子供たちと研究所の謎
翌日、すぐのでも話の続きを聞くつもりだった俺は笑顔で「お前がもっと強くなったなら続きを離してあげます。」という言葉と絶対に話してくれなさそうな雰囲気に誤魔化され、結局何も聞くことが出来なかった。
そして始まった教育という名の訓練。
魔法の使い方はもちろん肉体を駆使した体術や様々な武器の使い方。強靭な肉体を持つ俺ですら日々筋肉痛に悩まされるのだから相当だ。
そうした訓練で強くなっていく俺の体を、俺にはわからない機械で調べるカーランドと研究者たち。
そういえばここ研究所だった。カーランドの俺への接し方が実験体のそれとは違うから忘れていたが、ここは傍から見れば非人道的な実験をしているとこだったな……
他の実験体はどうなっているのだろうか。
俺へのカーランドの態度が普通に優しいせいで、俺の中での印象が最初と180度変わっている。だからかカーランドがこの研究所で人体を対象に実験を行っているという実感がわかないのだ。
俺以外の研究所にいる実験体を見てみたい。
そう思った俺は俺に与えられている部屋を研究員のすきを見て抜け出した。
研究所には地図なんてないから人の気配を頼りに移動する。
訓練のお蔭か、種族の特性か。俺は戦闘に関することはスポンジが水を吸うように容易く会得することが出来たので気配を感じる事や気配を消すなどはもはやお手の物なのだ。
そうしていると俺の感知範囲に大人より小さい気配がたくさんする場所を見付けた。
その場所に近づくにつれて声が聞こえてくる。気配の通りに多分まだ5~10歳くらいの子供たちだと感じた。
…おかしいな。ここって人体実験の研究所だよな。
部屋から聞こえてくる声がどう聴いても子供が普通に遊んでいる声で困惑する。
自分の気配を消し、そっと部屋を覗く。
普通に子供たちが遊んでいた。
ええ、ここってこんなに賑やかに子供が遊べるような場所なの?
「あれー?見たことない子がいるよ!」
困惑しすぎて隠密が甘くなってしまったのか子供たちの一人に気づかれてしまった。
いや、気配が漏れたとしても一瞬なのによく気づけたな。
その子に声に他の子たちも気が付いたのかわらわらと俺に群がってくる。
「ねえねえ!なまえは?」
「どこからきたのー?」
「あそぼー!」
「おまえどこの研究室から抜け出してきたんだ?」
「私は第二からきたよ!きみは?」
「俺も第二!」
「俺は第三けんきゅうしつ!」
まてまて、俺は聖徳太子じゃないからそんな一気に言われても全部聞き取れない!
「えと、どこの研究室かは分からない、名前はアシュラだ。」
すると子供の中では年かさな子、たぶん10歳くらいの子が話掛けてきた。
「アシュラ、ここに来る前に誰かに声かけたか?」
「いや、誰にも言ってない」
俺が誰にも声をかけずに自室を抜け出してきたことを告げると、周りの子供たちが声を上げる。
「ええー駄目だよー」
「担当者さんに声かけないと!」
「今頃心配してアシュラのこと探してるよ!」
その様子は恐ろしい研究者たちが逃げた実験体を探しているというよりは面倒を見ている子供が抜け出してしまった保育士さんの話をしているみたいな感じだ。
ますます意味が分からないな。ここって人体実験の研究所じゃないのか?それとも俺の認識が間違っていたのか?