王太子就任式&婚約発表会を行います~後編~
少し長めです。
ヒロインが愛した唯一の人、フェルナンド殿下。キラキラ透き通るような美しい銀の髪に、ルビーのような真っ赤な瞳を持つ美少年。
王宮に約3年毎日のように通っていたけれど、今まで一度も見たことが無かった第二王子だ。
でも…なんて瞳をしているのかしら。何もかも諦めたような瞳をしている。例えるなら“無”ね。
これが12歳の少年の瞳なの!漫画でも同じような孤独を抱えた瞳をしていたが、現実に見るのと漫画の世界では全然違う。
まあ、彼が置かれている状況を考えればあの瞳は当然と言えば当然かもしれない…
「エイリーン、どうしたの?式典を進めるにあたって簡単な説明があるみたいだよ。しっかり聞いておかないとね」
カルロ様の言葉でハッとする。
そうだ、今は式典を成功させないといけない。
陛下専属の執事より簡単な流れの説明を受ける。特に今回主役のカルロ様と私はしっかり立ち位置を把握する必要がある。
一旦フェルナンド殿下の事は置いておいて、式典に集中しよう。
ある程度の流れの説明が終わると、いよいよ会場へと入場する。
陛下・王妃様・カルロ様・私・フェルナンド殿下・ソフィア王女(メイドに抱っこされた状態)の順で入場する。
ヤバい、さすがに緊張するわ。
そしてついに、司会者でもある宰相の言葉で私たちは入場した。
陛下・王妃様が真ん中、陛下の横にカルロ様、その横に私、王妃様の横にはソフィア王女、その横に
フェルナンド殿下が座った。
周りを軽く見渡せばアレクサンドル王国の貴族はもちろん、他国の王族たちもたくさん来ている。
さらに魔道具によって、この映像が国中にリアルタイムで配信されている。これは失敗できないわね…
まずは陛下の簡単な挨拶、そして次はカルロ様の王太子就任式へと移る。
「本日は遠路はるばる、我が息子カルロとその婚約者エイリーンの為によくおこし頂いた。誠に感謝する。まだまだ未熟な2人だが、どうか温かい目で見守っていただきたい。」
私とカルロ様もその場に立ち上がり、頭を下げた。
「そして本日、我が息子カルロが王太子として正式に就任することになった。カルロ」
「はい!」
カルロ様は立ち上がり、陛下の前へとやってくる。
「カルロ・オブ・アレクサンドル、本日をもって王太子となる事を認める」
そう宣言すると、陛下は王冠をカルロ様の頭に乗せ、マントを付けさせた。この王冠とマントは、代々王族の間で受け継がれてきたもので、王太子のみが付けられるものらしい。
「ここに新しい王太子殿下が誕生いたしました。カルロ王太子殿下、おめでとうございます!」
宰相の言葉で一斉に拍手が沸き起こった。そしていよいよ次は私の番だ。
「続きまして、カルロ王太子殿下の婚約者をご紹介いたします」
宰相の言葉を聞き、私の緊張もマックスだ。
「知っているものもいるかとは思うが、カルロの婚約者、エイリーン・フィーサーだ。カルロ共々どうかよろしく頼む」
陛下の言葉が終ると、私は立ち上がりカルロ様の横に並ぶと、深々と頭を下げた。
周りからは大きな拍手が沸き起こる。頭を上げるとお父様とお母様、エイドリアンも拍手で祝福してくれている。
これで私はカルロ様の婚約者としてみんなに認められたのね、そう思うとなんだか込み上げてくるものを感じた。
絶対カルロ様を幸せにしなきゃね!
次はソフィア王女のお披露目だ。
「本来であればこれでおしまいなのだが、せっかくなので皆に紹介したい。3ヶ月前に産まれた第一王女、ソフィアだ」
陛下に抱かれたソフィア王女が皆様にお披露目された。
「まあ、なんて可愛らしいのかしら」
「陛下にも王妃様にもよく似てらっしゃる」
そんな言葉があちこちから聞こえてくる。
うん、確かにソフィア王女は可愛い!
式典が終わると、次はバルコニーへと出る。そこにはたくさんの民たちが集まっていた。
私たちは、民たちに向かって笑顔で手を振る。
「カルロ王太子バンザーイ、エイリーン様バンザーイ、ソフィア王女バンザーイ」
そんな言葉があちこちから聞こえてくる。
こうして無事式典は終わった。
次は舞踏会だ。
そう、式典の後は王宮で舞踏会が行われる。
実は舞踏会に参加するのは今回が初めて。楽しみな反面、不安も大きい。
それに…フェルナンド殿下…
確かに私の推しはカルロ様だけれども、ヒロインもフェルナンド殿下も好きなキャラだった。
そんなフェルナンド殿下があんな顔をしているなんて…
なんだか放っておけないわ…
そんなことを考えていると
「エイリーン、式典が無事に終わってよかったね。次は舞踏会だ。今回は僕たちが主役だから、色々な人に挨拶しなければいけない。大変だろうけれど、頑張ろうね」
「ええ、カルロ様に恥をかかせないように頑張りますわ」
フェルナンド殿下の事も気になるが、まずは舞踏会だ。
とりあえず一通りの言葉は覚えた、3ヶ月かけて王族の顔と名前も覚えた。
ダンスも頑張った。やることは全部やったんだから、きっと大丈夫だ。
この無駄にポジティブ思考、我ながらあっぱれだと思うわ。
そしていよいよカルロ様のエスコートで、舞踏会会場へと向かった。
ちなみに舞踏会では最初に招待国の王族が踊るのがルールだ。そう、陛下と王妃様、カルロ様と私が最初に踊るのだ。
「エイリーン、いっぱい練習したからきっと大丈夫だよ」
カルロ様が優しく励ましてくれる。
陛下と王妃様に続いて、私たちも入場し、そのままホールの真ん中へとやってきた。
音楽が流れだし、4人は踊りだした。最初は緊張したものの、何度も練習したおかげか途中から少し余裕が出てきた。
そもそも推しとみんなが見ている前でダンスできるなんて、どんなご褒美かしら!
「エイリーン、だいぶ余裕みたいだね」
踊りながらカルロ様が声をかけてくる。
「カルロ様こそ、相変わらずお上手ですわよ」
そんな会話をしながら踊っているうちに、あっという間に踊り終えてしまった。
周りからは溢れんばかりの拍手が鳴り響く。
私たちは軽く頭を下げ、ホールを後にする。
するとすぐさま色々な人に話しかけられる。もちろんアレクサンドル王国以外の人にも話しかけられる為、私は必死に覚えた言葉を披露する。
カルロ様はあまり言葉と顔を覚えるのが得意ではないのか、時折詰まってしまうため、そこはしっかり私がフォローした。
もう何人と話しただろうか…さすがに疲れたわね…
そう思っていると、壁にもたれかかっているフェルナンド殿下を見つけた。
誰かと話すこともなく、1人でいるようだ。しばらくすると、庭へと出ていってしまった。
これって、フェルナンド殿下と話が出来るチャンスよね。
ちょうど挨拶も一通り終わったし…
でも、どうやってフェルナンド殿下を追いかけようかしら…
カルロ様に正直に話すときっと止められるわ。
疲れたから休んでくると言っても、きっと優しいカルロ様はついてくるだろうし…
そうだ!少し…いや、かなり恥ずかしいけれどこれしかない!
「カルロ様、私ちょっとトイレに行きたくて…」
やっぱり恥ずかしい…顔を赤くしながら小声でカルロ様に伝える。
「エイリーン、気づかなくてごめんね!僕はここで待っているから行っておいで」
あぁ、カルロ様、ごめんなさい。
心の中で謝る私。
早速私は、トイレに行くふりをして庭へと出る。
何人かベンチに座って休んでいるが、フェルナンド殿下の姿は見当たらない。
もっと奥にいらっしゃるのかしら…
そう思い、奥へと進んでいく。
いたわ!
ベンチに1人腰を下ろし、月を見つめているフェルナンド殿下を見つけた。
私はつい大きな声で叫んでしまった。
「フェルナンド殿下!!」
少し驚いたような目でこちらを見つめるフェルナンド殿下。
「俺に何か用かい?エイリーン嬢」
「あの…私…」
ダメだ、言葉が続かない…
なんて言ったらいいのかしら?まずは私のせいで孤立してしまったことを謝るべき?
でも急に謝るのも変よね?どうしよう…言葉が見つからない…
そんな私の気持ちを察したのか
「別に俺は君を恨んでいないよ。そもそも王太子なんて全く興味が無かったのに、周りが騒いでいただけだし。むしろ静かな環境を作ってくれて感謝しているくらいだよ」
そう言ったフェルナンド殿下だけど、その瞳からは何とも言えない孤独感を感じる…
何か言わなければ…
「主役がこんなところにいたらまずいんじゃない?じゃあ、俺は行くよ」
そういって私とは反対方向に歩き出したフェルナンド殿下。
何か言わなきゃ!何か!
「あの…今は孤独かもしれません。自分の存在価値がわからず、何のために生きているのだろうと、考えることもあるかもしれません。
でも…でも、必ず心から愛し愛される女性が現れます!必ず!だから…だから…」
あぁ…私、何言っているんだろう!
「君はずいぶん変わっているね。俺なんかに構っても何の得にもならないよ!でも…君の言葉は覚えておくよ」
そう言ったフェルナンド殿下、一瞬笑ったように見えたのは気のせいかな…
「あぁ、話はここまでのようだ。君のナイトが来たみたいだよ」
フェルナンド殿下の見ている方向を向くと、猛スピードで走ってくるカルロ様が目に入った。
カルロ様…走るの好きね…
「エイリーン、大丈夫かい?あいつに何かされたのかい?」
「いえ、大丈夫ですわ!私の方から声をかけましたの。ねぇ、フェルナンド殿下」
私がそう言い、フェルナンド殿下の方を振り向いたのだけれど、すでに遠くの方まで歩いて行ってしまった後だった。
「やっぱり…エイリーンもあいつの方が良いのかい?」
カルロ様が悲しそうな顔で私を見つめている。
しまった!!カルロ様に変な誤解をさせてしまったわ!
「まさか、とんでもありません。私がお慕い申し上げているのは、カルロ様ただ1人でございます。この気持ちは、たとえ世界がひっくり返っても変わることはございません!
不安にさせてしまい、本当に申し訳ございませんでした!」
私はカルロ様にこれでもかというくらい頭を下げて謝った。
「エイリーン、頭を上げておくれ、疑って悪かったよ」
慌てるカルロ様も素敵ね。
そんなことを考えていると、頬に柔らかいものが当たった。
もしかして、カルロ様に、キ…キスされた!
「エイリーン、これからもよろしくね」
カルロ様はそういって笑っている。
私は茹でだこの様に真っ赤になっていると言うのに…
フェルナンド殿下の事は気になるけれど、その点はヒロインが何とかするわよね。
きっと…
エイリーンは後先考えず、行動する節があります。
今回もフェルナンド殿下と話さなきゃと言う思いが先走り、いざ目の前にやってくると頭が真っ白になり、うまく気持ちを伝えられませんでした。
少しあわてんぼうで、おっちょこちょいなエイリーンです。
もう少し話が進んだら、フェルナンド視点も書きたいと思っています。