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俺の周りに天使の輪  作者: 立川好哉
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第87話 聖剣プライマルハーツ

 東京都星乃ヶ丘区のマンションの8階のとある部屋。賢と渚はそこまで辿り着き、賢が最も使い慣れた刀剣である霧姫を探していた。間違いなく自室にあると思っていたが、そこにあったのは霧姫ではなく別の剣だった。夢世界でなければそれは『異質』とされ、もしかしたら忌むべきもののように思われそうなくらい禍々しい見た目をしている。赤や緑、紫が混沌と混じり合っているのは、小学生が好きな色をパレットで混ぜたらできた色を思い出させる。

「なんだこの剣...」

 やはり賢たちも触れるのを遠慮している。これに与してもらうのはなんだか嫌だったので第二桐矢家に行って霞の悦楽腕か紬の狂眼のどちらかを頼ることに決めた。渚はあっさりと寝床で自分の武器を見つけたが、隣の紬の布団に狂眼はなく、別室の霞の布団にも悦楽腕はなかった。賢は仮説を立てた。この世界に入り込めるのは賢と渚の二人。渚は武器を持っていたのでこの世界にもあるが、賢は自前の武器を持っていない。そのため最も記憶に濃い霧姫が賢の武器として選択されたが、他にも賢が知っている悦楽腕と狂眼が霧姫に取り込まれ、この世界での賢専用の武器として姿を変えたのではないだろうか。それが正しいのだとすれば、この剣は賢のためにあり、彼にえらく馴染むはずだ。彼が恐る恐る剣をとると、渚のものではない声が聞こえてきた。


『おにいちゃん!あおいだよ!』

「葵!?」

『あおいたちはこの世界に入れないから、代わりに武器が力を貸すよ!』

『私の悦楽腕』

『わたしの狂眼の力が霧姫に宿り、かつてない力を帯びている。これを使えば真実に辿り着けるはず』

 

 三人が賢に呼びかける。彼の声は彼女らに届かないが、そんなことはどうでもよかった。賢は剣を鞘に納め、巨兵を動かして浜辺に戻った。

「これで公園を突破できる」

「ええ、行きましょう」

 圧倒的戦闘力を得た二人は再び蜂と対峙し、剣の力をもって瞬殺した。公園からは四方に次のエリアへと続く道があったが、賢は迷わず浜辺とは反対の出口を抜けた。そこには中学校があった。

 確かに思い入れの深い場所だ。ここで漫画同好会に入って賢は目標に近づいた。今は仲間の姿を見ることができないが、思念はこの部屋のあらゆる場所に宿っているように感じる。

「ここが賢さんの部室っすか。会議室みたいっすね」

「渚は初めてだったな。そうだ。俺はいつもここで漫画を描いたり仲間に見せたり、仲間のを読んだりしている」

「じじいが賢さんに人生の助言をしたということは、賢さんの人生に大きく関与しているこの場所にはじじいに関するヒントがありそうっすね」

 渚は紬ほどしっかりしているようには見えないが、洞察力は群を抜いている。敏くあらゆることを感知し、別のものとの関係を考察するのが得意だ。彼女の考えは正しく、その証拠に賢がいつも使っているパソコンが勝手に起動した。

 

 『参照するページを選択

  ・剣について

  ・敵について

  ・じじいについて』


 賢はひとつひとつを閲覧した。

剣の名前は『プライマルハーツ』、賢が序列をつけられない大切な家族が彼に寄せる信頼や感情を結集したものであり、ゆえに『いちばんの心たち』の名がついている。

 敵は賢の推定通り、彼が今まで恐怖の対象としていた存在である。これが正しいと判明した今、二人を阻む敵はさほど多くないとわかった。賢は生命を持つものをあまり苦手としておらず、自然現象や面倒事を怖がることの方が多い。プライマルハーツを得たのは、蜂を倒すためだけのイベントかもしれない。

 そしてじじい。じじいは現実に存在しない夢世界だけの人物であるため、夢世界にしか登場しない場所にいる。ただ先述の通り夢は現実で起きたことに由来して構成される部分が大半であるため、その場所を見つけ出すのは難しいと思われる。


「動くしかないよ」

「そうっすね。記憶にないものを見たら詳しく調べましょう」

 

 長い旅になると思っていた二人だが、じじいの居場所を突き止めるのにはまったく苦労しなかった。その理由は、部室でじじいの情報を知ったことで夢世界におけるじじいのウエイト(占有率)が上がり、じじいエリアが広がったからである。学校を出た二人の前には、天高く聳える巨塔があった。

 

 ここが最終決戦の地。

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