルナンド殿下が誰からも必要とされてないですって!そんなことないわよ、今すぐその言葉撤回して!」
「あら、本当の事でしょ」
「そんなことないわ!」
「じゃあ誰に必要とされているのよ」
「少なくとも私は、フェルナンド殿下が大切で必要としているわ」
私は令嬢たちの言葉についムキになってしまい、そう叫んでしまった。
「まあ、あなたフェルナンド殿下の事好きなの?ヤダ~」
そう言うと3人はお腹を抱えて笑い始めた。
何なのよ、こいつら!
あまりにもムカついたので、もう一言文句を言おうとしたその時
「何がそんなにおかしいんだい?」
声のする方を振り向くと、そこにはフェルナンド殿下がいた。
「俺一応王族なんだけれどな。君たちにバカにされる筋合いはないよね」
そういうと、フェルナンド殿下は嫌味3人組(リリー命名)を睨みつけた。
さすがにヤバいと思ったのか、嫌味3人組は「すみませんでした」っと逃げて行った。
これ、前にも見たぞ。
私はフェルナンド殿下の方を向く。
「助けてくれて、ありがとうございました」
お礼を言って頭を下げる。
「これでわかっただろう?俺と関わるとロクなことにならない、だから君も…」
「私、フェルナンド殿下が好きです。一緒にいて落ち着くし、笑った顔も素敵だし!できればずっと一緒にいたいです。私、男爵令嬢だから身分も低いしこんな性格だけれど、フェルナンド殿下を好きな気持ちは誰にも負けません。だから、ずっと一緒にいてください」
私はフェルナンド殿下の言葉を遮り、一気に自分の気持ちを伝える。
これで振られても、悔いはない。
多分泣くだろうけれど、きっとエイリーン様とマリア様がしっかり慰めてくれるだろう。
でも次の瞬間、フェルナンド殿下に抱きしめられた。
「君って子は、本当に変わっているよ。こんな俺で本当にいいのかい?」
私はフェルナンド殿下の背中に手を回すと、ギューと抱きしめ返した。
「フェルナンド殿下が良いんです。抱きしめてくれたってことは、ずっと一緒にいてくれるってことですか?」
「ああ、君が望むなら」
その言葉を聞き、一気に涙があふれた。
自分の気持ちをしっかり伝えて良かった。
しばらく抱き合った後、私たちは午後の授業をお休みし、一緒に過ごした。
「実は私、一度フェルナンド殿下を諦めようと思ったんです。でも、エイリーン様が背中を押してくれて。だから、自分の気持ちを伝えられたのも、エイリーン様のおかげなんです」
「なんとなく、そうなのかなって思った。実はエイリーン嬢とは学院に入学する前、一度だけ話したことがある。その時、“いつか必ず愛し愛される女性が現れるから”って、言ってたんだ。きっとそれは、リリーの事だったんだね」
へ~、エイリーン様がそんなことを。
「エイリーン嬢は本当に不思議な女性だ。リリー、彼女は預言者か何かなのかい?」
「えっ、そんな話は聞いたことがないですわ。あの…フェルナンド殿下」
私は言いよどむ。
「どうしたんだい?リリー」
フェルナンド殿下が不思議そうな顔をしている。
「あまり私の前で、他の女性の話はしないでください。たとえエイリーン様でも嫌ですわ」
うわ~、私何言っているんだろう。これじゃあ、ただの嫉妬深い女だわ。でも、嫌なものは嫌なんだから、仕方ないわよね。
「ごめんごめん、リリーは焼きもち焼きだね」
そう言うと、フェルナンド殿下は優しく頭を撫でてくれた。
「それと、俺たち恋人同士になったんだから、殿下呼びは止めようか」
恋人!面と向かって言われると恥ずかしいわ。
でも、せっかくだから、彼の名前を呼んでみる。
「わかりましたわ、フェルナンド様」
「う~ん、本当は様もいらないけれど、まあいいよ。これからもよろしくね、リリー」
そう言うとフェルナンド様は、それはそれは美しい笑顔を見せてくれた。
これからは、フェルナンド様と一緒に、楽しいことも悲しいことも分かち合えたらいいな。
ねっ、フェルナンド様!
まっすぐで一生懸命なリリーに、ついに心を開いたフェルナンド殿下。
相変わらず嫌味3人組がいい仕事をしてくれます。
ちなみに嫌味3人組ですが、3人とも伯爵令嬢です。
身分が高い順から、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵となっているので、ちょうど真ん中の地位ですね。
次回からエイリーン視点に戻ります。
よろしくお願いします。