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俺の周りに天使の輪  作者: 立川好哉
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第35話 自己暗示法

 「まずい!」

 賢は背後のチャクラムを斬った。軌道が変わり、固まった遥の横を通り抜けたチャクラムは男の手に収まった。

 「俺のしぶとさは知ってるってわけだ。じゃあ動けないやつを狙って俺を封じるんだな」

 「お前を殺せれば他の誰を殺してもよい。順番は問わん」

 賢は溜息をつき、霞の悦楽腕を彼女の股の間に挟んだ。その右側に立ち、素早く飛来するチャクラムを待った。

「今だ!」

彼は素早く霞の左側に移動し、悦楽腕の石突寄りの柄を思い切り蹴った。すると蹴った方向と逆に振れた槍の穂がチャクラムに当たり、快音をたてて引き裂いた。『てこ』を利用して大きな圧力をチャクラムに与えることで、高速回転するチャクラムの耐久を突破したのだ。これが可能であると賢が確信したのは、悦楽腕のほうが霧姫より切れ味がよいと思ったからである。それは純粋に天使の位が高かった霞のほうがよい武器を持っているだろうという想定に基づく。圧力は力を受ける面積が小さいほど強くなるので、切れ味が鋭いほどチャクラムを破壊しやすくなるということだ。あと、槍のほうが蹴りやすい。

 一つチャクラムを壊したことで相手の攻撃間隔が大きくなり、賢は回避の頻度を減らした。相手は遠距離攻撃がこれ以上賢を苦しめないと見たか、体術戦法に切り替えて迫ってきた。同じ速度で来るならばゴルフボールよりバスケットボールのほうが避けにくいのと同様に、小さな渚より男の特攻は避けにくい。ハリウッド俳優のように床を転がって回避すると、筋力にものを言わせた切り返しで翻った身体から繰り出された追撃が襲い掛かる。これをまともに喰らって塔から落ちる―その寸前、霧姫を床に突き刺して引っ掛かりをつくると、それにしがみついて落下を逃れた。脚の先ははみ出たが、彼の重心はまだ床の上だ。

 彼が端にいることは、男にとって有利であるとともに、不利でもある。相撲を知っていればわかるだろうが、端にいる相手を押し出そうとする攻撃は躱される危険を持っている。身体が大きく、急制動に大きな力を要する男は殊に気をつけているだろう。しかし賢を端から中へ戻す方法はある。

 「お前からだ!」

 呪縛言が解けたとき最も厄介な相手となるだろう霞を除こうとする。しかしそれは男の最大の過ちとなった。

 「断絶剣!」

 男の腕を浅く裂いたのは、狙われていた霞の悦楽腕だ。男は腕を押さえて目を見開いている。

 「どういうことだ!?呪縛言はまだ解けていないはず...!」

 賢はひくく笑って男に追撃を仕掛けた。それを躱せば渚が、それも躱せば紬が襲い掛かる。気づけば男は塔の淵に追い詰められていた。逃げ場はなく、道を拓こうとすれば刃が首を裂くだろう。

 「呪縛言なんてもんはねぇんだよ」

 「バカな...高位の天使の呪縛言は絶対...」

 賢は葵に霧姫を返し、腕を組んでネタばらしをした。

 「呪縛言は天使に効く、最もラクに相手を封じる方法だ。でもそれは魔法じゃなくて」

 賢が息をたっぷり吸う。


 「思い込みなんだ」


 「!」

 ここで漸く遥たちは賢が『特訓』と称して自分たちにさせていたことの正体を知った。

 「天使は産まれた時から使命を与えられ、高位の天使になることだけを考えて生きてきた。自分にとって統治者や高位の天使の言うことはどんなことでも従わなければならず、逆らえば天使でいられなくなる。そこまで”洗脳”されてりゃ疑いなく従うわな。でもどうだ?ここにいる俺の家族のことをお前は見ていて、『天使のままだ』と思ったか?違うだろ。こいつらはもう自分のことを天使だとは思ってないんだよ」

 男の瞳が小刻みに揺れ、全身からは汗が流れ出た。

 「思い込みは解除された。俺の自己暗示法によってな」

 「そんなことが叶うものか...!身体の芯まで天使だったんだぞ!?そんな短期間の訓練だけで解けるような脆弱なものではない!」

 「そうだろう、確かに自己暗示だけじゃ解けなかったかもしれない。じゃあこいつらに別の何かがあって、それが呪縛言を解いたんだよ...まあ、俺はそれもわかってたけど」

 その『別の何か』とは。

 「こいつらは全員俺に惚れてる。今まで統治者や高位の天使が絶対的な存在。今は俺が絶対的な存在ってことだ。試しに俺が何か命じてみようか?従順なのは変わらないから、絶対に俺の命令に従う」

 男は認めがたい事実を飲み込み、人間が示した可能性見たさに軽い頷きを見せた。

 

 「遥、こいつを殺せ」

 

 遥が男を押そうと両手を構え、前方に伸ばしたとき。

 「人間に殺されるくらいなら、自ら死んで天使の誇りを護る!」

 男が自ら後方に飛び退き、その言葉を遺して塔から落下した。最上階の床が示す未来が訪れたことで世界は崩壊を始め、賢たちは閃光に包まれた。

 

 「ファンタジーな夢だったくせに嫌にリアルな戦いだった...」

 賢が深い眠りから覚めると、見知った面々が彼を囲うように座っていた。自分が長い間眠っていたことを知らされ、賢は心配をかけたことを詫び、見た夢のことを語った。

「呪縛言の攻略には成功したんだな」

 「夢ではね...これがリアルでも成功すればいいんだけど、天使さんサイドもはそう簡単にはやらせてくれないでしょ」

 でもなんとなく前向きになれた。


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