第6話 ヘンタイと信頼
今回も軽微な性的描写があります。苦手な方はこれをスキップしてください。
その日のうちに賢はあることに気が付いた。遥は元から賢の家で過ごすことにはなっていなかったため、手ぶらで彼の家を訪問した。故に現在彼女は賢のTシャツと半ズボンと靴下を着用しているのだが、その下には何がある?自分の中で出した答え。
「遥…もしかして今、『はいてない』状態?」
「なにそれ?」
「下着…パンツを穿いてない状態のことだよ。替えを持ってきてたっけ?」
賢の問いの奥に下心ではない別の心を見た遥は素直に答えた。
「そうよ。だからこれから買いに行こうと思っていたところよ」
下着もスーパーマーケットに売っているが、極めてシンプルなデザインのものしか売っていない。長期的な使用を見込むなら、自分好みのかわいいデザインのものを買いたい。
「買いに行くって言っても、こっちの金は持ってないんでしょ?」
「あんたに頼んでお金を貰おうと思っていたわ」
賢は素直に金を渡す気にはなれなかった。彼女が一人で買い物に行くことに、いくつかの不安が纏っているからだ。不測の事態に対応するために、自分も同行する必要がある。それを言うと遥は嫌な顔をするだろうから、自分から言いたくない。
「三千円あれば足りると思うわ」
彼女にお供するのは賢ではなく金だということだ。仕方がないので先程思っていたことを言うと、遥はあらゆる可能性を想像したのか、彼の提案を聞き入れた。
女ものの下着コーナーに入ったことのない賢は目のやり場に困ると口では言いながらも、その実視線をあらゆる方向へ向け、細部までは見ないにしても様々な形、色の下着を見た。苦言を呈した遥に対しては『創作の助けになる』と都合の良いことを言って、できるだけ彼女の近くでうろついた。幼馴染とは言え下着を一緒に買いに行くなど夢想したことのない遥は頬を少し赤く染めつつ、じっくりと厳選する余裕もなく一目見て好きだと思ったものを二、三着買い物かごに入れた。専門店ではないこの店は頻繁にワゴンセールを開催しており、売れ残った商品が安く売られているため、予め宣言しておいた三千円に収めても多くを買うことができた。
「下着の色までは学校は指定しないよね?」
体操服が透けて下着が見えたときに目立たないようにするという目的で下着の色を白にするよう指定している学校が少数あるが、賢の通う学校にそのようなルールはない。その情報に安堵したのはかごの中を見ればわかるが、彼女がその時の気分に合わせて好きな色の下着を着たいという願いを持っているからだ。
「但し靴下は白で、くるぶし丈と膝上はNGだってよ」
「それは休日用と別に買わないと」
見た目が男だからここにいることに違和感を抱くのであって、言葉は女のものと思えるくらい親切なものだと遥は思い、賢が下心からここに留まっていると決めつけたことを反省した。
「賢…ありがと」
「お…おう。満足できる買い物ができたようでよかった。そうだ、いちいち俺に金を貰うのは気が引けるだろうから、帰ったら渡すね。財布は新しいのを買うまでは俺が前に使ってたやつを使ってくれ」
遥が自室の箪笥に買ったものをしまうと、賢が財布の中に札を数枚入れて渡した。
「こんなに貰っていいの?」
「いいよ。もともと過剰なくらい貰ってるから。それに、制服代以上の額を送ってくれたみたいだ」
それは息子への期待の大きさということだろう。思えば二人が賢をここに残して遠くへ行くのを躊躇っていたのは、彼がまだ若く、一人でも問題なく事を進められると信じられていなかったからだ。言葉で押し込めて両親を送り出した賢は、二人の心配に及ばないことを証明した。それが結果として遥の助けとなった。
「ねぇ、賢」
「ん?」
「私は賢の漫画を読みたい。その中で『はるか』がどんなことをして、他のキャラがどんな反応をしても、この私は必ずその通りにはなるとは限らない。私はいつも私の意思で動いてる。だから…描いて。『はるか』と周りの人の物語を」
「…わかった」
賢はペンをとった。すると指先から彼の心に言葉の束が伝わった。それは、仲間の絶賛の声であり、作品の感謝の声であり、道具の激励の声であった。




