目覚めさせなければよかったのかもな withオーロラ姫
今日のおやつは月餅ですの。中国のお菓子ですわね。当時、平安時代の中国といえば流行の最先端、憧れの留学先でもありますわね。そんなお国のおやつですからとってもハイカラなお味がしますのよ。おひとついかが?
そうそう「からころも」ってご存知でございますか? 「唐衣」「韓衣」と書きますわね。もともとは中国風のお衣装のことを指しますけれど、和歌などでは枕詞として使われることが多うございますわね。意味はさほどございませんが、「裾」や「袖」など衣服に関するお言葉と一緒に用いられますの。授業でお勉強なさいました?
さてさて、今回ご紹介するお姫さまは光る君にとっては異色? かもしれませんわね。
光る君の永遠のライバルといえば頭中将さまでございます。光る君の正室葵子さまのお兄さまでもいらっしゃいます。頭中将さまも藤原氏の名家の御曹司で家柄もピカイチ、お顔立ちも麗しく、恋模様もそれはそれは華やかな方でいらっしゃいましたから、光る君と宮中の人気を二分しておられます。
そんな宮中である美女のウワサが流れます。宮家(皇族)のお姫さまでとても慎ましやかに過ごされているそう。
そうなれば、メンズの皆さまは盛り上がるわけでございます。ええ、ええ、既婚・未婚関係なくでございます。どなたも会ったことがないものですから妄想ばかりが膨らみます。
―― それは見事な黒髪をお持ちらしい ――
―― 控えめなご性格で琴だけを相手にお暮らしらしい ――
この頃のお姫さまは滅多に外出なさいません。お屋敷の中でも異性のご家族とは直接お顔を合わしません。ですからお姫さまの実際のお顔だちや容姿を存じ上げているのは身近にお仕えしている数人の女房たちくらいなのです。
言ってみれば女房たちがどのようなウワサを流すかによってお姫さまの将来が決まることになるのです。
ウワサの美女のお父様は宮さまではあるけれど、浮世離れしすぎて経済的にはあまり豊かでないご様子なのです。こうなるとお姫さまがご結婚なさるお相手におウチの存続がかかってきます。女房たちの腕のみせどころでございます。
そして皇族でない公達にとっては宮家としての格式や気品は貴族にはない憧れのようでございます。そんな美女なら僕が守ってあげたい。わたしが支えてあげましょう。
「都じゅうでウワサの美女、俺が絶対オトしてやるぜ」
「頭中将にだけは負けられない」
「強行突破で既成事実を作ってしまえばこっちのモンだぜ」
当然のように光る君もそのお姫さまをゲットしようと盛り上がります。どうやら頭中将も狙っているらしい。これは急がないと! 幼馴染のツテをたどって強行突破、でございます。
なぜか必要以上に照明を落としてあるお姫さまのお部屋に忍び込むことに成功なさいます。
夜に訪れて、夜明け前に帰る。
夜に訪れて、夜明け前に帰る。
そんなデートを何回かしたある朝。
障子の向こうが明るいので見てみると一面の雪景色。
雪に反射する朝日。
眩い陽射し。
煌く空気。
そんな美しい冬の朝に訪れた光る君の衝撃、でございました。
強行突破の既成事実のその行き着く先、暗がりの向こうの真実、でございます。
申し上げるのは少々気が引けますけれど、まぁ美女さんではなかったのでございます。ご性格もとても消極的で当時のたしなみである和歌がなにより苦手なお姫さまでいらっしゃいました。寒さのせいなのか紅いお鼻をなさっていたので、光る君は末摘花(紅花=紅鼻)のようだとお例えになられました。
「まじかよ……」
「誰だよ、美女ってウワサ流したのは……」
光る君、真っ青でございます。しかも古風なお姫さまですから、彼女はすっかり「源氏の奥様」気取りでいらっしゃいます。
強行突破……。
既成事実……。
「もうわらわは光る君のツマ♡」
「運命の赤い糸は光る君と結ばれていたんだわ」
「遊び人だなんて言わないで。わらわのダーリンよ」
からころも♬
からころも♬
苦手な和歌も「からころも」を多用して頑張ってお詠みになられます。
なんともいじらしいお姫さま、光る君もなかばヤケクソで面倒をご覧になることになさいます。末子さまとお呼びすることにいたしました。
からころも♬うれしはずかしからころも♪ きゃっ♡
「ああもうなんだってこんなことに」
「あのまま眠らせておけばよかったんだよな……」
「目覚めさせなければよかったのかもな……」
からころも♬わらわのダーリン光る君♪
~ 参ったよ やり直せたり しねぇよな
目覚めのキスを なかったことに ~
「からころも ああからころも からころも……」
「からころもにてからころもなる」
それでも他の追随を許さない純朴さと不器用さはそれはそれで末子さまの魅力でもございます。こんな風にぎこちない和歌をおよこしになる末子さまも可愛らしく思えるのです。
「これをダーリンに。わらわの手作りなのよ」
なんでしょう。ひも形状のものを縦横無尽に絡めてある網と申しますか、長さは5尺(約1.5メートル)ほどでしょうか、なにやらゴワゴワとした織物のようなものでございます。
「お首に巻いてね。わらわの愛情もこもっているから温かいわよ」
光る君は引きつり笑いとともに末子さまの頭をぽんとなで、プレゼントを受け取られます。
ため息交じりの光る君が脇息(ひじ掛け)にもたれかかりながら、月餅をポーンと放り投げてお口でキャッチなさいます。まぁまぁ、なんてお行儀の悪いこと。ほらみてごらんなさい、喉につかえましたでしょ? お茶を流し込まれるのはいいといたしましても、そのお茶、センブリ茶でございますわよ。大丈夫かしら。光る君。
あああ、源ちゃんズの皆さんが末子さまのプレゼントを簀子(お屋敷の外廊下)に敷いてますわ。それ、足ふきマットじゃございませんのよ。
「一応ソレ、俺んとこに持ってきといて……」
白魚のような美しいお指にささくれがたってしまうんじゃないかと思えるほどの質感のお手織物を手に光る君が苦笑なさっておいでです。でもどこかしら楽しそうにもお見受けいたします。
今回ばかりは例のおことばをつぶやく光る君が首をかしげていらっしゃいます。
死ぬほど末子に恋してる?
♬BGM
いつか王子様が (白雪姫より)
からころもオリジナルソング (光る君即興(^_-)-☆)
✨『げんこいっ!』トピックス
女子をときめかせる胸キュンシチュエーション
⑤頭ポンポン
からころもオリジナルソングはやけくそラップ調と切なく歌いあげるバラード調の2種類あり
☆次回予告
政敵の娘との恋。許されない恋の行方は?
(アタシに悲恋なんて似合わないわ。人生は楽しまないとね)