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俺の周りに天使の輪  作者: 立川好哉
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第53話 湿気と雨の季節

 洗濯機の完了通知が鳴り、遥と葵は洗濯物を籠に入れてリビングに運んだ。霞が家を持ったことで空いたスペースが部屋干しのためのスペースになっている。予報通りに週末はまるごと大雨で、月曜日の学校に行く時間あたりに止むとされている。洗濯係の二人が協力して洗濯物を干し、除湿器を起動させた。夏でただでさえ湿度が高いのに部屋の中まで蒸し暑くなるのは快くない。この除湿器が意外とうるさくて寝ている時は気になるのだが、今は起きて朝食を終えたばかりで寝るつもりはない。外に出られないと退屈だとかつては思ったが、仲間が増えたことで自分の気分で外出することはなくなり、家の中での暇の潰し方がわかってきたので問題ないのだった。賢の部屋のテレビに繋がれていたゲーム機をリビングの大きなテレビに繋ぎ、女子でも楽しめるゲームソフトを買っていて、休日はそれを少しずつ進めていた。

「6月は梅雨で、カビが生えやすくなるらしいよ」

「えっ、私カビ取り剤持ってないよ」

「あおいも夏のことばっかり考えてた!」

 荒地、砂漠、草原、山、雪原など様々な環境が用意された初期マップに家を建てたり施設を建設したりキャラクターを呼んで開業させたりして世界の発展を目指すゲームで、実世界にあるものや現象がゲームにもある。家を建てると素材によってはカビが発生し、カビ取り剤を入手して定期的に清掃をしないと耐久ゲージが減り、ゲージがなくなると家が崩壊し、中の家財を失うどころか崩壊したときに中にいたキャラクターは自動的に病院に送られ、治療費を請求される(病院が建つまでは運よく無傷)。なので季節によって必要なものはその季節が始まる前に買い置きをしておくのが普通だが、リアルでも夏が楽しみな3人は梅雨のことを蔑ろにして夏服やビーチパラソルを買ったせいで金が足りない。

「賢、こっちの世界の風呂は大丈夫?」

「床は昨日やっておいたよ。今日は壁をやりたかったんだけど、乾きにくいから晴れてる日にしようと思ってる」

「ふーん...じゃあゲームの世界のカビが先だね。さて、釣りでもするかな」

「あおいは村人の依頼を達成するね!」

「カビ取り剤無駄に高いんだよな...なんでだろ、独占企業だから?」

 遥のしようとしている釣りは、釣竿を湖、川、海のどこかで餌とともに使うと魚を釣ることができるというもので、魚によって売価が変わる。魚は重要な食料にもできるが、いまは金が欲しい。遥が目指すのはなぜかウナギと同じ売価のアナゴ、釣りついでに海の潜水でとれるアワビだ。

 葵のしようとしている依頼達成は村の掲示板にある依頼を達成して報酬を貰うというもので、報酬は金に限らず装飾品や食料、または村人が管理する場所の立ち入りの権利と実に多様だ。葵は村一番の金持ちの依頼が掲示されていることを期待していたが、金持ちは金の力で解決するので依頼をするのが稀で、逆に貧乏な村人は毎日のように依頼を貼っている。報酬もしょぼい。

 しかしこのゲームには好感度という概念があり、依頼を達成する、好物をプレゼントをする、一緒に遊ぶなどの行為で上げることができ、その度合いに応じて報酬が増減したり、思わぬときの助けになったりならなかったりする。面倒事の苦手な葵だが、貧乏なキャラクターの中で贔屓にしている人がいた。川から水を汲んで村に届ける事業をしている会社で働く女性・キャシーだ。彼女の依頼は運搬の手伝いや彼女に代わって会社の上司へ料理をつくること、通路の整備などであり、会社が絡んでいるおかげで報酬が比較的高い。しかも必ず水をくれるため、生活のためにわざわざ汲んでくる必要がない。

 このゲームの説明書はとてつもなく長く、電子取説(オンラインで閲覧できる)でなければパッケージよりはるかに分厚くなってしまうくらいのボリュームがある。リアル生活について説明を書け、と言われたら大百科くらいの厚さになるのだから、ゲームでそれに似たことを楽しめるこの作品のそれは分厚くならないはずがない。


「いくら稼げたー?」

 3人が集まって稼ぎを集計した。各々いい成果をあげていたが、3人分を集めてようやく向こう1年をカビ無しで越せるくらいのカビ取り剤を買えるくらいだった。

「カビ取り剤1個二千ナバール(通貨単位)は絶対おかしいよ。誰か独禁法を施行してくれ」

 各々の正義と仲間意識で秩序を形成しているこの世界において監視者や統治者は存在せず、法というものがない。だから仲間がいない時に家に侵入して金品を強奪してもよいのだが、なぜか村人は警察犬並みの嗅覚を持っていてすぐにばれる(違うセーブデータで試した)。

 カビ取り剤を買うことが一つの大きな目的であってそれを達成したので今日はここまで。リアル生活でも気にしなければならないことがあるのではないかと余計な心配を抱き、賢はその果てにカビ取り剤の詰め替えを買わなければいけないことを思い出した。

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