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第一王子として生まれて~カルロ視点~

誤字脱字報告ありがとうございます。

王妃がカルロに虐待的暴言を吐くシーンがあります。

苦手な人はスルーでお願いします。

僕の名前は、カルロ・オブ・アレクサンドル。アレクサンドル王国の第一王子で、王妃の実の子供だ。


そんな僕には5ヶ月後に生まれた、異母弟がいる。彼は母上が妊娠中、現国王でもある父上が手を出したメイドとの間にできた子供らしい。


母上は隣国アマリア王国の第三王女。アマリア王国に留学に来ていた父上の猛アプローチを受け、アレクサンドル王国に嫁いできたらしい。


そのため、父上の浮気がどうしても許せず、メイドが生んだ第二王子を目の敵にしている。父上を憎んでいる母上は、今ではほとんど父上と話をしない。


ちなみにこれらの話は、噂好きのメイドが話していたものを、たまたま聞いた。

そう…たまたまだ。



傍から見れば、王妃が生んだ第一王子と、メイドが生んだ第二王子、どちらが王太子にふさわしいかと言えば、第一王子だろう。さらに第二王子の母親は、出産時に亡くなっている。


その点もあって、最初は母上も僕が王太子になると確信していたようだ。でも状況は違った。


勉学、武力、魔力量、何をとっても平凡な僕に対し、第二王子は全てが完璧だったのだ。次第に、第二王子を王太子に押す声も大きくなり始めた。


母上は元々小言が多かった。


「あなたは何をやっても平凡、平民ならそれでも良いかもしれませんが、あなたは王族なのですよ、こんなことでは王太子になんかなれませんよ」


それが母の口癖だった。


それが最近では癇癪をおこし怒鳴り散らすようになった。


「あなたは何をやっても本当にダメね!このままだとあの忌まわしい女の子供が王太子になってしまうのよ!この役立たず!どうしてこんな出来損ないを私は生んでしまったのかしら」



出来損ないか…

僕は母上にとって、一体何なんだろう…

僕は生まれてきてはいけなかったのだろうか…


さらに聞こえてくる、使用人たちの噂話。


「ねえ聞いた?第二王子のフェルナンド殿下、この前の剣の大会で優勝されたようよ、本当にすごいわよね。それに比べて第一王子のカルロ殿下は…」


「カルロ殿下は本当に口下手よね。王妃様がイライラするのもわかるわ。やっぱり王太子はフェルナンド様かしら」


本当に、僕は何のために生まれてきたのだろうか…




そんなある日、母上が僕の部屋へとやってきた。

「カルロ、あなたに朗報よ、今度フィーサー家の令嬢とお茶をすることになったの」


フィーサー家と言えば、この国の貴族会で絶対的権力を持つ公爵家だ。


「フィーサー家の令嬢と婚約すれば、きっとあなたが王太子に決まるはずよ。いいわね。何があっても令嬢と仲良くなって、婚約者になってもらうのよ」


そう言うと、母上は出ていった。


母上がフィーサー家に何度も何度も婚約話を持ち掛けていたことは知っている。そのたびに、公爵からやんわり断られていたことも。きっと母上があまりにもしつこいから、公爵も折れて、「じゃあお茶でも」っていう話になったのだろう。



もし僕がフィーサー家の令嬢と婚約できなければ、母上は僕のことを捨てるかもしれない。正直言うと、僕は王太子になんてなりたい訳ではない。


でも王太子にならないと、きっと僕は本当に存在価値がなくなってしまう。だから、何としてもフィーサー家の令嬢と婚約しなければ…


けれど、どうすればいいんだろう…


僕は答えが出ないまま、ついにお茶会の日を迎えてしまった。





お茶会当日、居間で待っている間、母上は「わかっているわね、令嬢に取り入るのよ」と何度も言ってくる。


この何とも言えないプレッシャーで、僕の胃はキリキリと痛み始めていた。


そうこうしていると、母上の専属メイドの1人がやってきた。

どうやら公爵と令嬢が来たようだ。


僕の緊張はまさにピークを迎えた。絶対に失敗はできないのだから。


メイドに案内され厳格そうな男性と、同い年ぐらいの女の子が入ってきた。


腰まで伸びた赤い髪に、瞳と同じエメラルドグリーンのドレスがよく似合っている。吊り上がった目が少し冷たい印象を与えるが、それでもかなりの美少女だ。


“可愛い…童話に出てくる女神様みたい…こんな可愛い子とうまく話せるかな?”


「お初にお目にかかります。エイリーン・フィーサーと申します。本日はお招きいただき光栄にございます」


彼女はエイリーン嬢というのか。今僕に向かってほほ笑んだ。声も笑顔も可愛いな…


続いて母上があいさつをし、僕も挨拶をした。そしてお茶会は始まった。基本的に母上と公爵が話している、僕も何か話した方が良いのかな、そんなことを考えていると…



「あらごめんなさい、大人ばかり話して、エイリーンちゃんやカルロは退屈よね。そうだわ、せっかくだからエイリーンちゃんにお庭を案内してあげたら?王宮のお庭にはいっぱいお花が咲いているのよ。そうしなさい、カルロ」


これはエイリーン嬢と仲良くなって来いという母上の合図だろう。僕はエイリーン嬢を庭に誘った。


でも…なぜか目を見開いて固まっている。もしかして、嫌なのかな…そんな不安がよぎった。

公爵の咳払いで我に返ったエイリーン嬢は、「ぜひ案内してください」とそれはそれは可愛い笑顔を見せてくれた。



庭に向かう間、何か話さなきゃ、そう考えるが、何を話していいのかわからない。結局無言のまま、庭についてしまった。


庭に着くと、エイリーン嬢は嬉しそうに花を眺めていた。僕が何の花が好きか聞いたら、「バラ」と答えたので、バラ園に案内した。


バラをうっとりと見つめるエイリーン嬢。本当にバラが好きなんだな。そんなことを考えていると、エイリーン嬢が急にしゃがみ込み、何かを拾い上げた。


どうやらケガをした小鳥のようだ。どうするんだろう?そう考えていると


「小鳥が怪我をしてしまったようで、でもまだ温かいから生きているみたいですわ。かわいそうに、すぐに治してあげるわね」



そう言って、治癒魔法をかけたのだ。僕は驚いた。なぜなら治癒魔法は、地味に魔力を使うため結構疲れる上、とても貴重な魔法だからだ。


実際治癒魔法を得意とする治癒師に治療してもらうと、かなり高額なお金を取られることも多い。そんな治癒魔法を、まさか小鳥に使うなんて。それもためらいもなく。


僕が目を見開いて固まっていると


「私こう見えて治癒魔法が得意ですのよ」

なんて言っている。


僕が「優しいんだね」というと、不思議そうに


「優しいのは殿下の方ではございませんか?」

なんていう。僕が優しい?


「僕が?」

つい聞き返してしまった。



「はい、さっきもずっと私の歩調に合わせて歩いてくれていたではありませんか。そういった気配りができる殿下は、優しいですわ」


歩調を合わせるなんて当たり前のことじゃないのかな。でも褒められると嫌な気はしない。


そうこうしていると、メイドがお茶の準備ができたと呼びに来たので、2人でベンチに腰を掛けてお茶を飲んだ。


隣に座るエイリーン嬢に緊張してしまい、何を話していいのかわからない。それにエイリーン嬢、なんだかいい匂いがするし…

何か話さなきゃ、そう思っていると、エイリーン嬢が急に立ち上がった。


「殿下、今からかくれんぼをしましょ!」


かくれんぼ?何だそれは?


エイリーン嬢の話によると、鬼以外の人が隠れて、それを鬼が見つけるという遊びらしい。

よくわからないが、エイリーン嬢に言われるまま、茂みに隠れることにした。


でも、すぐに見つかってしまった。

次は僕が鬼、エイリーン嬢を探す番だ。でも中々見つからない。焦った僕は、何度もエイリーン嬢を呼んだ。


すると1人の護衛騎士と目が合った。その護衛騎士はある場所を見つめている。そこか!

エイリーン嬢見つけた。僕が声をかけると


「殿下、護衛騎士に聞くなんてずるいですわ!」


不満の声を上げたエイリーン嬢だったが、何だが様子がおかしい。顔を赤くしてうつむいてしまった。

もしかして、出られないのかな?


そう思った僕は、エイリーン嬢に手を差し伸べ、勢いよく引っ張り出した。勢いが良すぎたのか、エイリーン嬢が僕の胸に飛び込んできた。


エイリーン嬢の柔らかくて温かい感触が、体に伝わる。それにやっぱりいい匂いがする、このまましばらく抱きしめていたい…って何考えているんだ。


僕は慌ててエイリーン嬢を引き離した。お互い顔が真っ赤だ。微妙な沈黙を破ったのは、フィーサー公爵だ。娘が心配で迎えに来たらしい。


後ろには母上もいる。


「王妃様、殿下、今日はとっても楽しかったです。ありがとうございました」


エイリーン嬢がお礼の言葉を言う。

殿下か…。その言葉が何だが寂しくて、気が付いたら僕はエイリーン嬢に叫んでいた。


「エイリーン嬢、今日はとっても楽しかったよ。またぜひ遊びに来てほしい。それと…もしよかったら、殿下じゃなく、名前で呼んで欲しい…」


叫んだ後、急に恥ずかしくなって下を向いてしまった。


「カルロ様、またお会いできるのを楽しみにしておりますわ」

エイリーン嬢も叫び返してくれた。殿下から“カルロ様“へ呼び変えて。


エイリーンたちが帰った後、珍しく上機嫌の母上。

「エイリーンちゃんと仲良くなれたみたいね、カルロ」

なんて言っている。


なんだかとっても不思議な子だったな。そしてとっても優しい…

エイリーン嬢、また会いたいな


もう1話、カルロ視点が続きます。

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