第73話 祭典
賢と大勢の女の子たちは埼玉は所沢のプール施設に来ていた。今日も相変わらずの暑さで、マンションを一歩出たときから戻ろうと思うくらいだったのをこの先の極楽のために堪えて来たのだが、来て正解だったと言わずにはいられなくなる光景が広がっていた。
「ほどよく空いてて、レンタルもできて、ちょっとしたメシも食える!最高だな!」
「ちょっと賢!走ると危ないよ!」
お姉さんを自覚する遥がはしゃぐ賢を止めようとしたが、その脇を葵が駆け抜け、もう手に負えなくなった。バイト戦士や4姉妹も広がる青に心躍らせていて、賢より先に”地獄のシャワー”を抜けてプールに浸かった。
「...今更なんだけど、泳げない人いる?」
賢の問いに対して手を挙げたのは3人。葵、紬、光だ。光については賢と触れ合うために嘘をついている可能性がある。しかし彼女の思惑は外れることになる。
「俺も泳げないんだよね、ハハ」
「すぐる、泳げないのかよ!」
やはり光は賢に泳ぎを教えてもらうことを計画していた。どうしてもこの機会を利用して賢とコミュニケーションをとりたい光は嘘だということを告白し、この中で一番上手に泳げると言い始めた。
「いいや、私のほうが上手い」
「スピードなら負けない」
「なんだ、勝負かな?じゃあ私もやるねー!」
賢に泳ぎを教えたい光に対抗して遥と霞が名乗りをあげ、勝負をしたいだけの翠が加わって25メートルの勝負が行われることになった。深いプールで大会の練習をするような”ガチ勢”はいないが、授業で泳がなければならないため練習として使っている小中高生がいるため、小屋にいる職員のところで手続きをしてから使う。同時に4レーンを借りて競争をすると知った子供たちがプールサイドに集って競技者に歓声を浴びせた。
「じゃあ勝った人が俺に泳ぎを教えるってことで。ただ機会はこれ1回じゃないよ...30分後に第2回戦をやることにする!」
負けてもチャンスがあることに4人が歓喜し、レースが2回もあることに観客が歓喜した。2回とも勝てば賢とずっと触れ合えるので、各々は準備体操をしながら互いを威嚇するように見つめている。
「よし、位置について...GO!」
一斉に水に飛び込み、水しぶきをあげて美少女が泳いでいる。それが自分のためだということが賢の興奮を増大させたのだが...
「おっっっそ!」
本当に水泳が得意なのか疑うくらいに泳ぐのが遅く、その場で溺れないようにもがいていると錯覚するほどに進んでいない。観客たちからも驚きや失望の声が聞こえてくる。賢の隣でレースを見ている葵が苦笑して呟いた。
「あはは...みんな嘘をついてたんだね。あれならあおいのほうが泳げるよ」
「ってかマジで溺れてない?」
賢は15メートルくらいのところで明らかに泳ぐフォームとは違う動きをしている遥を見つけてプールに飛び込んだ。ちなみに光は背泳ぎに、霞は潜水に切り替え、真剣にクロールのフォームを実践している翠はなぜか後ろに進んでいる。
「遥!」
「げほっ、こほっ」
賢が本当に溺れているか判断することなく遥を強引に抱え、顔が完全に水面より上に出るように持ち上げた。両手で後ろから抱えているので、互いに互いの顔が見えない。
「泳げねーなら言えよ。深いんだから下手が泳ぐと危ないんだよ」
「だってぇ...」
賢は遥をプールサイドに座らせ、背中に手を置いたまま強い口調で言った。
「だってじゃないって。本当に危ないから」
「うん...」
遥の主張を賢は察していたが、遥がそれ以上言わなかったので正しかったか確かめられなかった。泣きそうになっている遥を優しい言葉でフォローして飲み物を奢って休憩させていると、無駄に長いレースが終わっていた。
結局レースに勝ったのは霞で、賢は彼女のちょっとエッチな指導を受けることになった。




