恋の終わりと、始まり 1
この歳まで生きてると。
辛いことの一つや二つは少なからず経験済み。
だけど、流石にこれはダメージがありすぎる。
下間凪沙。
某大手出版社勤務。
月刊少女漫画C-ielの編集部所属。
崖っぷちの29歳。
本日、付き合ってた彼氏に浮気されました!!
* * *
『あん……っ……蓮。もっと……』
一瞬。
部屋を間違えたのかと思って、慌てて玄関を出てドアを閉めた。外側のドアノブ近くに付いてる傷も、右上に付いてる301のプレートも。
「合ってる」
間違えるはずがない。
だって、私が手に持ってる合鍵はこの玄関のドアしか開かないはずなんだから。
で? さっき聞こえてきた女の声は一体、何?
もう一度、そっと玄関のドアを開けた。
『蓮……あぁ……レ……ンっっ』
『もっと、声出せよ! ほら!』
蓮とは、この部屋に住んでる人だ。ちなみに、私の彼氏のはずだ。もう少し言えば、私はこの時間に来てくれと蓮から呼び出されて、今ここに立ってるわけで。
「何なの、これ?」
この部屋の間取りは1DK。
ここにいて声が聞こえるということは、ドアを一枚隔てたすぐそこで、男女が絡み合ってることは容易に想像できる。
プロレスごっこ、あるいはマッマサージ中。なんて雰囲気の声とは違うそれに首を傾けた。
『蓮ーっ。も……ぅ……イき……そっ』
はい、決定ー!!
どうやら私はとてもわかりやすい、別れの言葉をこの部屋の住人に突きつけられたようだ。