ゾクゾクするのは恋の醍醐味? with白雪姫の継母
今日はりんごをむきましたのよ。お召し上がりになりません? どうぞおつまみになりながらお聞きになってくださいませね。
葵子さまとのご結婚後も光る君の心が満たされることはございませんでした。
そんな折、宮中で評判の女性のお噂を耳になさいます。
六子さまとおっしゃり、亡くなられた前の春宮(皇太子)のお妃さまでいらっしゃいます。お嬢様もいらっしゃいます。夫である春宮さまに先立たれ、お嬢様とご一緒に宮中をお出になり六条のお屋敷でお暮らしになっていらっしゃいます。
ご身分はもとより高く、和歌や漢詩など学問にも通じており、今では季節ごとの催し事などなされては、その趣味の高さや演出の素晴らしさが評判になっているようで、このパーティーに招待されるのがセレブのステイタスと言われているようでございます。
そんなパーティーを通じておふたりは出逢われました。才色兼備の未亡人と宮中人気ナンバーワンイケメンですからお互いのおウワサはお耳に届いておりました。それぞれが興味を持ち、手紙のやりとりが始まり、ふたりきりでお逢いになるまでに時間はかかりませんでした。
葵子さまよりもお年上の六子さまでしたが、おふたりは恋に堕ちてしまいます。
六子さまは気品がおありで、優美な姿で佇むお姿はまるで気高い胡蝶蘭のようでございます。いくつもの蝶のような花を連ね、流れるように咲き誇るその花は六子さまの詠まれるお歌のように優雅にて優麗でございます。
恋人たちにふさわしい秋の夜長の季節。
虫たちがささやき、すすきがそよぎ、部屋に差し込むのは月の光のみ。
おふたりがお過ごしになる夜に有明の月が昇って参ります。
逢瀬の終わりを告げるように夜明けに昇る有明の月でございます。
「月が綺麗だよ(I love you)。もっと美しいのは貴女だけれどね」
「わたくしにはもう月は眩しすぎるわ(I am yours.とはもう言えないわ)。もう年だもの」
「何をいってるの。貴女はこんなに美しいのに(月よりずっとキレイだよ)」
「いつまでわたくしはこんな朝を迎えられるの(もうわたくしのところになんて来てくれないんでしょ)?」
「また来るよ。夜になったらね」
死ぬほど六子に恋してる
年下の浮ついた貴公子なんてわたくしは興味はありません、とおっしゃっていた六子さまでしたが、光る君の魅力には敵いませんでした。
光る君がおいでになるのを待ち焦がれ、おいでにならない夜はいずこに通われているのかとお心を乱されていらっしゃいます。
「この世で一番美しいのはだぁれ?」
ひとりきりの長い夜。鏡に向かって六子さまは呟かれます。
「この世で貴方が一番愛しているのはだぁれ?」
光る君への想いを書き散らした薄様紙が文箱に溜まっていくばかりでございます。
やがて光る君への恋心は強烈な嫉妬心へと変わり、光る君のご正室の葵子さまや恋人の夕子さまを恨み、妬み、呪うようになります。
どうやら毒入りりんごの準備をされていらっしゃいます。
「正室とはカタチだけの夫婦だって言ってたくせに妊娠するなんて……」
「どうしてあんなに身分の低いオンナと遊ぶのかしら?」
「許せないわ。遊びとはいえ、わたくし以外のオンナと……」
「あの方はわたくしだけのもの」
そんな折六子さまは偶然葵子さまと同じ場所に居合わせることになります。宮中主催のかぼちゃのお祭りの行列に光る君がお出になるのでご覧にいらしたのです。
高貴な身分のお方同士なのでおふたりがお顔を合わせることはございませんでしたが、ご家来衆同士が牛車の駐車場を巡ってちょっとした、いえ、かなりド派手な争い事をしてしまったのでございます。六子さまは大恥をかかされ、さらに葵子さまを憎むようになられます。
丑三つ時に六子さまのお屋敷から金属音が響いて参ります。なんでしょう、ワラ? で作った簡素な人形でしょうか。柱に打ち付けていらっしゃいますわね。あの方、頭に角が2本見えるのですが一体どなたなんでしょう。
どうやら六子さまはご自身でもその嫉妬心を押さえることがおできにならないようでございます。
一方、光る君はもともとがお優しい性格なのか、お付き合いした女性と完全に関係を終わらせるということをなさいません。
背筋を冷たいモノがつたいます。これも恋の醍醐味なのでしょうか?
もう逃れられない。蜘蛛の巣にかかった獲物の心境とでも申しましょうか。
どこからか聴こえてくるのは琴と琵琶と横笛のアンサンブル。この演奏は光る君私設管弦楽団でしょうか。もしやこのメロディはあのシューベルトの有名なオペラ……。まさか、でございますわね。ほほ。
〜 寒気した 風邪でも引いた? そうじゃなく?
ひょっとして俺 恨まれてんの? 〜
くしゃみをひとつしてから光る君は夜空をご覧になります。
『藤ちゃん、月から俺は見える?』
少し寂し気な笑みを浮かべてから今度は文机に向かわれます。
『葵ちゃん、抹茶のチョコなら食べられる? 今度持ってくわ』
フォンダンショコラのリベンジ、でしょうか。
『夕ちゃん、秋だからさ、果物狩りにでも出かけない?』
外でのおデートのお約束でしょうか。
『六ちゃん、また琴とかで合奏でもしような』
みなさまに御文をしたためていらっしゃるのです。
マメ、でございます。それは感心するほどに。それはそれは呆れるほどに。
それらの御文を光る君私設管弦楽団のメンバーが愛のメッセンジャーとしてそれぞれの女君のもとへと運ぶのでございます。
幻でしょうか。光る君の背後になにやら人のカタチのような影がございます。女性でしょうか、長い髪が意思をもったように動いております。あれはもしや……ヘビ? えええええ、髪の毛がヘビですわよ。恐ろしい。光る君、振り向いてはいけませんわ。いけませんわよ! 振り向いたら……、いいえ、想像するのはやめにいたしましょう。
あら? 皆さまおりんごお召し上がりになりませんの? いやですわ、いたってフツウのおりんごですのよ? 光る君も召し上がるかしら?
風に乗り漂ってくるのは胡蝶蘭の香り、でございましょうか。まるで光る君を包み込むようにその香りは纏わりついてくるようでございます。むせかえるほどの香りでございます。恋の香り? それとも……もはや恋ではない情念や怨念を焚きしめた匂いなのでしょうか。
そうして六子さまの芳しい呪術にかかったかの君は焦点が定まらぬままあのおことばを呟かれます。
死ぬほど六子に恋してる
♬BGM
オペラ「魔王」 シューベルト
feels like Heaven(映画「リング」のテーマより)
✨『げんこいっ!』トピックス
女子をときめかせる胸キュンシチュエーション
④月が綺麗&死んでもいいわ
☆次回予告
プリンセスを目覚めさせるのはやっぱり王子様のキス?
(きっと素敵なダーリンが現れてくださるわ)