恋の終わりと、始まり 16
後ろを振り返れば、淡々と言葉を紡いだアキラ先生の視線はまだノートのまま。その手は休みなく動いている。
固く口を引き結んで、眉間にシワなんて寄せて。そんな蓮を見る限り図星なのだろう。そのまま蓮は下を向いてしまった。
そういうことだったのか……。
ぴゅうっと冷たい風が通り過ぎた。
「できた」
感傷に浸る間もなく。駆け寄ってきたアキラ先生が私と蓮の間に立った。そして、開いたノートを蓮へ押し付けた。
「どうだ? かっこよく書いてやったんだから感謝しろよ」
「アンタいったい何者?」
背伸びしてノートを覗き込んだ。
やっぱり……。
書かれていたのは漫画。男女が別れ話をしているシーン。
わお! ご丁寧に台詞までしっかり書いてある。
「ボツ」
ノートを奪い取った。
「相変わらずキビシイ」
肩を竦めたアキラ先生を軽く睨みつけた。
どこがかっこよく書いてあるんだ。
ゴリラみたいなブサイクな男が、鼻の穴を広げたブタみたいな女の子と言い合いしてて。つまり、私もブサイク。
その後ろでキラッキラの王子系キャラが "見苦しいな" なんて台詞を吐いている。
自分だけかっこよく書きやがって。
「蓮、この人はAKIRA。知ってるでしょ?」
「AKIRAって、あの?」
「そう。私の担当してる漫画家先生。浮気相手じゃないから。これ以上醜態晒してると私達のこと漫画にされるわよ」
「えっ? えっ?」
私が握りつぶすから、そんなことにはならないけどね。ということは秘密にしておこう。
「もうここには二度と来ないで。サヨナラ」
蓮の思惑がハッキリわかった以上、こうしているのは時間の無駄だ。
心の動揺が顔に現れている。そんな蓮が「ごめん……」そう言いながら私へ背を向けた。
蓮の影がアパートの前から遠ざかる。
これで最後だ。バイバイ、蓮。
何だかなー。呆気ない。
彼の後ろ姿が夜の闇の中へ消えていく。
これまでの8年間を思い出しながら、私はしっかりと蓮の背中を見つめ続けた。




