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恋の終わりと、始まり 4

*  *  *



「ぷっ、ふふっ、何それー!

最中の声、外に聞かせたってこと?」


「ツッコむとこ、そこですか?

もぉ、笑い話じゃないんですからね」


「で? 現場に乗り込みもしないで逃げちゃったの?」


「……はい」



──次の日。



 壁一面、大量の漫画。

 インクの匂いが漂う高級マンションの一室で。


 笑い転げてるイケメンを目の前にして、私は昨日の出来事を事細かに話していた。


「下間ちゃん。ホント……、バカなの?」


 高身長、高学歴。

 今やコミック売上冊数C-ielナンバーワン。

 アニメにゲームに映画化にグッズ販売と、超のつく売れっ子漫画家。


「バカってどういう意味ですか」


「あ〜ぁ……。乗り込めば修羅場だったのに」


 透き通るような白い肌にはシミもそばかすも無くて。

 眼鏡の奥の瞳と少し長めのサラサラの髪は、日焼けしてない肌と対比をなしているような漆黒色。

 すっと通った高い鼻に色気のある薄い唇。

 ペンを握る細長い指先。


 美しく、誰もが振り返る美貌の持ち主。


 つまり、完璧。


「修羅場って……。それよりアキラ先生?

さっきから何か書いてるのが気になるんですけど」


 ペンネームAKIRAことアキラ先生。

 本名、田中史郎(タナカ シロウ)

 全くもって顔に似合わず普通の、いや、地味なお名前。ペンネームも首を傾けたくなるセンスのなさ。


 ニヤニヤしながらペンを動かしてるこの人は、私が担当してる漫画家先生だ。


 けれどその正体は……。


「何って決まってるじゃないの!

ネタよ、ネタ。次の漫画に取り入れるわ。

 玄関開けっぱでとんずらするなんて、下間ちゃんもやるわよね〜。

 こんなに面白い話は、アタシが世に出さなくっちゃ」


 ナント……、オネエなのだ!!


 キャッキャ言いながら妄想中のオネエをじとっと見つめる。


 見た目は美男。心は乙女。


 置物としてなら、これほどまでに完璧な容姿の人はいないだろう。


 黙ってれば、かっこいいのに……。


 喋ると残念なアキラ先生の担当になったのは5年前。

 入社後すぐに配属になった、男性向けファッション雑誌の営業部から少女漫画編集部へ移動になって。

 編集長から「C-iel担当」と言われたあの日は、歓喜で胸が震えた。


 編集者という大役を任されて、担当として就くことになったのが、このアキラ先生ともう一人。吉良(キラ) 咲子(サキコ)先生という私と同い年の女性。


 その後、アキラ先生の漫画がトップを取ったと同時に、私は専属として担当することになったのだけれど。


 実は手のかかるアキラ先生よりも、真面目な吉良先生の担当に就きたかったのが本音。


 アキラ先生だって売れっ子になったんだから、ベテランの担当者が専属で就けばいいと思ったし。


 でも、ま、どんな酷い拷問を受けたとしても、このことは絶対に言えないけどね。


 そんなこんなで気付けば5年もここに通ってる。


 今じゃもうアキラ先生の扱いには慣れたし、軽くあしらう術も身につけた。慣れとは恐ろしいもので、歳が1つ上のアキラ先生のことは姉のように慕ってる自分がいるから不思議だ。


「で? 早く続きを教えなさいよ」


 仕事の愚痴も、こうしてプライベートの愚痴も。

 アキラ先生にはペラペラと喋ってしまう。


 聞き上手というか……。

 引き出し上手というか……。

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