ヒロインとお友達になりました
入学式の会場へとやってきた、私とカルロ様。
既にたくさんの生徒が椅子に座って、式が始まるのを待っていた。
私とカルロ様も、椅子に座る。
しばらくすると入学式が始まり、最初は学院長の挨拶、そして在校生代表の挨拶と続いた。
「次は新入生代表の挨拶です。新入生代表、カルロ・オブ・アレクサンドル、前へ」
え?新入生代表ってカルロ様?
聞いてないんだけれど…
「はい」
カルロ様は一瞬私の方を見てニコっと笑うと、元気に返事をして、壇上へと向かった。
そういえば、漫画の世界でも、新入生代表は王太子でもあるカルロ様だったわ。
私としたことがすっかり忘れていた。
壇上に上がり、挨拶を始めるカルロ様、なんて素敵なのかしら。
ほぼ毎日一緒にいるから気づかなかったけれど、前世で推しだった漫画のカルロ様の姿そのものだわ!
ボーっと見とれていると周りから大きな拍手が。
どうやら終わったようだ。
ヤバい、全く聞いていなかった!
あぁ~、せっかくのカルロ様の生挨拶を聞き逃すなんて…
エイリーンのバカバカ!
「これにて入学式を終わります。新入生は各自、自分のクラスに向かう様に、なおクラス分けは掲示板に張り出しておいたので、確認するように。以上だ。」
司会の先生の言葉で、周りは次々とホールの外へと出ていく。
「エイリーン、僕たちも掲示板を見に行こう」
カルロ様の言葉で、私たちもホールを後にし、掲示板にクラスを確認しに行く。
「カルロ様、新入生代表のスピーチをするなんて、聞いていなかったからびっくりしましたわ」
「ごめんね、結構ギリギリに決まったから言い忘れていたんだよ」
そんな話をしながら、掲示板へと向かう。
既に掲示板にはかなり人が集まっていた。
順番を待ち、2人で自分のクラスを確認する。
「僕もエイリーンもAクラスだね」
カルロ様が嬉しそうにそういう。
「そのようですわね、カルロ様と一緒のクラスで嬉しいですわ」
私ももちろん、笑顔で答えた。
貴族学院では事前に行われるテストの点でクラス分けが行われる。
成績が良い生徒から順にA・B・C・D・Eクラスに分けられているのだ。
Aクラスということは、一番成績が良い子たちが集まるクラスという事。
ちなみにエイドリアン、ヒロイン、フェルナンド殿下もAクラスだ。
漫画の世界でも主要メンバーはAクラスだった。ただ漫画では、成績があまり良くなかったエイリーンは、父親に泣きつき無理やりAクラスに入れてもらったという裏設定がある。
もちろん、今のエイリーン(私)は自力でAクラスを勝ち取った。
「エイリーン、僕たちもクラスに行こうか」
カルロ様は私の手をとり、2人でAクラスへと向かう。
人前で手を繋ぐの、やっぱり慣れないわね…
2人でクラスに入り、名前の書かれている席へと座る。
カルロ様との席は少し離れているが、前はエイドリアンだ。
ほぼ王宮と家の往復しかしてこなかったため、知り合いが少ない私。
身内ではあるけれど、数少ない知り合いが近くの席っていうのは心強いわ。
「エイドリアン、前の席なのね。よろしくね」
私が声をかけると
「ああ、エイリーン、困ったことがあったらいつでも言って。俺が解決してやるからな!」
なんて言っている。
「ありがとう、エイドリアン」
そんな会話をしていると、ヒロインが教室に入ってきた。
そして私を見つけるなり、嬉しそうにこっちに向かってくるではないか
「あの、先ほどは転んだところを助けていただきありがとうございます。
私はリリー・ニッチェルと申します。もしよろしければ、私とお友達になってくれませんか?」
ものすごい勢いで話すヒロイン。
さっきまでにぎやかだった教室内も、シーンと静まり返り皆がこっちを見ている。
突然のことに私も固まってしまった。
でも、これってヒロインと仲良くなるチャンスよね。
まさか向こうからやってくるなんて思わなかったけれど…
そんなことを考えていると
「ニッチェル男爵家の令嬢だよね。あのさ、こんなことは言いたくないんだけれど、彼女はフィーサー家の令嬢で王太子でもある僕の婚約者なんだ。君が馴れ馴れしく声をかけていい女性ではないんだよ」
いつも優しいカルロ様からは考えられない、冷たくて厳しい言葉が飛び出した。
その言葉にさらに固まる私。
「王太子殿下の言う通りだ。確かにこの学園では身分を気にせず平等を謳っているが、現実はそうではない。男爵令嬢が俺の妹でもある公爵令嬢に友達になってくれなんて、前代未聞だよ」
エイドリアンまで。
真っ赤な顔をして俯くヒロイン。
周りからも
「まあ、なんて図々しい子なのかしら」
「男爵は娘にきちんとした教育をさせていないのかしら」
なんて声も聞こえてくる。
いけない、せっかくヒロインと仲良くなるチャンスなのに、それにヒロインが可哀そうだわ!
「カルロ様、エイドリアン、私の為にありがとう。でも、私はニッチェル嬢とお友達になりたいわ。2人も知っているでしょ?私に同性のお友達がいないことを。こうやって面と向かってお友達になりたいと言ってくれてとっても嬉しかったのよ」
私はヒロインに向き直した。
「ニッチェル様、いいえ、リリー様と呼ばせていただいた方がいいかしら。
私で良ければぜひお友達になってくださいますか?私はエイリーン・フィーサーと申します。あなたのような可愛らしいお友達が出来てとっても嬉しいわ」
「「エイリーン」」
カルロ様とエイドリアンが私の名前を叫ぶ。
「ありがとうございます!フィーサー様、とってもお優しいあなたと友達になれて、私本当に嬉しいです。あの、私の事はリリーと呼び捨てにしてください」
溢れんばかりの笑顔と言葉を返してくれたリリー、もう本当に可愛いわ!
そして、カルロ様とエイドリアンが制止しようとしているのを無視して、私に“友達になれて嬉しい”と伝えるところ、さすがヒロイン、中々やるわね。
「では、私の事はエイリーンと呼んで。フィーサー様だとエイドリアンが振り向いちゃうといけないもんね。それにお友達なら、敬語もなしね。だって敬語だとよそよそしくて寂しいじゃない?」
「わかったわ、ではエイリーン様と呼ぶことにするわ」
「エイリーンで良いのよ」
「いいえ、さすがにそれはできないわ。ねっ、いいでしょ?
エイリーン様!」
可愛い…
そんな可愛い目でお願いされたら、断れないじゃない。
「わかったわ。じゃあ、これからよろしくね、リリー」
「はい、エイリーン様」
リリーが嬉しそうに答えた。
こうして私は入学初日に、まさかのヒロインと友達になる事が出来た。
漫画のストーリーとはかなりかけ離れた展開になったが、私としては良い方向へと向かってよかったと思っている。
でも…
ものすごく不満げな顔をしているカルロ様とエイドリアンの視線が気になるが…
まあ、気づかないふりをしておこう
リリーは考えるより先に行動するタイプのヒロインです。ちなみに気も強めです。
優しく大人しいヒロインも好きですが、リリーのようなはっきりしたタイプのヒロインも私は好きです。
ちなみに…
入学式が終わった後、カルロ様とエイドリアン、それぞれから小言を頂いたエイリーン。
必殺”ウルウル目でお願い作戦”で難を逃れたとか。
基本的にエイドリアンもカルロ様もエイリーンに弱い。
そんなエイリーンから「リリーと友達になってもいいでしょ?ね、お願い…」
なんて上目遣い言われたら、2人ともイチコロである。