恋の終わりと、始まり 7
「せ……先生っ、ジャージは?」
トレードマークの赤いジャージから、白シャツと黒パンツに着替えた目の前の八頭身を見上げ、開いた口が塞がらない。
こうしてマジマジと見ると、長身で痩せてる先生はモデルさながらだ。
いいよ、いいよ、凄くいい。かっこいい〜。
正面の無駄に長い足へ目が釘付け。少し目線を上げれば。
よしっ! やっぱり胸は無いのね。
ジャージだとよくわからなかったんだ。当然、触ったことなんてなかったし。ぺったんこの胸元にどこかホッとした。
きっと下半身も工事してないに違いない。
オネエだけど、世の中から美しい男性が一人でも減るのは、なんだか切ないもんね。こうして見違えるほどの変身ぶりに、不覚にも見惚れてしまった。
「出かけるから着替えたのよ。
なによ? 悪い?」
そんな見上げる私を冷ややかな瞳が見下ろしてくる。
「馬子にも衣装」
「なんですって!!
アナタ意味わかってそれ言ってるの?」
「ええ、もちろん。
だって、だっさいジャージ姿しか見たことなかったから。
先生でもそういう格好するんですね」
そう、私はこれまでアキラ先生の私服を一度も見たことがなかったんだ。
いや、ジャージも私服か?
赤ジャージは先生にとって制服みたいなもので……。いつ来てもジャージ。しかも赤限定。
何着持ってるの? ってぐらい、あらゆるメーカーの赤ジャージを着こなすアキラ先生を、私は5年間も見てきたのだ。
「お黙り、小娘」
「いっ……痛っっ」
口答えしようものなら迷わず飛んでくるデコピンに、おでこを抑えながら顔をしかめる。けれど痛さのせいで、脳が正気に戻った。
「出かけるなんて駄目です。
書いてくれなきゃ間に合わなくなります」
「下間ちゃん……」
「はい。何ですか?」
「アタシが、休載したことはある?」
「ないです」
「締切に間に合わなかったことは?」
「それもないです」
「ってことで」
突然、手首を掴まれて。
「うわっっ」
ぐいっと引っ張られた衝撃で、持っていたスマホが床へ落下した。
私のスマホを拾い上げ。
「早く行くわよ」
迷いなくシャツの胸ポケットにそれを収めて、力強く私の腕を引っ張りながら、アキラ先生は妖艶に微笑む。
「ちょっ……、行くってどこへ?
それに、私のスマホ!」
「決まってんじゃない。
女子会よ! 女子会〜!!」
妙にテンションMAXなアキラ先生は。
「これは、人質として預かっておくわ」
胸ポケットへ手を当てて、ニヤリと笑いながら続く言葉を吐き出したのだった。