第63話 経営破綻
「多すぎるわぁ!」
朝食は全員で、霞たちのアパートでとるのが決まりだ。11人がテーブルを囲む光景は、大家族を特集した番組でも滅多に見られない。椅子を桐矢家から持ってきても足りないので葵が霞の膝の上に、光が賢の膝の上、渚が紬の膝の上に座ってどうにか対処したが、座られる側のほうは料理を食べづらいことこの上ない。
「椅子くらいならすぐに用意できるからいいんだ。ただお金はもう払ってもらえない。もとから新人には働いてもらうことにしてるし、住む場所も新しく契約する。4人は天界で縁があったんだから一緒にいれば大丈夫でしょ?」
「ん、問題ない」
多少は柔らかくなったが、紫髪の反応は賢の期待するものからは遠かった。
「ところで君たち、名前は?」
いちいち台詞にするのが面倒なのでここでまとめる。
最初に賢に話しかけた紫髪が薊。オレンジ髪のサイドテールちゃんが希。無口なのが棗、ギンギンを見抜いたのが翠。彼女らを4姉妹として同じ場所に住まわせる賢の考えは誰もが同意するものであり、賢は苦笑しつつも手続きを始めた。
「ごめんね、俺の経済力が0なせいで...」
「仕方ないっす。でも股間蹴らせて欲しいっす。わたしが金を貰ってる理由が股間蹴ったことなら、逆もありっすよね」
賢は股間を蹴られてしばらく悶絶して転がった。金を借りることになってしまったのは賢の責任であり、それを彼だけが負うことを許されたのは幸いなことだ。賢には4姉妹の新居契約のための初期費用を負担しきれず、一部は働いて貯金を持っている霞たち3人が払った。仲間の協力あって新居の契約は滞りなく完了したが、賢たちはまだ安心できない状況にいた。
「世間知らずが4人一斉に同じところに応募して受かるものかね...?」
別々に働かせてでも収入を得なければならないが、その場合賢の役が多くなる。中学生である彼が抱えきれる量ではない。
「杞憂に終わるといいっすけどね。まあこの時期に賢さんのところに送られるくらいっすから有能なのは間違いないっす」
「4人行動であれだけ連携がとれてるってことは普段から一緒に行動してたってことだと思うんだよね。君たち2人みたいにさ」
「戦闘の様子を見ていないから『はい』も『いいえ』も言えないけど、賢は仲良しを利用して部屋数をケチろうとしてるんでしょ?わたしたちのときみたいに」
リビングが広ければそこに4人が場所を持つので部屋が必要ない。部屋数は家賃に影響するので、払う側の賢としては希望が通ったほうがいい。
「いちおう4LDKになった時のことも考えてはいるけど...はぁ、どこにも金はねーっての。親を素寒貧で明日を生きるために稼ぐような状態にはしたくないし、その前に断られるだろうし...でも天使のことは俺が全責任を負ってるからどうにかしなくちゃだし...」
賢がぶつぶつと独りで愚痴を言うので渚が悪魔の笑顔で賢に語りかけた。
「この前電柱に『20歳以下の男子大歓迎!高給アルバイト!セレブ女性のお手伝い』って貼紙を見つけたんすけど、どうっすか?」
「それヤバいやつじゃないの...?『お手伝い』の内容によっては俺の心身の健康に悪影響なんだけど」
「冗談っすよ。賢さんは好きなことして稼げばいいっす。漫画、ファイトっす」
からかいの中に励ましがあったので賢は少し硬直してから渚に感謝した。彼女には紬という運命の相手がいるので賢に特別な好意を持っているわけではないが、一団の長である彼のことはしっかり尊重していた。
「渚ちゃんのそういうところ、好きよ」
「わたしはつむぎちゃんの全部が好きっすよ~。ほら、ぎゅーしましょ?」
2人が抱き合ったのは賢がいなくなってからだったので彼の漫画の参考になることはなかった。これは惜しむべきことである。




