天使の母
「…どう説明したらいいのでしょうか。」
「…そうですね、まずはお前の母親の話をしましょうか。」
そういってカーランドが語ったのは俺の母親、ミシェイルという一人の天使の話だった。
「俺は元々、ある国に属する研究者でした。そこでは今のような非人道的なものでなく、真っ当な研究を行い、日々国の為に仕えていたのです。」
「俺の国は数ある国の中でも国民の神への崇拝が強く残っている国でした。」
「神が存在しているかどうかは俺にはまだ分かりませんが、天使という、人間や亜人種などの知恵持つ存在の中でも一段階上の、神に仕えているという種族が存在しているせいか、それとも、天使という存在が俺の国にしか現れたことがないからか、殊更宗教にのめりこんでいました。」
「私自身、教会の司教や聖女、聖人と言われている人が天使を降ろしているのを見たことがあります。」
「…あれを俺たちと同じ一種族と思うには少し抵抗がありましたが…」
「同じ一種族でありながら、召喚されなければ現世にて活動できず、その力には制限がかかってしまう、そして位の低い天使であればあるほど、感情の起伏がない。」
「まさに神に造られた人形のように」
「…そしてある日俺はお前の母親となる彼女、ミシェイルと出会いました。」
「彼女は今にも死にそうだった。体中が傷だらけで、おそらく、合うのが少しでも遅ければ死んでいた。」
「…傷の他にも、天使であればだれでも存在する純白の翼が、黒く染まっていました。」
「国では天使のもつ力や種族としての成り立ちなども研究されていましたから、翼の黒い天使も存在するにはすると知っていました。ただ、それは堕ちた天使の特徴です。」
「…まあ、その時の俺にはそんなことは頭になく、ただ助けなければという思いで一杯だったんですけどね。」
…なぜ、カーランドは今、こんなところでこんな研究をしているのだろうか。
話を聞く限り、カーランドは善良で、今自分が行っている実験が異常で異端ということを理解している。
「彼女は治療をしようと近づく俺にも警戒を示し、治療を始めるまでに時間が掛かってしまった。」
「警戒するのも当然ですね、傷もそうですが、何より彼女は子を孕んでいたのです。」
「ふふ、お前のことですよ、アシュラ。」
「俺は自分で言うのもなんですが、優秀な研究者でした。でも流石に産婆の経験などありません。」
「なので、勉強しました。」
「ミシェイルもその時には俺に慣れてきたのか、信用してくれたのか。多くはありませんが事情を話してくれました。」
「彼女は国の中枢から逃げてきたと語った。」
カーランドはそこまで語ると、俺の顔を見た。
「ちょっと休憩しましょうか。…時間はまだまだあるのですから、話の続きはまた今度」
俺を抱え直すと、ベッドに俺を入れた。
…扱いが完全に子供だ。でも体は子供だからか、ベッドに入った途端に眠気が俺を襲った。
「カーランド。」
「なんですか?」
「…また今度、絶対に教えてね」
半分目が潰れながらそう言うと、カーランドは静かに笑いながら「もちろん。」と答えてくれた。
そんな微笑ましいと思っている顔で見ないでほしいな…
俺は絶対に全部聞き出してやろうと決意し、意識を完全に閉じたのだった。
短い文しか書けなかった…