第58話 特別な場所
賢にとってトイレとは、最高クラスに大切な場所である。賢は人間なので摂取すれば排泄をする。家にいるときでも、学校にいるときでも、それ以外の場所にいるときでも必要になるときが訪れる。だからトイレは綺麗でなければならない。進んで汚すなど言語道断、使用後は軽く清掃をして去るべきだ。
(だから不良の溜まり場じゃダメなんだ...!)
賢が入っている個室の前では後から入ってきた不良グループが談笑している。教師の目から隠れるためにここに集まっているが、ここは排泄の場であり、長く留まって談笑するには相応しくない。でもなぜか不良はここに集まる。そのため賢は非常に居心地が悪い。出たときに絡まれたらどうしよう、ガン飛ばされたらどうしよう、そんな杞憂ばかりが浮かんでしまう。彼は3年だが、ここに集っている不良も3年だ。ということはこの学校で覇権を握っているグループもここを利用するということで、賢はとても憂鬱としながら排泄をしている。
彼が個室から出ると不良たちが一瞬だけこちらを向いたが、すぐに元に戻って談笑を続ける。彼はなんともないのだが、この瞬間ほど周囲に気を配るときは稀だ。
「その点に関しては女子はそういうのないからいいよね」
洗面台で長々と身だしなみを整えている女子のことは周囲からよく聞く話だが、中学校の化粧室は長居したくなるようなデザインをしていないし、業者を雇わず生徒たちに清掃を任せているためあまり綺麗ではない。したがって連れ立って来た女子たちはあまり長く留まらない。
「何かをされるってわけじゃないんでしょ?じゃあいいじゃん」
「いやいや、何かするかもしれないじゃん、不良なんだし」
賢はそうではないが、目をつけられた下級生がいじめにあう事件が昨年に発生していたので、そのことをよく憶えている彼はより気にしている。
「ってことで環境美化委員にどうにかしてほしいのさ」
担当がいるのだからこの問題は彼らが解消すべきだと主張した賢に対し、遥はとんでもない提案をした。
「もういっそ賢が天下をとっちゃえばいいんじゃない?」
「いやいや、無理でしょう。他校にもコネもってるし、なによりOBが束になって襲ってくるよ」
「でも天使よりずっと弱いでしょ。渚と紬を相手にして勝ったんだからそのくらい余裕よ、余裕。なんなら私が加勢するわ」
「遥、天下とりたいの...?」
女子トイレの事情は彼女から聞くしか知る方法がないが、トイレにかかわらず面倒事を多く抱えているようなので、一考の余地はある。その一考は賢がトイレに行くにつれて徐々に重大になり、ついに賢は梅雨をブチ破る勢いの『治安維持部隊』を結成した。
「その戦闘力、もはや人外!総長・桐矢 賢!」
「幼馴染は近接格闘の達人!副長・桐矢 遥!」
「良心は正義のため!柏 満晴!」
「その拳で学園生活を豊かに!栄 典章!」
「お前のりあきって言うんか!」
胸を張った栄弟に一斉にツッコミが入る。そのせいで後続の高松の勢いが消されてしまった。
「えーっと、疾風迅雷!高松 頼!」
これだけで学校最強クラスの組織と言える。5人を前にしたらOB不良のバイクに乗って校庭を8の字でぶっ放す不良たちも黙るだろう。
「ってことで便所の平和を守るぞ」
治安維持部隊の最初の任務は満足いくまで便所を綺麗に掃除することだった。それが先生の目にとまったことで5人は優等生として見られることになり、高校受験が少しだけ有利になった...?




