恋の終わりと、始まり 11
* * *
時刻はPM8時過ぎ。
いつもだったら、まだバリバリ仕事中の時間帯。8時だろうが深夜だろうが、夜の景色は同じはずなのに。
「今日はありがとうございました」
時間が早いというだけで明るく見えるのは目の錯覚か、それとも……。
「今日は楽しかったわね」
「はいっ。ではまた、近いうちに原稿取りに伺いますからね」
楽しかった気持がそう感じさせているのか……。
まだ早いし、もう一軒どこかへ行きたかったな。そんな気持ちに蓋をして。
送ってもらった私のアパートの前で、車から降りた。
最後のお店ではご馳走になったんだから "お茶でもどうですか" と声をかけるべきところだろう。そう言えないのは、部屋が足の踏み場もないぐらい散らかってるから。
忙しすぎて片付けができないの。
そんな言い訳を音に出さず、車から一歩離れて運転席へ向って手を振る。
すると、バタン。とドアが閉まる音がして。
「待って。部屋まで送るわ」
アキラ先生が車から降りてきて、私の隣に立った。
「何で?無理です」
見上げる私の瞳は拒絶の色。
あんな部屋、見られたら引かれるわー。いや、編集部より汚いからアキラ先生なら、速攻逃げ出すかも。
「ん? 大丈夫よ。下間ちゃんの部屋には入らないから」
いやいや、そういう問題じゃなくて。
間合いを詰めながら「何号室?」と近づいてくるアキラ先生の顔には意地悪な笑み。一歩、詰められる度に、私の足は一歩、後ろへ下がる。
ちょっと何? 何なのー?
そんなことを繰り返すと、当然後ろ側は逃げ場がなくなるわけで。
アパートの壁の冷たさが背中へ当たった。
「あのー。アキラ先生?」
壁に凭れながら、いつもと違う雰囲気の先生を見上げれば。
トンと私の顔の横に着けられた先生の両腕に閉じ込められた。
こっ、これは……。
初めて体験する壁ドンとやらに、自分の意志とは無関係のところで心臓がドキッと跳ね上がった。
「だからー。何号室かって聞いてるのよ」
至近距離にある意地悪そうな口元から発せられる言葉にハッとした。
そうだ。この人はオネエなんだ。
バカ、バカ。私のバカ〜。
ドキドキして損した。
脳内を軽くリセットして、外の冷たい空気を少し吸った。答えないと逃してもらえないこの状況。渋々口を開く。
「2階の20……」
部屋の番号は201。そう答えようとした瞬間。
静寂の中、規則正しくアスファルトを踏みしめる靴音に、意識を持ってかれた。
先生の腕の隙間から足音のするほうへ視線を向ける。
「……蓮」
見るとこちらへ向かって、肩を上下させながら蓮が走ってくる姿を遠くに捉えた。




