第62話 史上最悪で史上最強
賢はひどい裏切りに遭った。迷子になって困っていた少女を助けていたところを襲われ、身体に傷はつかなかったものの服は鋭い何かによって破かれた。この少女も天使で、賢の新たな家族候補だ。濃い紫色の髪の人はまだ家族にいない。
「素直に近づかなくなったんだね」
「当たり前だ。正攻法で難しい相手には不意打ちが有効だ」
「それなら誘惑して俺をその気にさせて襲うって方法が一番有効だよ。いまさらやったところで備えてるけど。ところで俺と戦った女子は漏れなく寝返ってるけど、大丈夫?
「天界への忠誠は揺るがない。お前に負けることは考えていない」
「よし、そういう強気な子も俺は好きだ。できるだけ血を流さずに終わらせよう」
賢が甘かったのは、敵がこの娘1人だと思っていたことだ。合図なくして背後から急襲した新たな天使は3人。彼を数的不利にすることは正しい攻略法と言える。賢は感心した。
「ちゃんと考えてるね。でも俺にとっては増える家族の数が増えただけだ」
「大した自信だね。今まで多くの天使を倒しているからって、今日も勝てると思っちゃダメだよ?」
勝気な表情のショートカットの少女が笑う。その隣には無口な長髪の少女、さらにその隣にはサイドテールのオレンジ髪の細身な少女がいる。そろそろ特徴が被りそうだが、家族にして付き合えば違いが分かるだろう。賢は勝ち負けの先のことばかり考えていた。
「死なない限り俺は負けない。君たちも死なない限り俺を殺す機会を持ってる。でも俺は君たちを殺さない。ってことで有利だとは思うけど...」
賢は拳を握って前に突き出した。
「戦力で勝ってると思ってるなら大間違いだ。俺は女の子4人に囲まれてやられるほど萎え萎えシナシナ野郎じゃない」
「ギンギンってことかな?ヘンタイさんめ、殺してやる」
「へっ、わかってるじゃん!」
変態の返しをされたことを喜んだ賢がさらにやる気を起こして動き出した。賢は数多くの女性を相手にし、女性特有の弱点を知り尽くしている。戦闘とは生死を賭けるものであり、どんな手段を使ってでも勝つのが彼のやり方だ。今は勝った後の賠償は考えない。賢は戦闘モードに切り替わったのだ。
「速い...」
心臓を狙う賢の手を回避した紫髪が背後に回り込もうとすると賢はそれに気づいて身体の向きを変え、他の3人の攻撃にも備えた。常に4人の中心にいることで攻撃を躱せば味方に当たるように立ち回る。人間離れした回避能力によって天使たちの攻撃は一発も当たらず、味方に当たることを恐れて攻撃が控えめになる。賢は戦闘がパターン化したのを確かめ、下衆な反撃に出た。
「許してね!」
左右にいる天使の胸をわしづかみにして少しだけ揉み、赤面したかどうかを見る間もなく後ろの天使の股間に踵を当てて少しだけ擦り、すかさず前方の天使の両手を封じて胸に飛び込むように抱きしめる。次の瞬間には回転して抱いた天使を盾にして攻撃を防ぐと、拘束を解除して距離をとる。賢は剣を持っていなくても女子相手ならとてつもなく強い。戦いのときには普段の生活で許されないことでも許されるため、それを利用して好き勝手するのだ。賢は女子の柔らかさや悲鳴を楽しみさらにやる気を増大させ、尋常でない速度で4人をまとめて薙ぎ倒した。ドミノのように連続して地面に叩きつけられた天使から武器を奪って構える。賢が倒れている相手の首元に武器を突きつけるのは勝利宣言の代わりだ。そして必ず相手は降伏宣言をする。
「なにこの人、めちゃくちゃ強いし」
「めちゃくちゃ変態プレイ」
「遠慮ってものはないの?」
「.........最低」
「いやぁ、ごめんね。これが俺流の戦いなんで。『嫌なら俺を襲うな』と言うしかないや」
戦闘時間は短く、家で待つ遥たちが心配するほど買い物は長くなかったのだが、4人をしばらく住まわせるためには食料が足りないので買い足したところ、彼を心配するメッセージが携帯電話に届いた。
「へっ、まさか一気に4人も増えるとは思っていないだろうな...『桐矢荘』、早くどうにかしてオープンしないといかんなぁ...」
ヘラヘラと笑っている変態に冷ややかな目を向ける4人だが、使命を失って天界に背くことへの悔いや屈辱は一切感じさせなかった。この男には負けるべくして負けたのだと誰もが納得していたからだ。
そろそろ寝返らせた人の数カウンターを置くべきだろうか。これで10人だ。




