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決闘をするそうです

少し長めです。

ジーク殿下との一件以来、カルロ様がそばにいてくれる時間が格段に増えた。朝私が王宮に着くと必ず出迎えて、王妃教育が行われる部屋まで送ってくれるし、帰りも必ず馬車に乗るまで見届けてくれる。


もちろん、王妃教育が終わるタイミングで、出迎えてくれるのも忘れない。どうしても私の王妃教育が早く終わるときは、カルロ様専属の護衛騎士が3人、私の警護にあたる徹底ぶりだ。


そのおかげか、ジーク殿下と2人きりになる事はまずない。


2人きりになる事はないのだけれど…

ことあるごとにジーク殿下に絡まれる。


特に王妃教育後のカルロ様とのティータイムでは、必ずと言っていいほどジーク殿下もやってくる。


今もカルロ様とのティータイムを楽しんでいるのだが、もちろんジーク殿下も一緒だ。


「教育係に聞いたんだが、エイリーン嬢はアマリア王国の言葉と歴史をほぼマスターしているようだね。マナーも完璧だし、アマリア王国にいつ嫁いでも問題ないよ!

もちろん、俺もしっかりフォローするし」


ジーク殿下は紅茶を口に含みながら、嬉しそうに話している。


「何度も申し上げておりますが、私はアマリア王国に嫁ぐつもりはありません。どうか他の方を当たってくださいまし」


「エイリーン嬢、これは運命なんだよ。そうだ、帰国する前にエイリーン嬢の父君と母君に挨拶したいんだが、いつが良いだろうか?」



あ~、ダメだ。話が通じない。

こんなやり取りが、すでに1週間続いている。

後3日で帰国する予定なのだが、さすがに辛い…


「ジーク、いい加減にしてくれないか!君がいくらエイリーンをお嫁さんにしたがっても、それは出来ないんだよ」



「あぁ、カルロ、いたのか。お前こそエイリーン嬢の事は諦めろ」


いたのかって…

そもそも私とカルロ様がお茶をしていたところに、あなたが乱入したんでしょうが…


もう本当に疲れる…

王妃教育の10倍は疲れるわ!

でも後3日の辛抱、頑張ろう!



そう思っていたのに…事態は思わぬ方向へと進むことになる。




それはジーク殿下の帰国が明日に迫った日の事。


「カルロ、俺と決闘しろ」


いつものようにカルロ様とお茶をしていた時の事。ジーク殿下がいらしたと思ったら、突拍子もないことを言い出した。


「何を言っているのですか、ジーク。決闘なんてしませんよ」


「ならば明日、エイリーン嬢は無理やりにでもアマリア王国に連れて帰る」


「そんなこと、父上も母上も許すはずがないでしょう」


「いいや、叔父上と叔母上には許可をとった。そもそもアマリア王国では、強いものが好きな女性を手に入れられる。実際叔父上も叔母上の婚約者と決闘し、勝って叔母上と結婚したんだ」


そうだったの?

国王陛下が王妃様に猛烈アプローチをして結婚したとは聞いていたけれど、まさか決闘して勝ち取ったとは知らなかったわ。


「カルロ、決闘するのか、それともエイリーン嬢は諦めるのか選べ!」


そんなめちゃくちゃな…

カルロ様、どうするんだろう。


カルロ様の方を不安げに見つめていると、カルロ様と目が合い、優しく微笑んでくれた。


「わかったよ、その決闘、受けて立とう」


「カルロ様」


私が心配そうに叫ぶと、カルロ様が私の頭を優しくなでてくれた。


「大丈夫だよエイリーン、僕は絶対負けないから」


私を安心させようと、優しくほほ笑みながら言う。


「では明日の明朝、場所は王宮の訓練場で行おう」


ジーク殿下はそういうと去って言った。

本当に大丈夫なのかしら…




そして迎えた次の日。

私はいつもより早く王宮に向かい、決闘を見守ることにした。

決闘には王妃様も来ていた。


「カルロはエイリーンちゃんの期待に応えられるかしらね」

なんて言っている。


明らかに楽しんでいるようだ。

この人、息子が心配じゃないのかしら?


しばらくすると、剣を持った2人が出てきた。

今回の決闘は、アマリア王国のルールに乗って行われ、相手の首に剣を突き付けた方が勝ちらしい。


ちなみに本当の剣を使って行うため、怪我をすることもあるらしい。


カルロ様がどうかお怪我をしませんように。

祈るような気持ちで見つめる。



「カルロ、逃げるなら今のうちだぞ」


「冗談はやめてください。エイリーンは何があっても渡しません」


何やら2人が話しているようだけれど、この距離からは聞こえない。



「では今から決闘を始めます。お2人ともご準備はよろしいですね。では、始め!」


審判員の掛け声とともに、剣と剣とのぶつかり合う音が聞こえる。


「カルロ、腕を上げたな、でもこの程度じゃあ俺には勝てないぞ」


「そんなもの、やってみないとわからないでしょうが!」


静まりかえった会場に、金属音の激しくぶつかり合う音が響き渡る。

やはり武の国と言われるアマリア王国の王太子、剣の腕はかなりすごい。


押され気味のカルロ様。

何度もジーク殿下の攻撃を受け、脚や腕から血も出ている。倒れそうになっては再び立ち上がり、向かっていくカルロ様。

何度も何度も…

もう見てられない!


「カルロ様、もう止めて!」


私は居てもたってもいられず、つい叫んでしまった。


「エイリーン、それはできないよ!僕は君を諦める訳にはいかない!」


カルロ様…


「そろそろ決着を付けようか、カルロ」


ジーク殿下は言葉通り一気にカルロ様に攻め込む。

次の瞬間、カルロ様の剣が宙を舞うと同時に、バランスを崩し膝をついた。


「もらった!」


その声と共に、ジーク殿下の剣がカルロ様の首を目掛けて飛んでくる。


「ダメ~~~!!!」


その瞬間、私は大声で叫びながら、無意識に魔力を放出した。ものすごい光に包まれ、その場にいた誰もが目を閉じた。


今だ!

私はカルロ様をかばう様に、ジーク殿下の前へと立ちはだかる。


「エイリーン嬢、何を!」


「ジーク殿下、もうお止めください。何度も申し上げております通り、私はカルロ様を心よりお慕い申し上げております。もしこの決闘でジーク殿下が勝ったとしても、私は絶対にあなたの妻にはなりません。

たとえ首に縄を付けられて連れていかれたとしても、全力で逃げ帰りますわ。それでもどうしても決闘の続きがしたいのであれば、今度は私が相手になります!」



私はジーク殿下の目を見て、はっきり告げた。

しばらく沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは王妃様だ。


「ジーク、もうやめなさい。あなたも解ったでしょう?エイリーンちゃんは心からカルロを愛しているのよ」


王妃様の言葉に、ジーク殿下も思うことがあったのか


「俺の負けだ、エイリーン嬢、今まですまなかったな」


そういうと、去って行った。


良かった…

私はその場にへたり込んだ。


パチパチパチ


誰かが手を叩く音が聞こえ、一斉にそちらを向く。



国王陛下だ。カルロ様の婚約が決まった時、一度だけあったことがある。

でも、なんで陛下がこんなところに?



「素晴らしい戦いだったよ、カルロの諦めない気持ちも、エイリーン嬢のカルロを思う気持ちも。本当に素晴らしかった。私もいつまでも逃げていてはいけないな…」


陛下はそういうと、王妃様の方へと向き直した。王妃様はそっぽを向いている。



「ビクトリア、今まで本当にすまなかった。君を深く傷つけてしまった事、本当に申し訳なく思っている」


深く頭を下げる陛下。


「今更何を言っていらっしゃるのかしら?」


「言い訳にしか聞こえないかもしれないが、あの時つわりで苦しんでほぼ寝たきり状態の君に、何もできない自分が歯がゆかったんだ」



「それでメイドに手を出したというのですか?」



「一度だけの過ちとはいえ、君を深く傷付けてしまった。いつも花が咲くような笑顔で、誰にでも優しい君が、あれ以来一切笑わなくなってしまった。

ここまで深く傷付けてしまったのかと思うと、とても後悔したよ。でもどうしていいかわからなかったのだ」


「話になりませんわね」


「でもこれだけはわかってほしい、私は昔も今も、ビクトリア、君だけを愛している。許してほしいとは言わない。でも私に挽回するチャンスをくれないかい?」


「本当に私を愛しているのですか?メイドに心変わりしたのではなくて?」



「それはあり得ない、本当にメイドとは一夜限りなんだ。そこは信じてほしい」


「陛下…私てっきりメイドに心変わりをしたのかと思っておりましたわ。でも…そうではなかったのね」


「ビクトリア、できれば陛下ではなく…名前で呼んで欲しい」


「シリル様、これからは私だけを見てくださいますか?」


「もちろんだ、生涯ビクトリアただ1人だけを愛するよ」


「シリル様!!!」


抱き合う陛下と王妃様。


なんだ?この茶番劇は…

カルロ様も口をぽかんと開けて固まっているではないか。


んっ?カルロ様?そうだ、忘れてた

私はカルロ様の方を向いた。


「カルロ様、私の為にこんなに傷だらけになって…すぐに治療するわ」

そういうと、カルロ様に治癒魔法をかけていく。見る見る怪我が治っていくが、結構あちこち怪我をしていたため、少し時間がかかってしまった。


「エイリーン、ありがとう。それにしても、エイリーンに助けられるなんて情けないな…

かっこ悪いところを見せちゃってごめんね」


「そんな事全然ないわ。カルロ様の剣捌き(さばき)、とってもかっこよかったですわ。私惚れ直しましたのよ」


そう言うと、照れたようにカルロ様が笑った。


「エイリーン、これからもずっと僕のそばにいてくれるかい?」


「もちろんですわ」



私が元気よく答えると、カルロ様に腕を引っ張られ、そのまま抱きしめられた。

え~、今カルロ様に抱きしめられている!!


初めて会った時に不可抗力で抱きしめられた時よりもしっかりした胸板、相変わらずいい匂い!

ヤバい、キュン死にしそう…


この時ばかりは、ジーク殿下に感謝したエイリーンであった。





その日の午後、ジーク殿下が国に帰るため、私とカルロ様、陛下に王妃様が見送りに来ている。


「ジーク、元気で。お兄様によろしく伝えてね」


「はい、叔父上と叔母上もお元気で」


「エイリーン嬢、今まで本当にすまなかった。カルロと仲良くな」


「はい、ありがとうございます。ジーク殿下もお元気で」


「カルロ、エイリーン嬢を泣かせることがあったら、いつでも奪いに来るからな」


「そんなことは絶対ないので、ご心配なく」


ジーク殿下は一通り挨拶が終わると、馬車に乗り込んだ。

走り出す馬車の窓から身を乗り出し、手を振っている。


私たちも殿下が見えなくなるまで手を振り続けた。


嵐のような人だったけれど、悪い人ではなかったわ。

次は、良き友人として会えるといいな…


~決闘後、王妃様とエイリーンのお茶会での会話~


「王妃様、なぜ決闘を許可されたのですか?」


「あら、だって2人の男が1人の女性を奪い合うなんて素敵じゃない」


「でももしカルロ様が負けたらどうするつもりだったのですか?」


「う~ん、あまり考えてなかったわ。まあ何とかなるかなって」


「…(エイリーン)」


「それに実際ジークは諦めたんだから、よかったでしょ。ね、エイリーンちゃん」


「そういえば、陛下も王妃様の婚約者と戦って王妃様を妃にしたと聞いておりますが」


「あ~あれはね、まあ、出来レースみたいなもんだったのよ…」


「出来レース?」


「私の婚約者だった人は、アマリア王国の騎士団長だったんだけれど、彼は他に好きな人がいたの。だからシリル様と騎士団長が裏で話を合わせて、シリル様が勝つように合わせたって訳」


「そうだったんですか!」


「もし騎士団長が本気を出していたら、シリル様なんて秒殺で負けてたわよ」


(王妃様、結構辛口…)


「それより聞いて、エイリーンちゃん!シリル様ったらね~」


「…(エイリーン)」


その後、中々お茶会から戻ってこないエイリーンを心配したカルロに救出されるまで、延々と王妃様から陛下とののろけ話を聞かされたのであった。



漫画では冷たい印象だった王妃様、実はとってもお茶目で優しい人でした。

byエイリーン

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