恋の終わりと、始まり 9
「後任がこんなんで、ごめんなさいね。
私、アキラ先生のこと甘やかすのやめますから。
これからはちゃんと編集室へ来てくださいね」
「嫌よ。だいたい、ここへ来たらアタシの手料理が食べられるんだから、いいじゃないの」
「……っ」
完敗……。言葉が出ない。
そうなんだ。アキラ先生はお料理上手。
味、盛り付け。全て完璧。
下手なお店で食べるよりずっと美味しいんだ。
ここへ来るときは常にお昼の時間帯。二人分用意してくれてるから、当然のように食べてる私はちゃっかり者。週に最低でも3回は来てるから、その分ランチ代が浮いてる計算になる。
「ですね。私は幸せものでした。
しょうがないです。今まで通り、打ち合わせは先生のお部屋ってことにしてください」
会社からここまでの往復で貴重な時間は取られるけれど、美味しいご飯は譲れない。
確実に胃袋掴まれてるな……、私。
「今日は随分物分りがいいのね」
「いつも素直ですけどね」
「あら、そうだったかしら?」
顎に人差し指を付けて、首を少し傾けたオネエは再び歩き始める。エレベーターへ向かって。
やっぱり出かけなきゃいけないの?
戻って仕事する気はないの?
またしても置いてけぼり。
「先生ー。私、勤務時間中なんですけど」
「だから?」
長い足は止まることを知らないようだ。
首だけ振り返ったアキラ先生はイライラが顔に出てる。
あーあ。かっこいい顔が台無しだよ?
「遊んでるのがバレたら編集長に叱られちゃいます」
「そんなの適当に誤魔化しなさいよ!
AKIRAの取材に付き合ってたとか。なんとでも言えるでしょ」
ダメだこりゃ……。
私の立場で漫画家先生に逆らえる筈はなく。
結果……。
半ば強引にアキラ先生の車の助手席に乗せられて。
車に揺られて10分ほど。
「えっ? ここですか?」
ほらね。やっぱり嫌な予感的中。
車は携帯ショップの前で停車したのであった。