恋の終わりと、始まり 10
* * *
「その仏頂面。いい加減どうにかしなさいよ」
「はぁ?? 誰のせいだと思ってるんですか」
パスタを器用にクルクルとフォークに絡める姿さえも。サマになってる、目の前のオネエを睨みつける。
「誰って、悪いのは元カレでしょ?」
元カレって。まだ別れてないけどね。
「だからって、私のスマホを勝手に解約して新しくする必要ありますか?」
携帯ショップに、ネイルサロン。少しショッピングもしたな。
そして、女子会は現在、お洒落なイタリアンに場所を移している。
これが女子会なんだかどうなのか。はっきり言って不明だし、もはやどうでもいい。
「だってブルブルうるさかったんだもの。おかげで乳首勃っちゃったわよ」
「いきなり下ネタぶっ込まないでくださいね。セクハラで訴えますよ?」
「あらやだ、下間ちゃんったら。
アタシはオネエだからセクハラにはならないわよ」
チッチッと揺れる人差し指。ネイビーに雪の結晶をあしらった塗りたてのそれに、私の目が寄っていった。
神様はあまりにも不公平すぎる。
私はもともと女で、アキラ先生は男。のはず。
先生の細くて綺麗な指先は、私には眩しすぎる。おまけに手がすべすべで綺麗だ。
女性っぽい仕草や全身からダダ漏れの女子力なんて敵いっこない。
「はぁー。先生といると私、惨め……」
同じ色。同じデザインの自分の指先と見比べて、切ない溜息が零れた。
「何言ってるのよ。早く食べないと冷めるわよ」
笑顔さえも眩しい先生の顔をおかずに、フォークに絡めたパスタを口へ運んだ。
「わっ。これ美味しい」
「フフ。やっと笑顔になったわね」
「え?」
そういえば、昨日のことがあってから笑ってなかったかも。
さっきも、この店へ入る前に。
直帰すると会社へ連絡を入れたら、問答無用で編集長から怒鳴られたんだ。
アキラ先生が電話を代わってくれて、丸く収まったのだけども。
不幸を一手に背負い込んでる気になってた。
まるで悲劇のヒロインのように。
「アンタ、そうやって笑ってなさい。ちょっとはブスがマシに見えるから」
「はいはい。そうですね」
アキラ先生の辛口に笑顔で返す。
強引に女子会をしてくれたのは、先生の優しさであり、私のことを気遣ってくれてのことだと再確認。
ちょっと強引で、不器用な優しさだけどね。
「そうだわ。新しい番号教えてもらえるかしら」
真新しいスマホの電源を入れた。
アドレス帳から "AKIRA先生" を検索してワン切りした。
「あんまり連絡してこないでくださいね。ウザいから」
少なくともこの時──。
「ホント、生意気な担当だわ。違う子とチェンジしてもらおうかしら」
「えー。やだぁ〜」
蓮のことは、完全に私の頭の中から抜け落ちていた。




