女神様と友達になりました~リリー視点~
私はリリー・ニッチェル。両親と3つ上のお兄様の4人家族。一応男爵令嬢なんだけれど、家は貧しく、使用人はお父様の専属執事1人のみ。それもかなりの高齢で、既に60歳を過ぎている。
だからお母様と一緒に街に買い物にも行くし、洗濯や掃除、料理だって何でもできるわ。
時にはお母様と一緒に、針仕事だってこなすんだから。
お友達もみんな平民。男爵令嬢が平民と仲良くするなんて!っていう人もいるけれど、みんなとってもいい子たちよ。
もちろん、男爵令嬢としての勉強やマナーもしっかりしている。うちは家庭教師を雇う余裕がないので、先生はお母様。うちのお母様はすごいのよ、貴族学院でもいつも10番以内に入っていたんですって。
そんなお母様から徹底的に勉強やマナーを学んだんだもの、きっと私も貴族学院へ行ってもうまくやっていけるわ。
そう、私は今14歳。
来週には貴族学院に入学することが決まっている。
でも…
実はめちゃくちゃ不安!
だって今まで貴族と交流なんて持ったことないんだもの。
もちろん、貴族のお友達もいない。
そもそも貴族なら全員強制的に貴族学院に入学しなきゃいけないなんて、誰が決めたのかしら!本当に迷惑だわ!
「はぁ~」
今は家族と食事中。でも、学院の事を考えると気が重いわ。
「リリーどうしたんだい、元気だけが取り柄のリリーがため息なんて」
お父様、それはちょっと失礼よ…
「来週貴族学院に入学するでしょ?私…うまくやっていけるか心配で」
「大丈夫だよ!確かに上流貴族は感じの悪い奴も多いけれど、俺たちみたいな男爵家の人間も多いし。それに目立たなければどうってことないよ!」
お兄様は今年貴族学院を卒業した。そのお兄様が言うんだから大丈夫かしら。
「そうよ、リリー。とにかく目立たないように、大人しくしていれば問題ないわ。一応上流貴族の名前は教えたでしょ。私が教えた名前の人たちに近づかなければ大丈夫よ」
お母様も励ましてくれる。
「でも、お転婆なリリーが大人しくなんてできるのか?」
また!お父様ったら本当に失礼ね。
でも、大人しくしていればいいのよね。
とにかく大人しくしていよう。
そう心に誓ったのだが…
入学式当日、私は真新しい制服に身を包み、貴族学院へと向かう。
ちなみにうちは貧乏なので、歩いて通学することになる。
一度見学には来たけれど、改めて見ると本当に立派な学院よね。
周りをキョロキョロ見ながら歩いていると、誰かにぶつかった。
「ごめんなさい」
私は謝る。
「ボーと歩いてんじゃねーよ。ちっ、コレだから身分の低い女は…」
なんだあの超絶失礼な男は!
見た感じ、身分が高そうだ。
上流貴族ってあんな奴ばかりなのかしら?
そう考えながら歩いていると、今度は何かに躓いて転んでしまった。
私って、何でこんなにどんくさいのだろう。
周りからは
「やだ、転んでるわよ、恥ずかしい子ね」
「普通あんなところで転ばねぇだろ、どんくせーな」
なんて言葉も聞こえてくる。
もうヤダ、家に帰りたい。
私は起き上がることもせず、うつむいてしまった。
「大丈夫ですか?」
え?私は声のした方を向く。そこには真っ赤な美しい髪の女性が、私に手を差し伸べてくれている。
なんてきれいな女性なのかしら…
その手を取ると、彼女は私を起き上がらせてくれた。
そしてあろうことか、彼女は擦りむいた膝を治癒魔法で治してくれたのだ。
治癒魔法と言えばとても高価な魔法だ。
以前お兄様が怪我をした時、治癒師に治してもらったが、それはそれは高額なお金をぼったくられた。
それなのに彼女はためらいもなく治癒魔法をかけてくれたのだ。
なんて優しい人なのかしら。
さらに、ハンカチまで貸してくれるではないか。
もう女神様にしか見えない。
とにかくお礼をいわなきゃね。
「ありがとうございます」
私がお礼を言うと、微笑んでくれた。
笑顔もなんてお美しいのかしら!
「エイリーン、そろそろ行かないと、本当に入学式に遅れるよ」
その言葉に私も女神様も声の方を向く。
その声の主は、金髪の美少年だ。
金髪美少年は、女神様の手を掴むと、有無も言わさず連れ去ってしまった。
去り際、めちゃくちゃ睨まれたんだけど…
なんだ、あの感じの悪い男は!
それにしても、さっきの女神様、本当に優しかった。
私はつい「なんてお優しい方なのかしら…」と言葉に出てしまったが、きっと聞こえてないよね。
おっといけない、入学式に遅れてしまう。私は急いでホールへと向かい、慌てて空いている席へと座った。
入学式はスムーズに進み、新入生代表の挨拶へと移った。
先生に呼ばれた名前、聞き覚えがあるわ。この国の王太子だ。
出来るだけ関わらないようにしなきゃね。
そう思っていたのだが…
壇上に上がった彼を見て、私は目を丸くした。
さっき私を睨んでいった感じの悪い男ではないか!
まてよ、あの男、確か女神様の事“エイリーン”って呼んでたわよね。
ということは、私を助けてくれたのって、王太子殿下の婚約者、エイリーン公爵令嬢だったの!!
上流貴族はみんな感じが悪いと思っていたけれど、お優しい人もいるのね!
エイリーン様と友達になれたら嬉しいな。
そんなことを考えていると、入学式は終わり、周りには人がほとんどいなくなっていた。
いけない、私も急いで掲示板を見に行かなきゃ。
私は走って掲示板を見に行く。
私のクラスは…マジ!Aクラスじゃん。
うっわ~、お母様から教えてもらった上流貴族の名前がズラリと並んでいる。
私…やっていけるのかしら…
まって、エイリーン様の名前もあるわ。同じクラスということは、友達になれるかもしれない。
私は急いで教室に向かった。
教室に入ると、いた!エイリーン様だ。
私はすぐにエイリーン様の元へ向かう。
「あの、先ほどは転んだところを助けていただきありがとうございます。
私はリリー・ニッチェルと申します。もしよろしければ、私とお友達になってくれませんか?」
私の言葉に教室中が静まり返る。エイリーン様も目を丸くして固まっている。
あれ?何かいけないことを言った?
「ニッチェル男爵家の令嬢だよね。あのさ、こんなことは言いたくないんだけれど、彼女はフィーサー家の令嬢で王太子でもある僕の婚約者なんだ。君が馴れ馴れしく声をかけていい女性ではないんだよ」
沈黙を破ったのは、王太子だ。
相変わらず感じが悪いな、こいつ!
さらに別の方向からも言葉が飛ぶ。
「王太子殿下の言う通りだ。確かにこの学園では身分を気にせず平等を謳っているが、現実はそうではない。男爵令嬢が俺の妹でもある公爵令嬢に友達になってくれなんて、前代未聞だよ」
そういったのは、エイリーン様と同じ赤い髪にエメラルドクリーンの瞳を持つこちらも美少年だ。どうやらエイリーン様のお兄様の様だ。
周りからも私を非難する声が飛ぶ。
やばい!やらかしたかも…私は下を向いてしまった。
でもそんな私を助けてくれたのは、エイリーン様だった。
「ニッチェル様、いいえ、リリー様と呼ばせていただいた方がいいかしら。私で良ければぜひお友達になってくださいますか?私はエイリーン・フィーサーと申します。あなたのような可愛らしいお友達が出来てとっても嬉しいわ」
そう、エイリーン様は私と友達になってくれたのだ。
それも名前で呼んでくれた。
なんて優しい人なのかしら。
王太子にはものすごく睨まれているけれど、そんなこと気にしないわ。
これから、きっと楽しい学院生活が私を待っているに違いないですもの。
感じの悪い上流貴族は、見たことが無い人間は身分が低いと思っているところがあります。
なぜなら彼らは頻繁にお茶会を開くことで、同じ又は上の身分の人たちとは既に顔見知りだから。
そのため、リリーを身分の低い女性と判断して、暴言を吐いているのです。
ただ、エイリーンの様に身分が高くてもお茶会に参加しない人もいるので、いつか失敗するかもしれませんね( *´艸`)
ちなみにリリーのお母さんも男爵令嬢です。
こちらもあまり裕福ではありませんが、リリーの制服は母方の祖父(先代の男爵)が買ってくれました。
母方の男爵家は、今はお母さんのお兄さんが次いでいます。リリーの伯父さんはリリーをとてもかわいがっており、父親(リリーの祖父)とどちらがリリーの制服を贈るかで喧嘩したとか…
リリーは家族にはとっても恵まれております。